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小学4年生、まだ恋愛の感覚がピンとこない時期 『姫乃ちゃんに恋はまだ早い』姫乃ちゃんの空回りおませアプローチあのキャラに花束を(1/4 ページ)

小学4年生のころって何してた?

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小学生で恋に目覚めたのはいつくらいだろう(1巻)

 「ませてる」という言葉は昔からあるものの、最近のマンガを見ているとちょっと意味がピンとこなくなったりします。だってみんな最近の子どもキャラって恋愛とかしまくってない? 読者側の子ども時代より大人っぽくない?

 『姫乃ちゃんに恋はまだ早い』(ゆずチリ/くらげバンチ連載)という作品は、おませさんな女子が主人公。好きな男の子がいて大人に憧れている姫乃ちゃんの、背伸び模様がとってもキュートな作品。読んだら数ページで「ませてる!」という感覚がよみがえるはず。

 要は「『ませてる』か否かって、相対的なものなんじゃないか?」説。「好きな男子がいる女子小学生を描く」として、少女漫画的な世界観でクラスの子たちが恋愛に興味を持ちまくっていたら、ませているか否かは意味がなくなってくる。逆にみんな恋愛沙汰に興味ゼロの中で一人恋に憧れていたら、飛び抜けた「おませキャラ」といえる。

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 姫乃ちゃんの魅力を知ってもらいながら、おませキャラ・背伸びキャラの相対性理論を掘り下げてみます。

おませさん小学4年生姫乃ちゃんが分かるシーン3選

 小学4年生の相川姫乃(あいかわ・ひめの)。ちょっとだけおしゃれに気を遣い頭にお花のアクセサリーをつけている彼女、同じクラスの男子オージこと堂本逢司(どうもと・おうじ)に絶賛片思い中。

 「ちょっと男子!」とクラスで大声を出しておっかながられる系の気の強い彼女は、オージに猛アタックの真っ最中。私は大人びているアピールでオージに畳み掛けるように攻め続けています。彼女のおませアタックを作中から3つほど例をあげてみます。

1:ふたりきりの時間を虎視眈々(たんたん)と狙う

こっそり呼び出し作戦、なかなかの策士……か?(1巻)

 友達の多いオージ。このままではいかんと姫乃ちゃんはあらゆる瞬間を狙ってふたりきりになれる状態を作ろうと画策しています。

 オージはゲームが大好き。彼を体育館裏に呼び出してふたりきりになるため、姫乃ちゃんはスマホゲームをエサに使います。これなかなか小学生なりにはいい作戦。オージもするりと釣れます。

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 問題はここで姫乃ちゃんが出したのが「本気の恋愛アプリ 大人の相性診断」だったこと。ゲーム……? いや広義にはゲームか。これ「オージの気持ちが知りたい」「自分が背伸びしてみたい」「ゲームってよくわからない」の三拍子がそろったゆえの出来事。男の子側から見たらずっこけ案件ですが、「気持ちが知りたい」の部分は、小学生女子らしくてキュートじゃないですか。恋する子たちは占いが大好きなんだよ。

 これは割と空振りな例ですが、あらゆるタイミングを狙ってはふたりきりになろうと頑張る姫乃ちゃん、けなげです。でも小学生って想像以上にふたりきりになるタイミングってないんですよね。

2:少女漫画的セリフを使ってみたいお年頃

人によっては一発で恋に落ちますよねこれ(2巻)

 姫乃ちゃんは大人になりたいという願望がすさまじく強いです。そのためオージに対するアタックはほとんどが「大人っぽい魅力の私を見て」というアプローチばかり。大人から見ればすぐ分かる心理ではありますが、子ども同士だとこの子何をしたいんだろうと謎になってしまう。オージは姫乃ちゃんの言動に対して、よく分からない、と首を傾げるばかりです。

 アプローチの仕方が遠回しすぎる。ドラマや少女漫画に出てくるような、大人の駆け引き狙いなので伝わりづらい。ふたりで動物園に行くことになったとき(この時点で姫乃ちゃんのテンション爆上がり、オージはそこそこ)、ペアのキーホルダーを姫乃ちゃんは買って渡します。分かる、憧れのシチュエーションよな! でもオージは彼女の行動の意味がいまいち分からず。確かに少女漫画的文化に触れていないと、なんでおそろい? となるかもしれない。

