「STAND BY ME ドラえもん2」ネタバレレビュー 「大人のび太」は幼稚なダメ人間なのか? 解釈違いにドラ泣きMAX(3/4 ページ)
「幼稚な大人のび太」が生まれたのには明確な理由があった。
同様の精神性は山崎監督の大ヒット作である「ALWAYS 三丁目の夕日」にも見られる。同作は「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲」のフォロワーのように論じられることがある。だが、この2作も精神性としては全くの正反対だろう。後者は過去を懐かしがらせる組織の陰謀からの脱却を描く物語であるが、前者は昔の日本における人情話こそを良しとする作品なのだから。
人情を尊ぶことそれ自体は全く問題ないのだが、今回の「STAND BY ME ドラえもん2」で大人のび太が過去に耽溺してしまうのは、その「ALWAYS 三丁目の夕日」のノスタルジーを全肯定する山崎監督の“らしさ”そのものではないか。
さらに、山崎が総監督および脚本を手掛け、衝撃的なオチにより原作ゲームのファンから大批判を浴びた「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」では、あるキャラクターが「大人になれ」と言う。このセリフを放つのは悪役であるので、山崎監督の本音としてはやはり、その逆の「子どものままでもいいよね」なのだろう。その価値観が、今回の「STAND BY ME ドラえもん2」では幼稚な大人のび太を「そのままでいいの」と肯定する形で浮き彫りになってしまったように思うのだ。
さらなる問題は、子どもののびたが物語の最後に、倒れてきた“忘れん棒”に頭をぶつけて一連の出来事をきれいさっぱり忘れてしまうことだ。これは「大人のび太がこの冒険を知らない」こととつじつまを合わせためなのだろうが、おかげで結婚成就のために奔走した子どものび太もまた成長しないまま、なんの学びも得ないままになってしまっている。ここにも、山崎監督が“定められた運命”こそが良い話だと思っていているのが、如実に表れてしまっているのではないか。
5:まとめ(観賞後に見てほしい映画)
他にも問題点は山積みだ。しずかちゃんが完全無欠の聖女のような扱われ方をしていて、タイムテレビでは1年間失踪していたのび太を待ち続けていたりして、あまりにかわいそうだ。道具の“入れかえロープ”になぜか“意思”が存在していて、時間切れになっても何とか入れ替わった精神を元に戻すのに成功するというのもご都合主義がすぎる。結果的に、大人のび太は披露宴の序盤をまったく体験しないことになっている(子どものび太もその記憶を失う)し、タイムパラドックス的観点からも「あれ?タイムマシンやのび太やドラえもんが同時に2つ(人)存在していないか?」とモヤモヤしてしまったりもする。
冒頭で記したように、本作にも良い点がないわけではない。原作で「悪いなあ、このゲーム3人用なんだよ」などとのび太をハブっていたはずのスネ夫が、大人になってからは“コネ”をのび太の結婚式のために使うという成長をしているのは大好きだ。子どものジャイアンが(直前に怒っていたはずだが)「のび太を殴っていいのは俺だけだ!」と加勢するシーンは原作の「ドラえもんに休日を!! 」(35巻収録)を思い出させて痛快だった。大人のび太が最後のスピーチにおいて、来場していた母と父たちに「あなたたちがライバルです」と対抗心を見せる様も、それ自体は感動的だ。
その上で、もう少しだけでも、(最後のスピーチ以外での)大人のび太の成長や、ちゃんとした大人としての良いところを見せておけば、こんな気持ちになることはなかっただろう。
最後に、「STAND BY ME ドラえもん2」の後にぜひ見ていただきたい映画を3本あげておこう。「マリッジ・ストーリー」「ブルーバレンタイン」「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」である。
どれも「結婚後の地獄」をリアルに描いた作品であり、どこからどう見てもヤバい大人になってしまったのび太との結婚式がゴールとなっている本作の、アフターストーリーとして見られるからだ。結婚は、ちゃんとした大人になってからするべきだという当たり前のことを、きっと再認識できるだろう。
(ヒナタカ)
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