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インターネットエンジェルがあなたを救ってぶん殴る 強烈すぎる傑作「NEEDY GIRL OVERDOSE」に心をかき乱された「NEEDY GIRL OVERDOSE」レビュー(1/2 ページ)

優しい人にはオススメできない劇薬だけど、今の時代だからこそ遊ぶべき。

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 インターネットは、いつから暴力性に支配されるようになったのでしょうか。人が人を動物園のような見せ物として扱ってしまうのはなぜなのでしょうか。他者を徹底的に追い詰める姿を見るのは苦しくないでしょうか。インターネットは、暴力と憎しみが渦巻く地獄になってしまったのでしょうか。もしかして、本当はみんな誰かを傷つけることに疲れているのではないでしょうか。

 きっと僕たちは、インターネットに救われたいと思っているのかもしれません。ネットに傷つき、悩み、苦しんだとき、彼女はいつもそこに微笑んでいます。インターネットエンジェル・超絶最かわてんしちゃんが、いつもそこにいるのです。え? なんの話なのかって? もちろん、1月に出た「NEEDY GIRL OVERDOSE」Steam)の話ですよ。はい。私、このゲームを遊んだらめちゃくちゃに刺さってしまい、心を引き裂かれてしまいました。

「NEEDY GIRL OVERDOSE」

 優しい人や傷つきやすい人には痛みが強い作品だと思うのですが、逆に今のインターネットに苦しんでいる心優しい人に向けた部分もあり、なんともオススメしにくいゲームでもあります。でも、ハッキリ傑作と言い切れるのは間違いありません。インディーゲームの歴史に残るであろう名作ですし、薬物描写や性的描写。リストカットなどの自傷描写。きつい表現も含めて、恐らく家庭用のコンソールでは配信しにくい問題作でもあります。だからこそ、今のうちにSteamで遊んでほしい。今回は、そんな「NEEDY GIRL OVERDOSE」を全力でプッシュしていきます。明らかに、私以外がレビューを書いたほうが深いことまで掘り下げられるとは思うのですが、書きたいので書くんだい!

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ライター:するめ(以下)マン

最近疲れすぎているライター。癒しを求めて心が温かくなるような作品を遊ぼうと思っていたのに、なぜかヤミが深い本作にハマって、さらに深く傷ついてしまった。

併せて読む:「NEEDY GIRL OVERDOSE」関連記事

 

承認欲求強めでメンヘラ気質なあめちゃんと過ごす30日間

 「NEEDY GIRL OVERDOSE」は、顔面最強の女の子・あめちゃんとなり、インターネットエンジェル・超絶最かわてんしちゃん(超てんちゃん)に変身した彼女を最強の配信者にしてあげることが目的の最強配信者育成シミュレーション(公式のジャンルは、マルチエンディングADV)です。目指すは100万人以上のフォロワー!

 あめちゃんのパラメータや、それまでに取った行動などで変わる20種類以上のマルチエンド。毒というかおくすり成分強めな物語。超てんちゃんが人気配信者になるのも納得なキレッキレのコメント返し。平成初期から令和まで、インターネットの光と闇と病みと悩みと苦しみを詰め込んだような作品は、唯一無二で衝撃的です。なんか、陰の要素のほうが多くないか?

アンチのスパチャに対する超てんちゃんの返しがうまい。リアルタイムでコレができるキャラなら自分だって見ちゃうかも

 内容的にヤミが深すぎるので、ゲーム開始時の警告文もアップデートで増えたくらいキテます。多分、優しい人や真剣に受け取ってしまう人ほど心にウっとくるんじゃないかと思うんですよ。ある程度、悪趣味を許容できる人や露悪的だと思っている人なら気にせず遊べるのですが、むしろ優しい人にこそ遊んで欲しい作品でもあるので、まあ悩みますね。オススメしたいけど、しにくい!

アップデートでゲーム開始時の警告文が増えている!