 ちなみにこのあと、姫乃ちゃんはかっこつけてコーヒーを買って、苦しむことになります。コーヒーが飲めるかどうかが大人の通過儀礼扱いされる文化はなんなんでしょうね。

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3:自身の成長をアピール

今までの連載の中でも最高に姫乃ちゃんなセリフ(2巻)

 姫乃ちゃんは恋のアピールをする際、必ずと言っていいほど「自分は大人」であることを強調します。恋に恋しているから、というのが最大の理由だとは思いますが、ここは子どもならではの心理、アイデンティとしての「大人っぽさ」へのしがみつきでもあります。大人っぽい自分像を作れば、自信となってオージにアプローチできる。だから子どもっぽいと見られる行動は極力避けようとします。

 そんな彼女でも、価値観はちぐはぐに子どもです。自分の大人アピールとして「ぬいぐるみなしでも寝れるんだからね」と自慢気に話したとき、彼女は自身が爆死していることに全く気づいていません。それを突っ込まないオージは、空気が読める大人だなあ。

 他にも「セクシーな水着が着たい」「つり橋効果でオージをドキドキさせたい」「キスの可能性を考えてリップを塗りたい」など、なんかちょっとずれた「大人」で攻めようとし続けます。大人から見たらそりゃ、かわいらしい恋のお話ですよ。でも小学生男子はそういう女子のことを、「怖い」と感じると思う。

小学4年生のときってなにしてた?

 小学4年生というのはものすごく絶妙な年齢です。個人差はありますが、5年生以上、10歳以上になると女の子は一気に背伸びしはじめて、どんどん恋愛を意識しはじめたりするもの。それこそ女子は「ちょっと男子!」「ほんとに男子は子どもなんだから!」となり、男子は「女となんか遊ばねえよ!」「お前女と仲いいの?やべー!」現象が起きる時期です。

 逆に4年生以下、年齢一桁台だと男女の性はまだ未分化。ある程度気にするとしても、力の差のない楽しいことがあればすぐに忘れてしまう(例・雪遊びとか水遊びとか)。

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男子の目覚めになるのはどっちかってーとこういう子の方なんだよなあ……(2巻)

 大人になりたい姫乃ちゃんの対になる存在として、高岸翼(たかぎし・つばさ)というクラスメイトの女の子が出てきます。彼女は心身ともに第二次性徴期に至っていない、性の目覚めが全く芽生えていない、小学校低学年メンタルの女の子。カードゲームやヒーロー好きな趣味の関係で、女子より男子と遊ぶ方が好き。衣服や髪の毛には全く気を遣わない。木にもすいすい登る。男子からはほとんど女子として扱われません。

 男子グループで行動するオージに付いてまわるため、必然的に姫乃ちゃんと翼は同じ場所にいることが増えます。2人は趣味も性格も全く合わない。翼は、オージも姫乃ちゃんも並列に友達だと思って接しています。

 けれども姫乃ちゃんにしてみたら、翼は「女子」です。オージと一緒にいるのはどうにもやきもきしてしまう。ここが「子ども」と「恋愛に芽生えた子」の大きな境界線です。

 じゃあ完全に男女未分化なのかというと、友達の男子はフォークダンスの際に翼に対して「女子となんか手つなげねー」と発言。こんなときだけなんだかんだで翼を女子として意識してしまっています。普段ずっと一緒に遊んでいるのに!

 翼は幼く、姫乃ちゃんは背伸びしすぎている。けれど周囲は「女の子」だと捉えたり「子ども」だと捉えたりする。このバランスがおそろしく曖昧で、視点次第でバラっバラ。そこがとてつもなく生々しい。

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そのままでいるって、難しいようで簡単(1巻)

 この作品の子どもたちは、丁寧に年相応さを研究して描いています。4年生は大人が思っているよりもはるかに子ども。楽しいことに夢中になり、疲れ果て、わがままを言ったかと思えばケロッと治ったりします。1巻ラストでのプール帰り、セクシーになりたかった姫乃ちゃんも、無邪気に遊んでいたオージや翼も、みんな寝姿は同じでした。それでいて翼が男子の横に座っていないのがギリギリの4年生ラインだと思います。

