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クジラの爆発を回避しつつ、体液にまみれ解体作業―― 海獣学者の知られざる日常をつづった本を漫画レビュー

漫画家・長谷川ろくさんの漫画レビューで魅力を紹介します。

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 2021年7月21日、山と溪谷社から『海獣学者、クジラを解剖する。 ~海の哺乳類の死体が教えてくれること~』が発売されました。同書は海獣学者の知られざる日常と海の哺乳類の生態を紹介する科学エッセイです。

『海獣学者、クジラを解剖する。 ~海の哺乳類の死体が教えてくれること~』

 著者は、国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹で、海棲哺乳類のストランディング(海棲哺乳類が岸に打ち上げられること)の原因を病気という観点から研究している田島木綿子先生。日本一クジラを解剖してきた研究者です。

 ねとらぼ生物部ではこれまで、研究施設の貴重な“ウラ側”や同館を支える“必殺仕事人”を取材を通して紹介してきました。今回は、「クジラは爆発する」「体液にまみれ異臭騒ぎ」など、驚きのエピソードがいっぱいの同書の魅力を、漫画家・長谷川ろくさんの漫画レビューとともにお届けします。

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クジラは爆発するんです……!

田島木綿子

国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹。筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授。博士(獣医学)。とっても気さくでチャーミング。

長谷川ろく

漫画家。『KEMARI』でデビュー。各SNS(hasegawa_roku)にて「こねこのドレイ」「父よきらめく事なかれ」などを更新中。猫と心霊動画が好き。

「海獣学者 クジラを解剖するを読んで」長谷川ろく

あとがき

 こんにちは、堅い本は苦手な長谷川ろくです。普段は愛猫2匹を愛でながら漫画を描いて暮らしています。今回、ねとらぼ生物部さんから「本の漫画レビューを描いてほしい」とお願いされて、「クジラについての専門的な知識はないけど大丈夫かな……」と思いつつも、「それでもいただいた仕事だから」と気合いを入れて読んでみました。

 “海獣学者”という職業に「メガネクイッ」な印象を持っていた私。正直、同書のタイトルから堅そうな印象を持ちました。しかし、各章のタイトルは「ようこそ、シャチのお見合いパーティー」や「野生のアシカの群れは凄まじく臭う」など、なんだかコミカルなタイトルばかり。とても気になります。

 各章では海の哺乳類の生態が、著者の“クジラ愛”にあふれた視線で丁寧に紹介されていました。例えば、“クジラやイルカは私たち人間と同じ哺乳類”であること。クジラやイルカは私たちと同じように陸に上がり生活していたのに、何らかの理由で海に戻り生き延びていったのです。

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 著者はその理由や、海の哺乳類がかかる病気を解明するべく、ストランディングしたクジラを解体しています。ストランディングはいまだ謎が多い現象。環境汚染物質が海の哺乳類に与える影響のお話は、私たちの環境への意識について考えさせられます。

海獣学者は超ガテン!!

 さらに同書には、“もう一つの生き物”の生態についてコミカルに紹介されています。その“もう一つの生き物”とは、海獣学者! 私は同書を読んで、海獣学者の生態にとても興味を持ちました。

 学者というと研究室にこもっているイメージがありますが、実は海獣学者はとにかく体を使う仕事。もちろん論文を書いたり、剥製を作ったり、博物館の展示を企画したりと、中の仕事も大忙しなのですが、「クジラが打ち上がったよ!」の電話1本で、日本全国どこへでも駆け付けます

 そして、海獣学者もしょせんは人間! 会議を抜けて打ち上がったクジラの調査に行きたいジレンマに駆られたり、解体作業で失敗しないように緊張したりする姿には、私とはかけはなれた職種であっても親近感が湧いて、応援したくなってしまうのです!

海棲哺乳類の“100年後の未来”を考えるきっかけとなる1冊です

 同書は理系ではない人や、クジラのことをあまり知らない人にとっても面白い本だと思います。クジラの生態について分かりやすく説明してくれる上、著者の熱意や苦闘、そして深い“クジラ愛”が伝わり、好奇心とイメージが膨らみました。愛って伝播(でんぱ)するのですね~

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 私はその熱意に触れて、環境への意識が少し変わりました。著者がこんなに一生懸命に海のことを考えているなら……私も何か考えたい! 少しでもいいから! と胸が熱くなり、食器用洗剤を環境に優しいものへ変えました。同書は、漫画を描いているだけの私の意識をも変える1冊でした。

ストランディングの連絡先

(編集/構成:あだちまる子

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