 今のインターネットに傷ついている人ほど遊んで納得できる内容ですし、悪趣味なだけではなく優しい部分も垣間見えます。一度地に堕ちた他者を死ぬまで追い詰めるようなネットの暴走に心を痛めている人も多いはず。そういう世の中だからこそ、われわれは超てんちゃんを求めているのかもしれません。そして何より、そもそも育成シミュレーションとして面白いですからね。ゲーム部分が、まっとうに良くできています。

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 イベントもクスリと笑えたり、ドン引きしたり、ドンドン引き引きに引いてしまったり、見てて飽きないものばかり。あめちゃんがSNSのぽけったー(Twitterみたいなやつ)で裏垢と表のアカウントを使い分けて毒を吐く強烈な表現から、JINE(ラインみたいなやつ)を既読無視や未読でスルーするとブチ切れる要素まで、メンタルを病んだ女の子と30日過ごすシミュレーションとしても斬新です。誰かTwitter2をくれ! 優しいインターネットに逃げたい!!

未読スルーに怒るJINEがだんだんうざくなってきて、スタンプを連打したらガチ切れされました

 ゲームのシステム自体も、かなり分かりやすく整理されています。増減するパラメータも3つとシンプル。ストレス、好感度、やみ度の3つのパラメータが限界を越えないように調整しつつ、夜に行う配信でフォロワー数を増加。配信のネタを求めて日中や夕方に行動することが基本です。ゲームを遊んでみたり、びょういんにお出かけしたり、えっちなことをしたり、いけないおくすりをキメたりしながら、数値を調節していく分かりやす~いゲームですね。パラメータの種類も少ないですし、どの行動を取り続ければ分岐するのかも遊ぶうちに分かる……えっ、そこじゃない? 行動そのものがおかしい?

キメてる

 いやだなあ。配信者というのはストレスがたまるものじゃないですか。たまりにたまったストレスを下げるためには、えっちなことや危ないおくすりに頼るときもあるのです(※編注:あくまでゲーム中の話です!)。もっとも、ストレスを下げて健全な体を取り戻すなら1日何もしないでグッスリ寝たほうが健康的ですし、やみ度を下げたいならびょういんに行くのが一番だったりもします。びょういんに行けばやみ度がガンガン下がっていくので、メンタルを病んだら無理せずびょういんに行こうというメッセージがあるのかもしれません。

 パラメータが限界に近づくと、大体においてろくなことになりません。ストレスが限界まで行けばリストカット! 好感度が高すぎても、好き好き大好き配信なんてやらな~い! と本末転倒になっちゃう。おくすりをキメすぎたらあっちの世界にイっちゃいますし、えっちなことにもハマるのも良くない傾向です。逆に、パラメータを下げすぎて心身ともに普通の人になったからと言って、それが良いのかと言われれば分かりません。適度な負荷は人間にとって必要なのです。でも、それはそれで1つの幸せなのかも。このゲームのマルチエンドは、見方を変えればどれもバッドエンドであり、見方を変えればどれもハッピーエンドなのですから。

 

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行動によって変わる、多種多様なハッピー(?)エンド

 そうなのです。このゲームは普通の育成シミュレーションではないので、エンディングも普通ではありません。メンタル病みまくりのあめちゃんをなだめすかし、元気づけながら配信を続ける過程はもちろん、20種類以上のマルチエンドがどれもキレてます。

 やみ度を下げ続ければ真人間になりますが、それはあめちゃんに取ってハッピーエンドなのかは分かりません。プレイヤーにとってハッピーでも、あめちゃんに取っては不幸といえるエンドもあります。逆に、プレイヤーに取っては辛くてもあめちゃんに取って最高の終わり方もあるのです。陰謀論にハマって狂ってしまうのだって、見方を変えれば幸せかもしれません。フォロワー100万の最強配信者が一応の最終目標ではありますが、本作は別にそれが目指すべき真のエンドとか、完全無欠のハッピーエンドでもないのです。どのエンドも等価値。20種類以上のマルチエンド全てが、等しくエンディングでゲームオーバー。どれも同じ扱いです。作品が訴えたいことも、全てのエンドを見ないと完全には飲み込めないでしょう。見ても飲み込めるかどうかは分かりません。だからこそ、どのエンドが良かったのかはプレイヤーによって異なります。最強の配信者を目指しつつ、全てのエンドを求めてあめちゃんがボロボロに壊れるのを見守る……ヤミが深い作品です。

