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初代「バイオハザード」は実は「コマンドー」だったのではないか説を唱えてみる水平思考(ねとらぼ出張版)

ブログ「水平思考」のhamatsuさんによる不定期コラム。今回は「バイオハザード ヴィレッジ」発売にちなんで、初代「バイオハザード」について。

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※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 私は「バイオハザード」が好きだ。

 ゲームというメディアにおけるホラーの金字塔である初代「バイオハザード」、ナンバリング4作目にあたる「バイオハザード4」は特に好きだ。

 ビハインドビューというカメラシステムを発案し、従来のTPSのイメージを一新、かつそれがその後のTPSのデファクトスタンダードとなることでシーンに革命を起こした「バイオハザード4」について語るのはまた別の機会に譲るとして、今回語りたいのは初代「バイオハザード」についてである。

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 私はこの偉大なゲームは、2つの映画の影響を非常に大きく受けていると考えている。

 その映画とは、「ゾンビ」「コマンドー」だ。

 「バイオハザード」がジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」の影響下にある作品だなんてことは当たり前すぎて今さら指摘するまでもないが、「コマンドー」とはどういうことか。そんなことを主張されてもピンとこない人も多いかもしれない。っていうかネットで探してみてもそんなことを言ってる人は私以外に全然見当たらなかった。まあそりゃそうだ。

コマンドー <日本語吹替完全版>[Blu-ray](Amazon.co.jpより)

 というわけで、誰も指摘してくれないのであれば、自分がやるしかないということで、「バイオハザード」がいかに強く「コマンドー」の影響を受けているかについて解説していこう。初代「バイオハザード」が歴史に残る偉大な存在になれたのは、「ゾンビ」と同等、もしくはそれ以上に「コマンドー」の力を借りていたからなのである。

 これを読み終わるころにはきっとあなたは「バイオハザード」と「コマンドー」の両方を再プレイ&再視聴したくなるはず!

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ライター:hamatsu

某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。

Twitter:@hamatsu

「バイオハザード」=「コマンドー」説

 「バイオハザード」というゲームを考えるうえで真っ先に浮かぶ要素といえば、まあ「ゾンビ」なのだが、それに次いで重要な要素が主人公、ジルとクリスが生き延びる術を探し回る「洋館」なのではないかと私は考えている。

 しかし、この「洋館」がなかなか厄介というかくせものなのだ。

 そもそもなんでこの「洋館」にはこんなに謎の彫像とか絵画とか調度品があって、そこにやたらめったらと仕掛けが施されているのか。仕掛けの作動にミスると天井が落ちてきたり、毒ガスがまかれたりなどその辺を徘徊(はいかい)するゾンビ以上の殺気に満ちているのか。まあそれらについては身もふたもないことを言ってしまえばゲームのための仕掛けであって、ドリームキャストでリリースされた「バイオハザード CODE: Veronica」において、その洋館の制作者とその制作意図が語られるなど、一応の世界観的な整合性はつけてはいる。しかし、それでもなお「バイオハザード」の「洋館」はいろいろとおかしい。

 妙に生い茂る植物、ゲームのためとは理解しつつもやたらと多い彫像やら絵画の類い、そして地下に展開される巨大な研究施設……。

 正直、制作者は何を考えてこんな奇天烈な建造物を創造したのか、リメーク版のGC版「バイオハザード」(傑作)含めて何回クリアしたか分からないほどにプレイしながらも「洋館」があんな具合になった理由については理解し損ねていたのだが、つい先日とある映画を見て、その疑問が氷解した。

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 その映画こそが「コマンドー」なのである。

 本作の最終決戦でアーノルド・シュワルツェネッガー演じるジョン・メイトリクスが単身乗り込む孤島の要塞に建つ、最後の敵が待ち構えている「洋館」、これが「バイオハザード」の「洋館」にとにかく激似!

最終決戦の場となる洋館(「コマンドー」より)

 いや、「コマンドー」の方が公開されたのは先なんだからこの言い方はおかしいのだけれども!(ちなみにゲームキューブ版よりも全体的にカラっと明るく原色強めの配色がされているPS版がより似ている)

今にもゾンビ犬が窓から飛び込んできそうな廊下(「コマンドー」より)

 冷静になって考えてみると、「コマンドー」と「バイオハザード」に出てくる「洋館」の類似、これは私の本業がゲームの背景制作ということもあり、自分だけが妙に過敏になってしまっているということもあるのかもしれない。あれくらいの洋館なんていくらでもあるやんけと。しかし、両者の類似は「洋館」のデザインが似てるってことだけにはとどまらない。

 「コマンドー」の劇中において非常に印象的にぶっ放されるM202ロケットランチャー(GC版では形状が変更)、戦闘の合間に訪れやたらと使えるアイテムがそろっている物置部屋、さっきまで「洋館」で戦っていたかと思いきやいつの間にか地下の近代的な設備(恐らくボイラー室)で戦っているという舞台構成、そして「ベネット! 銃なんか捨ててかかってこい!」の名ゼリフとともに始まる「ナイフ」バトル。

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「説明書を読んだのよ」でおなじみロケットランチャー(「コマンドー」より)
最後の一騎打ちはナイフ(「コマンドー」より)

 これらの要素はいずれも「バイオハザード」にも存在する要素である。特にこのゲームにおける最強武器である「ロケットランチャー」と、最弱武器である「ナイフ」は「バイオハザード」というゲームにとって欠かすことのできない非常に重要な要素だ。

