なぜ戦争中のウクライナ剣士たちは国際大会に参加できたのか ヨーロッパの国境を越えた“剣道の理念”(1/2 ページ)
「ウクライナの剣士たちにとって大会参加は『希望』の1つだった」
5月27日から30日まで、ドイツ・フランクフルトにて「欧州剣道選手権大会」が開催された。日本ではあまり知られていないが、ヨーロッパには約2万人の有段者がいて、本大会はヨーロッパ最大級の剣道の祭典だ。
3年に一度開催される「世界剣道選手権大会」の開催年を除き毎年開催されており、今回は31回目。コロナ後初の開催だったため例年より参加国は減少したが、ヨーロッパ・アフリカ地域32カ国から剣士が集まり剣を交えた。
この大会に、戦争中のウクライナからも参加があった。各国に散らばった選手たちの旅費や防具を集めたのは、パリ在住のEvgeny Andreev氏(以下エブゲニイ氏)だ。大会開催の約3カ月前からクラウドファンディングで協力を呼びかけ、最終的に1万1936ユーロ(約168万7675円)を調達。ウクライナに住む男性選手の一部の参加はかなわなかったが、9人の選手(ジュニア1人、男性3人、女性5人)が参加した。
なぜ、ウクライナ人たちは戦争中にもかかわらず、剣道の大会に参加したのだろう? パリ在住剣士がクラウドファンディングを行った理由は? そこには、日本文化の「剣道」を通して培った、ヨーロッパ剣士たちの友情があった。
実際に試合に足を運んだ筆者が、現地の様子をレポートしつつ、ウクライナ剣道連盟会長のKostyantyn Stryzhychenko氏(以下コスチャ氏)、クラウドファンディング発起人のエブゲニイ氏(錬士六段)に話を伺った。
2022年3月2日、クラウドファンディング始まる
筆者は中学1年生のときに剣道をはじめ、2017年にオランダに移住した後も現地で剣道を続けていた。ヨーロッパに来て知ったことの1つに、国を超えた剣士たちの交流が挙げられる。隣国のドイツ、ベルギーとの交流はもちろん、ウクライナからもよく剣士たちがオランダに稽古に来たり、オランダ主催の国際大会に参加したりすることもあった。
さて、そんな状況だったので、今回のロシアのウクライナ侵攻は衝撃だった。「今度防具を持って遊びに行くね」と話していた地域が爆撃に遭ったと聞いて、すぐにウクライナ剣道チームキャプテンのAlex Konstantinov氏(以下アレックス氏)に連絡した。するとロケットが空を飛ぶ動画と、街に落下した残骸の写真が送られてきた。これまでに感じたことのない、大きな衝撃を受けた。
彼らのために何もできない自分に無力さも感じた。せめて、人道支援をしている団体に募金を……と考えていたときに、ウクライナ剣道代表チームのためのクラウドファンディングが立ち上がったことを知った。
しかし、世界中が注目する戦争の最中だ。正直、「剣道どころではないのでは?」と最初は思った。また、ウクライナにも公式の剣道連盟がある。なぜウクライナ剣道連盟ではなく、エブゲニイ氏がこのキャンペーンを立ち上げたのかも疑問だった。
そこで同氏に連絡し、なぜクラウドファンディングをしているのか、そしてそこにどんな意味があるのかを伺った。
エブゲニイ氏は現在パリ在住。何年も前から剣道を通じてウクライナの人々と交流し、友情を深めてきたそうだ。
エブゲニイ氏「ひどいニュースばかりが飛び交う中で、何かたった1つでも、ポジティブなことをしたかったんです。それがきっと希望につながると信じていました。
クラウドファンディングは、私の自己責任で始めました。そしてコスチャ氏(ウクライナ剣道連盟会長)に『大会参加のための資金を集めているんだ。君たちが来なくちゃ始まらないよ』と呼びかけたんです。
彼はすごく喜んでくれたけど、でも、状況に対してあまり楽観的ではありませんでした。確信が持てなかったのかもしれないですね。私の周りの人たちは、誰もうまくいくとは思っていなかったみたいで、『それ本当にうまくいくの?』と言われていました」。
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