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“ペリーの人”宮崎吐夢に聞く「Flashの時代」 流行当時は「ちょっと複雑な気持ち」、でも今は――

ペリーFlashの流行を、“本家”宮崎吐夢さんはどう見ていた?

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 2020年12月をもってサポート終了となる「Adobe Flash」。これを振り返る、サントリー「CRAFT BOSS」のスペシャルムービー「クラフトボス『Flash Back Memories』」特設サイト)が12月10日に公開されました。

 「ゴノレゴ」「ペリーのお願い」「人生オワタの大冒険」など、懐かしのFlash作品が次々登場する同CMですが、実は俳優・ミュージシャンの宮崎吐夢さん@miyazakitomu)がナレーションを担当している点も見どころの一つ。「ペリーのお願い」をはじめ、「バスト占いのうた」「ここがあの女のハウスね」など、数々の人気Flashの元ネタとして知られる宮崎さんは、当時のFlashムーブメントをどのように見ていたのか。ナレーション収録直後の宮崎さんに、当時の心境や、思い出深かったエピソードなどをうかがいました。

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(取材・文:池谷勇人)

ペリーがうさんくさい日本語で開国を嘆願する「ペリーのお願い」は、2000年代のインターネットユーザーなら一度は耳にしたことがあるのでは

※取材はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を十分に講じたうえで行っています

複雑な思いもあった「ペリーFlash」

―― ナレーションを収録されてみて、いかがでしたか?

宮崎:収録前は特に気負いもなかったんですけど、CM映像を拝見したらあまりにも感動的で。特に最後のSpecial Thanksの「Flashを愛する、すべての人たち」というメッセージでうるっときてしまいました。「これは……責任重大だぞ」と急に意気込んでナレーションしたら力んでしまったのか、「もうちょっとトーンを落としてください」と言われました(笑)。

宮崎吐夢さん。1992年より大人計画に参加。俳優・ミュージシャン・作家など幅広く活躍する傍ら、1990年代後半には雑誌『TECH Win』の付録CD-ROM内「さるやまハゲの助アワー」で、音声・映像を組み合わせたネタ作品を多数発表。「ペリーのお願い」などいくつかの作品は後にFlash化され、インターネット上で人気を博した。オリジナル作品は、CD「宮崎吐夢記念館」、DVD「今夜で店じまい」シリーズ(全3巻)などにまとめられている。最近の主な出演作は、映画「凪待ち」(2019)、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(2018)など。舞台「ピーター&ザ・スターキャッチャー」(新国立劇場)に出演中。
CM映像より。Special Thanksの最後に「Flashを愛する、すべての人たち」の表記

―― 宮崎さんといえば「ペリーのお願い」が有名ですが、もともとは雑誌「TECH Win」の付録CDに収録されていたんですよね。あの作品がFlashで盛り上がっていたのを、宮崎さんはどのように見ていましたか。

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宮崎:2000年くらいでしたでしょうか。最初は2ちゃんねるで話題になっていると聞きました。そのころPCを所有していなかったので割と他人ごとだったのですが、僕の音源にいろんな画像がつけられて盛り上がっているのを見たときは、ちょっと複雑な気持ちでした。

―― 複雑ですか。

ネタに限らず、自分のDVDや出演作品なども見返さないという宮崎さん

宮崎:ネットで流行った僕がらみのFlashの中には、個人的に正直あまり好みではないセンスの画像や不正確な字幕がかぶせてあったり、「ペリーのお願い」とは関係のない「バスト占いのうた」や「ピアノレッスン」などにも「ペリー」のタイトルや画像を付けたりしているものが含まれていました。それを見たという人から「吐夢さんのペリー見てました」と言われるたびに、いちいちモヤっとした記憶があります。

―― 確かに、ちょっとふざけた字幕を付けていたものもありました。

宮崎:もちろんイヤな気持ちだけでなく、うれしくもあったんですよ。21歳のとき劇団に入って、20代半ばごろから一人の舞台でネタを作るようになって。そのとき細々とやってたのと同じようなことを映像のコンテンツにしてみたら、すぐに広まって反応があったと知って。「自分の作ったものはネットだとこんなに広がるんだ」という驚きもありました。

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―― いまさらですが、あれは当然、宮崎さんには無許諾で使われていたんですよね……?