 私も当初は「コマンドー」の最終決戦の舞台が、「バイオハザード」の洋館に似ているなんてことは、単なる偶然ではないかと思っていた。しかし、互いの共通点に気付くほどに実は両者には、分かちがたいほどに明確な影響関係があると思うに至った。なぜ「バイオハザード」には「コマンドー」が必要だったのか。それは「ホラー」の抱える本質的な問題点に理由がある。

「ホラー」から「アクション」へ

 「バイオハザード」というゲームは、「ホラー」ゲームであると同時に繰り返しの周回プレイによってまた別の側面が浮かび上がるゲームでもある。

 初見時の「バイオハザード」は、とにかく恐ろしくてしょうがない。序盤で廊下から飛び込んでくるゾンビ犬には誇張抜きで寿命が縮むかと思ったし、ドアを開けるたび、曲がり角を曲がるたびに一々恐怖におののいていた自分を、まるで昨日のことのように思い出せる。しかし、どんな恐怖でも同じ内容を繰り返していると、印象は薄れ、やがて当初感じていた恐怖はまるで感じられなくなる。私も2週目を遊ぶころには、なんのちゅうちょもなくゾンビを撃ち抜き、スルー可能な敵に至っては一瞥(いちべつ)すらくれずにその場を速やかに立ち去るようになった。

 「バイオハザード」が抱える「ホラー」ゲームとしての最大の問題点、それは当初はとにかく恐ろしかったさまざまな仕掛けに「慣れて」しまうことである。そして、「バイオハザード」というゲームが非常にしたたかだったのは、「ホラー」として売り出しながら、実は「ホラー」だけのゲームでもなかった点にある。

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 プレイ当初に感じていた恐怖心がやがて消えたとしても、早解きプレイや、縛りプレイのような形で別の面白みが見いだせ、「ホラー」としての側面が消失したとしても、そこから歯ごたえのある「アクション」としての側面が浮かび上がってくる。この事実こそが「バイオハザード」を歴史に残る傑作たらしめているのである。そして早解きプレイでクリアまでに3時間を切ることで得られる報酬が「ロケットランチャー」であり、縛りプレイで主に用いられる武器こそが本作の最弱かつ無限に使用可能な武器「ナイフ」なのである。

 つまり、「バイオハザード」とは、「ゾンビ」から始まり、その恐怖を克服した先に「コマンドー」が待っているゲームなのである。当初は迫る脅威に心身共に翻弄(ほんろう)される一方だったプレイヤーがやがて、ジョン・メイトリクスばりに手際よく無情に敵を処理する戦闘マシンに変ぼうしていく過程を体験できるゲーム、それが初代「バイオハザード」というゲームの正体なのだ。

映像表現の本質を「体験化」する

 ここまで「バイオハザード」と「コマンドー」の関係ばかり言及してきたが、「バイオハザード」は「コマンドー」のみに影響を受けていたわけではない。ゾンビや巨大サメが登場して暴れまくる時点でジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」やスティーブン・スピルバーグの「ジョーズ」に代表される、世に数多あるゾンビ映画、サメ映画の影響は間違いなく受けているだろう。

 「バイオハザード」とは、このような70年代から80年代にかけてのさまざまなホラー映画、アクション映画の流れの先に存在するゲーム作品であることが疑いようがない。

 このような元ネタ探し的なことを言っていると、まるで私が「バイオハザード」がパクリの上に成り立っている作品だとおとしめているように思う人もいるかもしれないが、そんなことは全くない。

 むしろこれだけさまざまな作品からの影響を受けながら、それが単なる要素の羅列に終わらず確固たるオリジナリティーを確立しているからこそ「バイオハザード」は偉大な作品なのである。っていうか「ゾンビ」と「コマンドー」を合体させて両方の魅力を「体験」として堪能できるゲームを作るって、マジでとんでもない手腕としかいいようがない。

 その映像表現などからしばしば映画的なゲームの代表ともされる「バイオハザード」の凄さとは、「ゾンビ」や「コマンドー」「ジョーズ」などといったさまざまな映画作品から影響を受け、それらの内容を消化しつつ、ゲームとして見事に「体験」として昇華することに成功している点にある。

 特に初代「バイオハザード」は、画期的な恐怖体験をプレイヤーに提供することに成功している時点で傑作確定であるにもかかわらずそこで満足せず、恐怖にはやがて「慣れる」という根本的な問題点ことまで見越した上で、その対応策としての「コマンドー」要素を導入するという慧眼には驚くほかない。

 「バイオハザード」シリーズとは、「ホラーゲーム」として始まったシリーズであると同時に、その恐怖が消失した後にどうするかという命題に向き合い続けてきたシリーズでもあると私は考えている。「ホラー」と「アクション」の相克にこそ、このシリーズの本質があるのだ。

 「コマンドー」の上映時間は91分(短い! そしてちょうどいい!)であるが、初代「バイオハザード」はやり込めばそれより短い時間でクリアすることも可能だ。この境地まで達すればあなたはすっかりジョン・メイトリクスばりの殺人(殺ゾンビ?)マシンと化して謎の洋館を駆け回っていることだろう。「バイオハザード ヴィレッジ」をクリアした後などにオススメしたい。

 ちなみに今遊べるゲームキューブのリマスター版「バイオハザード」(※)はPS版をやり込んだ人でも普通に怖いので初代をやり込んだ人ほどオススメです。

※編注:PS4、Xbox one、Switch、Steamにも移植されています

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