「シン・ウルトラマン」の人類がポカポカした理由 「エヴァ」フィルターで完全理解する“百合の波動”(2/3 ページ)
批判が多いシーンが生まれた理由もわかったような気がした
はたまた、浅見には葛城ミサト的な「残念な美人」ぶりも見て取れる。彼女の「自分以外のぶんのコーヒーを入れないなんて気が利かない」という物言いや、「同僚の尻を2度もパンッと叩く」セクハラ行動には批判も多いが、表向きは立派な大人だが「中身はオヤジ」な美人像は、おそらく庵野の女性の好みがものすごく反映された結果ではないだろうか。
ともかく、社交性がない綾波レイと、アスカ+ミサト的なイケイケなキャラの関係性……それはもう、尊いに決まっているのだ。だが、尻を叩くのはやめてほしい。
セクハラ描写が生まれた理由
観客からの批判が集中した「斎藤工が長澤まさみの匂いを執拗に嗅ぐ」シーンも、「:破」「シン」でのマリがシンジの匂いを嗅ぐ場面を筆頭に、「エヴァ」における隠喩的な要素をほうふつとさせる。
過去にもウルトラシリーズにおいてウルトラマンへの憧れや恋愛に近い感情を抱く女性キャラクターはいたが、今回の「シン・ウルトラマン」ではそれを少し超えた、エヴァのように性をほのめかすシーンをあえて入れ込もうとしたようにも思える。
「エヴァ」新劇場版シリーズにおいても「女性キャラの胸がやたらと揺れる」様などはしばしば批判の対象となっていたが、アニメーションである「エヴァ」に比べ、今回のような実写作品では生々しさが悪目立ちしすぎていると思う。「エヴァ」では性的なシーンも思春期の少年の鬱積した心情とシンクロしていたのだが、対して「シン・ウルトラマン」では作劇上もほとんど必要のないものになっていたし、どのような理由であれウルトラマンという作品でセクハラ、あるいはそれに類するシーンを入れてほしくなかったというのが正直なところだ。
今作での性的なシーンは、先ほど掲げた百合の波動との食い合わせも悪いと思う。もちろん百合作品にも性的な描写が含まれることはあるが、どんなジャンルであれ無批判にセクハラ描写を持ち込んで良いことにはならない(一応、メフィラスによる批判的な自己言及はあったが)。百合大好き勢としても、まことに遺憾である。
「シェイプ・オブ・ウォーター」をやりたかった説
今回の「シン・ウルトラマン」が、ギレルモ・デル・トロ監督作「シェイプ・オブ・ウォーター」のような内容を、ウルトラマンという題材でやりたかったのではないか、という説もある。「シェイプ・オブ・ウォーター」は童話「人魚姫」の男女を入れ替えた、映画「大アマゾンの半魚人」の二次創作のような内容で、異なる種族間の愛を、性的な関係も含めはっきり描いた作品だ。
ただ、そちらは日本ではR15+指定されたことからも分かる通り、比較的大人向けの内容であり、観客が生理的な拒否反応を覚えてしまうことも見越した上で、それでもなお人間と異なる存在への思いを描くことに主眼を置いた作品であった。
対して「シン・ウルトラマン」は子どもを含む広い観客層が触れる作品であり、機微に欠けるあからさまな描写に多くの観客が批判をぶつける結果になってしまったのは致し方がないだろう。とはいえ、「パシフィック・リム」でも知られるギレルモ・デル・トロ監督は「ウルトラマン」を含め日本の特撮の大ファンでもあり、お互いにトリビュート的ともいえる作品を目指したのではないか、と思えるのは感慨深い。
さらに余談だが、樋口真嗣監督による「シン・ウルトラマン」の公開日である5月13日より、荒木哲郎監督によるアニメ映画「バブル」の劇場上映もスタートした。くしくも、「進撃の巨人」の実写映画版と、アニメ版それぞれの監督による最新作が同日に公開されたのだ。
「バブル」は劇中で語られている通り「人魚姫」が物語のモチーフになっていて、「惑星ソラリス」のように姿形を変えるヒロイン像は綾波レイを思わせるところもある。奇妙な共通点をもったこの2作を、合わせて見てみるのも面白いだろう。
(ヒナタカ)
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