宮崎:はい。もちろんクレジットもないですし、Flashを作られた一人の方のホームページには「ペリーといえば自分だ」的な文言が掲げられていて。まあ今はどうかわからないんですけど、20年前は特に黎明期ということもあり、無法地帯的なところもありました。それにいちいち目くじら立てるというのも違うのかなとも思っていたのですが、あるラジオ番組でペリーの音源がずっと無許可で使われていて、番組から生まれた「黒船」という洋楽コンピレーションのCDが大手レコード会社から2枚同時でリリースされているのを知ったときは、さすがにこれはちょっとまずいなと。

※TOKYO FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」での出来事。番組内や番組から生まれた洋楽コンピレーションCDでペリーの音源が無断使用されており、最終的には番組内で謝罪し、CDは廃盤となった

―― そんなこともあったんですね……。少し話が戻りますが、そもそも宮崎さんが「TECH Win」の付録CDに関わりはじめたのはどういう経緯だったのでしょう。

宮崎:あれは、しりあがり寿さん監修の「さるやまハゲの助アワー」という毎月10本くらいの動画コンテンツが載っているプログラムだったんですが、当時しりあがりさんの事務所に出入りしていた友人の河井克夫さんから誘われました。僕が一人でネタとか作っているのを見て、「何かやりませんか」と。

―― 河井克夫さん、「今夜で店じまい」などを一緒に手掛けられていましたね。

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宮崎:そうですそうです。河井克夫さんは僕にとって恩人で感謝しかないです。絵も描けるし音楽も作れるし僕が書いたネタや歌詞をイチから一緒に形にしてくれて。河井さんがいなければ本当に何も生まれてなかったです。あと、もう一人。「さるやまハゲの助アワー」のときは、TECH Win編集部に鳥羽ジャングルさんという音楽面で天才的に有能な編集者さんがいて。「あの女のハウス」や「僕の姉ちゃんがAVに」ほか、いろんな曲の音源を作っていただきました。

―― 当時はまだFlashはなかったですよね?

宮崎:なかったかどうかすらわからないです(笑)。僕はそういうネット文化とは無関係に、手書きでネタや歌詞を書いて、それをスタジオで読んだり歌ったりして収録してました。

詠み人知らずでも、Flash文化に関われてよかった

―― 宮崎さんの作品といえば他にも「バスト占いのうた」などがネットでは有名です。他の作品の流行についてはどのように見ていましたか。

宮崎:「バスト占いのうた」は、ちゃんとオリジナルの河井さんのイラストも広まったようなので、「ペリーのお願い」よりはありがたかったですね。カラオケにも入っているので、印税も毎月わずかながら入ってきます(笑)。

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―― 「ここがあの女のハウスね」がきっかけで「WHITE ALBUM2」のアニメにも声優として出演したりしていましたよね。

※「ここがあの女のハウスね」の音源と、ゲーム「WHITE ALBUM」のキャラクターを組み合わせたFlashが流行。これがきっかけで、アニメ版「WHITE ALBUM2」に宮崎吐夢さんが出演したことがあった

宮崎:僕、アニメやゲームにまったく詳しくなくて。「WHITE ALBUM」さんにも特に思い入れもなく、普通に声優仕事として受けたという感じでした(苦笑)。

「ここがあの女のハウスね」の流行についてはあまり実感がなかったとのこと

―― 逆に思い出に残っているエピソードなどはありますか。

宮崎:ペリー絡みでうれしかったことが2つありまして、1つはガラスの仮面ペリー来航というFlash。『ガラスの仮面』の主人公がオーディションを受けるシーンで「ペリーのお願い」をやるというFlashなんですけど、あれはセンスが溢れていて非常に面白かったし、北島マヤさんの口から僕の声が流れたことに感動しました。「ペリー」関連ではそのFlashがダントツで好きでしたね。

―― もう1つは?

