ゆるふわ女子の日々を眺めながら、凄惨な中学生の悲劇を追う 2回目の「Project:;COLD」は情報量マシマシ、エモさマシマシ:あのキャラに花束を(3/5 ページ)
謎解きに必要な情報もノイズも、制作者の愛でいっぱい。
異様な生々しさの「惨劇の中学生集団死亡事件」ルート「case.633」
今回はみやまんの子たち視点だと、誰かがリアルタイムで惨劇に巻き込まれる、というのはテレビやネット越しの距離のある話題として描かれています。そこに顔を突っ込んだせいで前回は命の危機にハマったのですが、今回は顔を突っ込んでいません。
なので、みやまんの話と、今回話題の軸になるCase.633「惨劇の五芒星事件」は、直接的にはつながっていません。みやまんを追わないで惨劇事件だけ見ても、理解できる流れの構成です。
2022年3月16日(つまり「case.633」でみやまんが動いている最中)、茨城県水戸市の漆ヶ原中学校屋上で、中学生男女5人がお互いを刃物で刺し合って意識不明の重体になるという血生臭さとやりきれなさMAXな事件が起きます。
これについては、みやまんメンバーは「ニュースで見た」止まり。そこに興味を持ったC@未来人大好きさん(@C_SuperHacker) (以下「C」)が登場。佐久間ヒカリに接触し、チャンネルを借りて今回の事件の調査をさせてほしい、と言い始めます。これで「みやまんチャンネル」は、実質「C」が間借りして、「惨劇の五芒星事件」解決に挑むことになります。みやまんとの直接的接触はここだけ。
この事件はフィクションであり、解決も謎解きである、というのは前作をやっている人ならもう分かる。だからといってわんこそばのように「謎はよ」となっては味気ない。今回は没入感を高めるために、こだわりのある仕組みが採用されました。集団でのハッキング体験です。
前回の「case.613」では参加者である融解班の有志が自分たちで謎解き打ち合わせ用のDiscordサーバーを立ち上げ、その中で統制をとって会議をし、出てきた謎を瞬殺するという、SNSならではのすさまじい展開になりました。ある意味このネットの使い方のうまさを参考に、今回の「case.633」は大きく進化したように思います。
「C」による「惨劇の五芒星事件」解決のための考察サーバー(このリンクの一番下にあります)。事件内容や謎解きをここで「融解班」と「C」が協力して日夜話し合っていました。常になにかしら書き込みがありました。ここに参加する一歩はハードルもありますが、いざ入ってみると秘密基地にいるかのようでとてもワクワクします。
今回は「C」という引率担当がいるため、統制が取られやすくなっています。また公式はTwitterのコミュニティーも試験運用しました。「C」はDiscordサーバーに頻繁に現れるので、スタンプでコミュニケーションを取ることができるのも、かなり楽しいです。
これによって「極度に難しすぎる問題でも『C』の協力でヒントを出せる」、という物語を進める上でのメリットが生まれました。またすさまじいスピードで謎を問いても、それをプラス要素として「C」が話題として物語に組み込める。どう転んでも面白くなる状況を作ったのは、前回からの大きな発展でした。
今回も伏線から掘り下げていくスタイルはそのままに、「謎解き」がなぞなぞ的なものから、パスワードハックに変化しました。
ハッキングできたものの1つ目が事件があった中学校の職員サイト。先生たちの私用Twitterアカウントを探し、そこから情報を見つけてパスワード侵入する、というスタイルです。もちろん実際にやったら犯罪。フィクションとはいえ、かなりやばい橋を渡っている感が伝わってきます。
開けると中からは「3学期末報告書」「クラス名簿」「クレーム報告書」など、あからさまに見ちゃだめなやつがわんさか。「この書類はフィクションです」と書いてはあるんですが、書類の作りがえらくリアルなため、踏み込んじゃった感がありました。しかも書類量が多いのなんの。きっと重要な手掛かりがある、とは思いつつも関係ない話(言いがかりに近い親からのクレームや、報告書の書き方がよくないという学年主任からの指摘など)もやたらと詳細に書かれているので、どれが大事なのか分からず、情報の海に飲まれそうになります。
もうひとつのハッキングは、被害者の中学生などのスマホ。PCからでも見られるのですが、これは絶対スマホで見たほうが生々しくて面白いです。フィクションだからできるけど、リアルでやったら完全にアウト。しかも中学生の子供のやつ、という背徳感たるや。
こちらも情報の量が異様にあります。ハッキングできる範囲が限られているのでギャラリー、カレンダー、メッセージ止まりなんですが(毎日更新の日記を見られるものがありました)、どれもこれも解決のヒントだらけ。逆にヒント多すぎてどれがいらない情報なのか、わからなくなります。
そして、被害者生徒と学校関係者Twitterアカウントの数々。詳しくは「C」がまとめたリストが参考になります。これまたかなりの頻度で更新されており、スマホの情報と照らし合わせてみることもできます。
探偵的調査と見るか、ハッキングやストーキング的行為と見るか。かなりキワキワなギミックを組み込んだことで、フィクションが現実になったかのうような没入感を体験させてくれました。「ダークナイト」などでバットマンが正義のために社会の法を破り、情報をハックするときの複雑な心境はこんな感じだったんでしょうか。
「C」は「技術って使い手の思い次第でこんなに誰かのためになるんだなって」と感想を述べていました。この人を救う技術というのは、彼女が執拗(しつよう)に追いかけている「未来人」のことでもあるでしょうし、今回のSNSでの集合知にも当てはまります。
パスワード解析中に、「中学校の校長が、飲んだくれていたのを学校の経費で落としていた」みたいなやらかしがハッキングで分かってしまって、ついついゴシップに気を取られてしまいそうになる場面もありました。もしかしたらこれがヒントなんじゃないか、とすら。このあたり、ネットのノイズ性をうまく表現していました。どうしてもゴシップや炎上ネタには意識を持っていかれてしまう。けれども、そこに目を向けていると本質が分からなくなります。
本質に目を向けて、助けたいという真っすぐな思いを全員が持っていれば、ノイズがあっても集合知として作用する。難しいけれども、その力は既に現実でも光を放てるのではないか? という思いも、今回の「case.633」に込められていたように感じられました。ネットの情報の海は毒が多いのは、重々承知で作中でも表現されています。けど、その中で生まれる交流と技術と愛情は、そう捨てたもんじゃないんじゃないか。
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