 どれもこれも、簡単にハッピーやバッドではくくれません。人によっては良い意味でも悪い意味でもぶっ刺さりますし、感受性が高い人や心優しい人ほど傷ついちゃうかも。とくに、ストレスをため続けた末に訪れるエンドの1つ「INTERNET OVERDOSE」は、最悪。壊れたあめちゃんをどこまでも追い詰めて、笑いものにする展開には目まいがします。あれだけ持ち上げていたインターネットが敵になり、牙をむく。他者を追い詰め悪意をぶつけ、スッとする人々がいる世界をこれでもかと見せつけてくるのは恐怖しかありません。

 でも、これって現実の方がひどい話が多いんですよね。ゲームのインターネットよりも現実のインターネットの方が、ゲームオーバーになってもエンディングを迎えてもやり直せないので、より救いがありません。このゲームは、ある意味でホラーゲームではあるのですが、現実の方が残虐でグロテスクだったと気付かされてしまう自分に驚き、ゲームで良かったと胸をなでおろしました。やり直しができて、あらゆる可能性の世界を見られるゲームは、なんて救いのある世界なのだろうと……。

版権的な問題とかで移植されていなさそうな感じのホラーゲーム配信で、さらっと真理をついてきたあめちゃん

 あめちゃんと一緒に過ごす30日間は、彼女に依存されながら何度も繰り返し遊びたくなる麻薬的な魅力に満ちています。心痛む展開に悩みながらも、新しいエンドを見たいので、わざと鬼畜な行動や選択肢を取っていくのにも慣れていくでしょう。

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 そうやってあめちゃんと暮らすうちに、自分自身も彼女に依存しているような奇妙な感覚さえ抱きます。とってもよくない共依存ですね。でも、それって悪いことではないのかも。エンディングを迎えるたびに皮肉なひと言が出ますが、それ自体もクリアすると納得できちゃいます。依存することも、弱いことも、逃げることも、誰かが誰かを傷つけることも、それは人間が人間である限り、どうしようもないことだから。そこに善意があっても悪意があっても、インターネットはただそこにあるのです。

 さまざまな示唆に富んだ素晴らしいゲームではあるのですが、一部のイベントがたまにバグだと思われているくらい発生条件が分かりにくかったりすることや、実際にバグっぽい挙動もあることなど、欠点もあることはあります。

 とはいえ、これらはアップデートで改善が続けられているので心配無用。とがり過ぎたゲーム性と合わさって、不具合なのかが分かりにくいんですよね。ぽけったーの更新を見ないと翌日に行けない場面など、仕様が誤解されている面もあるため、新しいゲームすぎて理解が追い付いていない部分もあるのでしょう。

 また、あまりに解像度が高い“僕らが愛したインターネット感”が盛り込まれ過ぎていることと、あめちゃんのキャラクター性にどうしてもシナリオ担当のライター・にゃるらさんを強めの幻視で見てしまうので、そこも人によってはマイナス点かもしれません。ネットにどっぷり漬かりすぎていると「Vtuberにゃるら物語」に見えかねないところもあるので、遊ぶときは、まずにゃるらさんの存在を記憶から消し飛ばしましょう。最初から、にゃるらさんのことを知らない人なら大丈夫。クリアしたら検索してね。

 取り扱っているテーマも、センシティブな表現も、それをエンターテインメントとして昇華する悪趣味さも含めて、本作は決して万人にオススメできません。それでも、ゲームとして新しい体験が待っていますし、プレイヤーを傷つけるだけではなく、そこには救いも優しさもあると思います。それに何より、本作が持つ強烈なパンチ力は今の時代だからこそ刺さるものなので体験しておくべきものです。影響されすぎず、刺さりすぎないように気を付けつつ、遊んでみてください。

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