インタビュー

涙がにじみ、続きが読めない―― 震災の記憶を伝える漫画『柴ばあと豆柴太』 書店員が語る、忘れられないエピソード(2/4 ページ)

被災地にゆかりのある書店員さんに取材しました。

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「たくさんのお客様に読んでいただける本だ」と直感

残された柴ばあの悲しみと苦悩

――尾形さんは、新人漫画家の初連載作品である『柴ばあと豆柴太 1巻』を120冊仕入れたと伺っています。

 『柴ばあと豆柴太』発売前に、講談社からゲラが送られてきたんです。通常は送られてこないので、恐らくこれは当店が福島県にあり、震災と関係が深い書店だからだと思っています。

 そのゲラをまずコミック担当のスタッフが読んだのですが、「最初の数ページで泣けてしまって、続きが読めません……」と言ってきたんです。そこで私も冒頭を読んだところ、「この作品は、うまく展開すればたくさんのお客様に読んで頂ける本だ」と直感しました。さらに文芸担当のスタッフにも読んでもらいましたが、やはり「(涙が出てしまい)仕事中には読めません」という感想だったんです。

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――書店員さんたちの直感が、異例の発注へとつながったんですね。

 はい。新人漫画家さんの初連載作品でしたので知名度はありませんでしたが、自分を含めて3人のスタッフの感想と直感を信じ、講談社さんに無理言って、120冊発注することになりました。売り場では、途中まで試し読みできる本も用意したところ、さまざまな年齢のたくさんの人に手に取っていただけました。

残された人間の“辛さと悲しみ”を伝えるエピソード

――印象に残っているシーンはありますか。

 やはり1巻冒頭にあるエピソード、「風景1・おまじない」が印象に残っています。ここにはまだ豆柴太は出てきませんが、残された側の人間の辛さと、悲しみが伝わってくるエピソードだと思います。

風景1 おまじない
柴ばあが孫に教えた“おまじない”

10歳の娘と震災のことを語り合うきっかけに

――作品を読んで、被災された方々のエピソード、被災された経験とリンクするところがありましたら教えてください。

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 震災が起きた10年前、私には当時0歳の娘がいました。しばらくの間は放射能の影響で母乳を与えられない、外で遊べないなど、少なからず生活に支障が出ていたのですが、そんな娘も今年で10歳になりました。

 最近では、娘が『柴ばあと豆柴太』を読んで、「あのときはどうだったの?」と質問してくれるようになったんです。漫画がきっかけで、震災に興味を持ってくれた。『柴ばあと豆柴太』が、娘と当時のことについて語り合うきっかけをくれたことがうれしいですね。

豆柴太の笑顔が柴ばあと町の人を癒やしていく

――世代を超えて、震災を考えるきっかけになったんですね。

 『柴ばあと豆柴太』は豆柴太がかわいく、読みやすいので子どもにも分かりやすい内容だと思います。子どもから大人まで、東日本大震災を忘れないよう、広く伝えていくために適している作品なのではないでしょうか。

(了)

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 2021年で震災から10年。被災地の方たちはあの日から、深い悲しみや傷を背負いながらも助け合って前を向き、力強くふるさとを復興させてきました。各メディアでは「10年の節目」などといわれることもありますが、今回の取材で被災地の方たちの傷は今も癒えていないこと、節目というものが無いことが実感できたように感じました。

 『柴ばあと豆柴太』のような作品を通じて、決してあの日を忘れることなく、この先もずっと覚えておくことが大切なのだと改めて思いました。

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