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6年間の引きこもりは「最高だった」 元“世界一即戦力な男”の作家・菊池良さんに聞く普通な生き方、ヘンな生き方(1/2 ページ)

ヘンな人に「普通/ヘン」の考え方を聞くインタビュー企画。

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 自分と他人が違うのは当たり前のこと。しかしその一方で、世の中には「普通」と言われる人と「ヘン」と言われる人がいます。これはどういうことなのでしょうか? “普通の人”のほうが多いらしいので、本記事では“ヘンな人”に取材。「その人なりの『普通/ヘン』の考え方を伺い、“自分が思うヘンな人”を紹介してもらう→“その次のヘンな人”にまた取材する」という数珠つなぎのインタビュー企画です。

 第1回となる今回は「さすがにこの方の経歴が普通と言われることはそうそうないだろう」という編集部の独断から、6年間の引きこもり経験を持つ作家・菊池良さんにお話を伺いました。2013年に話題を集めた「世界一即戦力な男」の印象が残っている人も多いかも。

2013年に話題になった逆就活サイト「世界一即戦力な男・菊池良から新卒採用担当のキミへ」。この後、Web制作などを手掛けるLIGへの就職が決まったり、菊池さんの半生をつづった上記のエッセイが刊行されたり、菊池さんをモデルにしたドラマが制作・配信されたりした。

菊池良(Twitter:@kossetsu

調理科の高校を退学し、6年引きこもったすえに大学入学。卒業時には「世界一即戦力な男」と題し、人事側からのコンタクトを求めるWebサイトで、ネット上の話題を集めた。その後、就職・転職を経験するも、作家活動に専念するために退職。主な著作は『世界一即戦力な男』『もしも文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一さんとの共著)、『芥川賞全部読む』。

現在の活動に生きている引きこもり経験

菊池良さん

―― まずは経歴のお話から。引きこもり時代のことを伺ってもいいですか?

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 2003年、高校を1年のときに中退したら出掛ける用事がなくなったので、それから6年間は引きこもり。ずっとネットしてました。「18歳までに大検(※)を取得して、大学に入れば帳尻が合うだろう」と。

 今考えると僕の人生は全部それですね。「後でこれをやれば、帳尻が合うから今は大丈夫」みたいな。

※大検:大学入学資格検定。高校に行かずに大学入学を目指す人などが受験した。現在は「高等学校卒業程度認定試験」(高認)に改められている

※ちなみに、大学に進学したのは22歳のとき

―― 当時はどういうネットコンテンツを見ていましたか?

 このころにちょうどYouTubeができたんですよね。当時のYouTubeは“無法地帯”で、マニアックなコンテンツがたくさんアップロードされていました。それを見るのにとても忙しかったですね。多忙な毎日でした。

 それから、ブログもすごく読んでいて、僕が一番ハマったのは「マニアックなニュースを拾ってきては、それに一言書く」みたいなことを毎日していた「赤兜」さん。今で言うところのネットミームを紹介してくれる側面もあって、僕の現在の活動の下地になっていると思います。

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―― 引きこもり時代の経験が今の活動に役立っているんですか?

 そうですね。

 水野敬也さんの「ウケる日記」も読んでましたし、水野さんと古屋雄作さんのネットラジオを聞いたり、そこで出てきたワードは検索して調べたり。そういったインプットが、今すごく役立っている感覚があります。

水野敬也さんは『ウケる技術』(共著)、『夢をかなえるゾウ』などの著者。古屋雄作さんは『温厚な上司の怒らせ方』『うんこ漢字ドリル』などを手掛けている。両氏とも幅広く活動しており一言では説明できないため、詳細はそれぞれのWebサイトなどご確認ください

普通ってなんだと思います?

―― エッセイ『世界一即戦力の男』には、引きこもりだった菊池さんが、その水野さんから直接「大学に行って、まずは『普通』になるんだ。『特別』になるのはそのあとだ」と言われたというエピソードが。この言葉通りになりましたか?

 あ~……普通になろうとしたんですが、なれなかったなぁと思っています。

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―― 普通というのもいろいろあると思うんですが、“菊池さんがなりたかった普通”とはどんなものでしょう?

 高校を出て、現役で大学に入って、新卒で就職して。会社員でスーツにネクタイして、退社後は立ち飲み屋で一杯やって、家に帰ると奥さんがいて……。仕事はなんだろう。少なくともITじゃなくて、何か実体のあるモノを扱う仕事ですね。

 あとは「自分の仕事と自分の意思を完全に切り離した状態が作れる」とか、かなりドラマの影響を受けていますけど「上司に歯向かう」とか。大学卒業後、LIG、ヤフーで会社員として働いていましたが、もっと会社員っぽいことがしたかったですね。派閥争いとか……。

―― なんだか「普通とは何か」「会社員っぽさとは何か」が難しくなってきましたね……。会社員をしている方と会ったとき、こういうところが自分とは違うなと感じる点はありますか?

 他業種の人と会うと、同年代でも「大人だな~!」と思います。まず顔が大人。あれは何なんでしょう、シュッとしてますよね。

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―― 近い業種の会社員の方はどうでしょうか。フリーで作家活動をしていると、仕事で関わるのは編集者?

 編集さんはむしろ自分に近い人種ですね。こう言ったら語弊がありますけど、着古したパーカーが似合うと言いますか。糸がほつれてても気にしないような、そんな方が多い印象です。

 ただ、企画の作り方などで「編集さんも会社員だなあ」と感じることはありますね。

―― どういった点で?

 企画の組み立て方が違いますね。上司に伝わるかどうかが発想のスタートに組み込まれているんです。フリー同士だと「こういうの面白いよね」「面白い! やろう!」みたいな感じなので。「分からないところが面白いね」と盛り上がったり。

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―― 数年前は菊池さん自身も会社員だったわけですが、そのころはご自身でも会社員っぽい考え方をしてましたか?

 ちょっと違ったと思います。それはLIGという会社が変わったところだったので。

 LIG(最初に就職したIT企業)では、PR記事の制作で社長と一緒にハワイに行ったことがあるんですけど、あれは「入ってくるお金を全額使えばハワイに行けるから行った」という。

―― 普通に考えたら絶対NGの企画ですよね。社長も同行してますけど。

 でも、そういう企画にOKが出るような環境だったので、フリーランス的な空気で働いていたと思います。

 その後、「もっとカッチリした会社に行こう」と思ってヤフーに転職したんですが、いざ入ってみたらこちらはこちらで意外と自由でした。「抱いていた会社像と違うなあ」というのはありました。

―― 自分が考える“普通の会社員のような働き方をする普通の会社”って意外とないものなんですかねえ。

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