宮崎:ブルボンヌさんという有名なドラァグクイーンの方が、「ペリーのお願い」の音源に合わせて「リップシンク(口パク)」のパフォーマンスをやってくださっていたんです。僕は確かブログか何かで知って見に行ったんですけど、それはもう芸としてきちんと面白かったし、お客さんにも大ウケで。当時(2000年ごろ)新宿3丁目の飲み屋に週に1回入られていたので、飲みに行きがてらご挨拶させていただいたんですが、お互い恐縮してしまって(笑)。その後ずいぶんたってから僕の出演した舞台を観に来てくれて、久々に再開したこともありましたね。

―― いい話ですね……。Flashがきっかけで仕事につながったりしたことなどはありましたか。

宮崎:2002年、白元(現在の白元アース)の蚊取り線香のCMでペリーのキャラクターに声をあてるという、割とそのままのお仕事がきました。そのあとすぐ「パワーエイド」という、コカ・コーラが販売しているスポーツドリンクのWeb CMの声をやったり。外国なまりのある日本語の声の仕事は結構いっぱいやってますね。「ZIP!」の「おはよう忍者隊ガッチャマン」のアンダーソン長官とか、「炎の宅配便」のジャーク・ニックとか。もうすぐには思い出せないくらい、たくさんやらせていただいてます。

―― 「塊魂」シリーズの王様も演じられていましたよね。

宮崎:ああ、はいはい。確かシリーズ2作目を作るとき、王様の声とエンディングテーマを両方やってほしいと(※)。他に楽曲で参加していた人たちも豪華で、あれはうれしかったです。歌詞の「やりすぎはよくないけど――」あたりは「バスト占いのうた」の歌詞をもじっていただいて、今でも「塊魂のファンです」と言っていただく機会は多いです

※王様に声がついたのは2作目「みんな大好き塊魂」から。宮崎吐夢さんは最終ステージのBGM「キングオブキングのうた」も担当

―― ……! 言われてみれば、「でかけりゃいいってもんじゃないけど――」のあたりはそのままです。声や歌い方について、ナムコ(現バンダイナムコゲームス)側から何かオーダーはあったりしましたか?

宮崎:特にオーダーとか制約はなかったと思います。もうすべておまかせな感じで。

―― 最後に、宮崎さんから見た「Flash文化」とはどのようなものでしたか?

宮崎:僕がPCを買ったのが2003年だったので、Flash文化には接していなかったんですよね。当時もう30代だったし、そういうのを積極的に摂取する世代でもなかったというか。きっと僕がまだ見ていない面白いものはあるはずなんですけど、今どきの人気YouTuberの魅力を年長者があまり理解できないように、年齢的なターゲットからちょっと外れてしまっていたんだと思います。

―― あまり積極的に触れてこなかったというのは意外でした。

宮崎:ただ、今回のCMのナレーションをやらせていただいたことで、過去のもやもやが帳消しになったというか、浄化された気分です。松任谷由実さんが以前、自分の歌は「詠み人知らずとして残っていってほしい」みたいなことをおっしゃっていて。それを聞いたとき「売れて地位も名声も築いていらっしゃるから、そんな余裕のあることが言えるんじゃないですか」と思ったりもしたんですが(笑)。今日はほんのちょっとだけユーミンの気持ちになれました。僕の名前なんかまったく知らずとも「ペリー」を詠み人知らずとして楽しんでいただいた人が、CM制作のみなさんをはじめ、こんなにいてくださったなんて。僕ごときの過去に細々とやってきたことにも、わずかながら意味があったと思えた瞬間でした。Flashの世界にほんの少しでも関われて本当によかった。今は心からそう思います。

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