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間違っていたって構わない、だから言語解読アドベンチャー「7 Days to End with You」は今の時代に遊ばれるべき傑作ゲームなのだやや最果てエンタメ観測所(2/3 ページ)

『解体新書』を翻訳した杉田玄白や前野良沢の気分になれるゲーム。

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考えれば考えるほどよくできているゲームコンセプト

 かくも新しいゲームではあるが、あえてプレイ感覚を他のゲームに例えるなら、「Return of the Obra Dinn」というゲームに比較的近いものがあると感じた。

「Return of the Obra Dinn」もこれはこれで傑作ゲーム

 

 「Return of the Obra Dinn」は、時を巻き戻せる保険調査員となって、消えた船の乗組員の死因を推測するゲームだ。本作を進めていくうちに生まれたインプレッションは、「まるでこれ『オブラディン』のギャルゲー版みたいだな」だった。

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 だが、そんなこのゲームのシステムとコンセプトが実に巧妙にできていることに気付いたのはそれからだ。

 語学学習においてよく言われることがある。それは、「言語習得への一番の近道は、外国人の恋人を作ることだ」、という言説だ。なぜなら、人は自分が耳を傾けたくなる相手の言葉であればこそ、その言葉の意味を読み解こうと必死になる。

 そういう意味では、明らかに自分に好意を持ってくれているらしい女性との日々の繰り返しは、「言語を読み解かせる」ゲームのアプローチとして舌を巻くほど完璧だったのだ。すごいぜ。

ときに頬を染めながら受け答えしてくれる様子がまたかわいい

 

 そして、このゲームにはもう一つの大きな特徴がある。主人公が絶対に7日間で死んでしまうことだ。そう、ゲームのタイトル「7 Days to End with You(君と終わる7日間)」はそういう意味だ。最短であれば、数分でこのゲームの一サイクルが終わってしまうこともあるだろう。

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 それからまた物語を一から繰り返していく。その周回の中で、何度も自分の認識は覆され、単語の訳はより正解だと思われる言葉に書き換えられていく。この「認識がひっくり返される」体験も、パズルのピースがハマるのと同じぐらい気持ちいい。

 さらに、そんな自分の認識がひっくり返される「どんでん返し」体験は、単語レベルだけでなく、ゲームを貫く「物語」自体にもいくつか存在する。いや、正確に言えば、真実は最初から「そうだった」のに、それにプレイヤーが気付いた瞬間、世界の認識がひっくり返るのだ。その体験の前後で、目の前の彼女が話している言葉がまるで違った意味を持って聞こえてしまうこともあるだろう。その事実に、ゾッとしたり、グッときたり。そして、当然ながら「知ってしまった」真実を元に戻せない以上、人生で一度しか新鮮に楽しめないネタバレ厳禁のゲーム、ということにもなる。このあたりは、筆者が愛するゲーム「Outer Wilds」にも通ずる感覚がある。「Return of the Obra Dinn」や「Outer Wilds」が好きな人が好きかもしれないゲームって聞いただけでもう刺さる人には刺さるはずだ。

 

それでもある、いくつかの難点。暗号的解法の功罪

 とはいえ、まるっきり難点がないわけでもない。強いて言えば、ゲームがとても難しい。特に、「異なるエンディング」を見るための条件というものがかなり厳しいかなと思った。詳細は省くがこれ、言語の完全な理解がエンディングの分岐に直結するわけではないのだ。また、終盤の選択肢を試したいのに完全に7日間を終えるとセーブデータが初日に戻ってしまうのも、ささいではあるが絶妙に周回する気力を削いでいった。

 筆者はある程度納得のいくエンディングまで見て、大体もう単語が置き換えられることもないし自分なりの物語が組み立てられたかな、というところで心が折れて攻略ヒントを検索してしまったが、正直これノーヒントで全エンディングを見るのはかなりきついな……と思った。せめて、もう少し導線を作ってほしかった感じはある(一応、筆者がプレイしたVer1.1.03時点での意見です)。

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 また、実はこのゲーム、単語の意味を「文脈」から推察する以外にも、「文字」の法則性に気付いてさえしまえば、いわゆる「暗号」を解く要領で完全に確定させることもできる。

 個人的に言えば、そのようにも解けてしまうことは少しだけ残念だと思ってしまった。いや、そうやって解けることが楽しいという人ももちろんいると思うのだが、それよりも憂いているのは、自力で頑張って解いた人がクリア後にそれらの「解答」を確認し、自分の作り上げた「物語」をより正しいと思われるものに「矯正」してしまうことだ。

 本来、このゲームは100人いれば100通りの物語ができるはずのゲームである。翻訳した単語の違いによって生まれるプレイインプレッションの差異は、プレイヤーごとに全く違う景色を見せるはずだ。目の前の人物が主人公とどういう関係性なのか。一体、何が起きてこの状況に至ったのか。その他、キャラクターの属性、性格、名前、果ては倫理観まで、これは真実よりもその「間違い方」にこそ価値があるゲームだ。

 というより、そうやってプレイした方がきっとプレイ後トークも楽しいと思う。プレイヤーが作り上げた唯一無二の「単語帳」を公開するのも楽しいだろうし、「あの単語何て訳した?」とか「『彼女の名前』何にした?」などという会話も盛り上がること受け合いだ。

誰が何と言おうが筆者の中ではこのゲームは「あかげ」と「すなぎ」の物語だ

 

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 そして、それを促すためか、このゲームは始まるときにこんなメッセージを伝えてくれる。「貴方が感じ、受け取った全ての物語は、全て正しいでしょう」。

ゲーム冒頭の一節

 

 この言葉が、全てだ。なんて優しい文言なんだろう。自分はこの言葉だけで、これは愛するに足るゲームだと思った。

 

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