 だからこそ、姫乃ちゃんの性格は相対的に「ませている」状態として浮かび上がります。オージが鋭い子で姫乃ちゃんのアプローチを全部理解していたら、話は全く違っていたでしょう。でも4年生男子には恋愛沙汰なんて発想の第一にこないし、ゲームや遊びが頭でいっぱいの状態で迫られても意識がそちらにまわらない。まだ間接キッスの概念すらない。そのすれ違いは、姫乃ちゃんをいったん「子ども」であることに引き戻します。姫乃ちゃんを「子どもの成長テンポにリセットする」のは、オージと翼です。

子どもとしての一歩ずつの成長

 この作品で最も成長を遂げているのは、急ぎ足の姫乃ちゃんじゃなくてオージだったりします。彼はおしゃれな服よりアニメ柄のTシャツを選びますし、翼と全力のカードバトルに夢中ですし、特撮ヒーローショーでおおはしゃぎします。元気ハツラツ、とても健康的な子どもとして描かれています。その分、背伸びした姫乃ちゃんのアピールは全然分かっていません。

 3歩くらい飛び越して大人になろうとする姫乃ちゃん。一方でオージは姫乃ちゃんと接することで、いろいろじっくり考えたうえで、正直に自分の言葉で語り、行動するようになっていきます。

全く気取らないことこそが成長(2巻)

 係会議で他の4年生の子たちと打ち合わせ中、廊下で走る人をなくしたいと手をあげる姫乃ちゃん。守らせるため見張りをつけようと発表したところ、「ふざけている」と他の4年生から笑い声があがってしまいます。恥ずかしくなってしまう姫乃ちゃんに対し、オージがさも当たり前のように自然に言った言葉は「ふざけてはいないよね」

 なぜ姫乃ちゃんが廊下で走る人を許せなかったのか。真剣な彼女の思いを、オージは真っ向からしっかりと受け止めます。

 4年生で本音を打ち明け合い、ちゃかさず受け止めるというのはものすごい高度なことだと思います。オージは姫乃ちゃんの真剣な気持ちを絶対無下に扱いません。分からないアピールも、分からないなりに一応は受け取るのも、彼の優しさ。

急がない、焦らない(5巻)

 姫乃ちゃんと2人で自転車ででかけたオージ。帰りは全速力で走りたいところ……ですが、オージは「ゆっくり帰ろう 危ないから」と安全運転を選びました。理由は親に「女の子第一に」と言われ、姫乃ちゃんを「女子」としてしっかり意識しはじめているから。

 それまで姫乃ちゃんのアプローチに気付かなかったのは、彼自身の鈍さ幼さもあるのですが、思考の主軸が自分の損得だったからです。ここから徐々に、姫乃ちゃんのためにどうすればいいのかを彼は考えるようになりはじめます。

 表現として「ゆっくり帰る」というのが大人への一歩として描かれているのが本当にニクい。ゆっくり自分たちのペースで成長する時、しっかりと前に進める。中でも林間学校のシーンは、なぜ姫乃ちゃんみたいな子が地味なオージを好きになるのかがよく分かる、ときめきシーンの連発。オージの中の姫乃ちゃんに対しての感覚が変わりはじめているのも描かれています。

 もっと「子ども」の時間を見ていたい! でもふたりがちゃんと「恋愛」に目覚める様子も見たい。一瞬の輝きである子どもと思春期の間、小学4年生の時間、ぜひ見守ってみてください。

こんなんほれてしまう(5巻)

 ところで、この作品には姫乃ちゃんに多大な影響を与えている人物がいます。姫乃ちゃんのお姉さんです。割とちゃらんぽらんな性格ながらもふわっと大人の女をにおわせる、なかなかの魔性の人。姫乃ちゃんが大人になりたいと思うきっかけであろう人物です。彼女自身は姫乃ちゃんのおませを「まだ早い」とストップをかけてはいます。

 さて作者のゆずチリさんが、30分だけの急なアンケートをTwitterでとりました。わずかな時間なのに集まった票数は3333票。

知ってた

 一番人気なのはお姉ちゃんでした

 やっぱなー! 大人っぽい女性みんな好きなんだよなー! 姫乃ちゃんが目指すわけだよ! 読者層の好みがもろにでる結果になりました。

 リアルでのアンケート結果がくしくも、姫乃ちゃんが背伸びしようとする理由を裏付けたような気がします。なら仕方がない、少しくらいませていてもいい。あとは心が一歩ずつそこに追い付ければそれでいい。無理はせんでな。

たまごまご

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