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なぜ戦争中のウクライナ剣士たちは国際大会に参加できたのか ヨーロッパの国境を越えた“剣道の理念”(2/2 ページ)

「ウクライナの剣士たちにとって大会参加は『希望』の1つだった」

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 しかし、クラウドファンディングキャンペーンは、ヨーロッパ剣道界で広く拡散された。Webサイトが英語にもかかわらず、日本人からの協力も多かった。活動は細やかに報告され、資金集めだけではなくエブゲニイは周りの人々に呼びかけをして防具を集めたり(ウクライナ国外に逃げる際、防具を持って来られない剣士がほとんどだった)、オリジナルの手ぬぐいを作って資金の足しにしたりしていた。


Facebookグループで防具がそろったことを報告するエブゲニイ氏

欧州剣道選手権大会への参加がかなう

 ウクライナは現在、成人男性の多くは国外に出ることがかなわないが、ウクライナ国外で働いていた男性選手や、国外に避難した女性剣士・少年剣士たちは大会参加が可能だった。会長のコスチャ氏はウクライナ在住だが、特別に国外に出る許可が降りた。

 国外に避難した選手たちは現在、ポーランドやオランダに住んでおり、大会前にはそれぞれの国の剣士たちと一緒に稽古をしていたそうだ。


ウクライナ剣道チームの手ぬぐい

 大会当日は、そろいの手ぬぐいをつけて試合に臨んだ。本大会には男性個人・団体、女性個人・団体、ジュニア個人・団体の計6部門が設けられており、今回ウクライナは5部門に参加。入賞はかなわなかったが、参加選手たちにあたたかく迎えられ、交流を楽しんだ。

 また、本大会は会場のすぐ隣にウクライナの難民キャンプがあった。このため、剣道とは関係のないウクライナ人たちも応援に駆け付けた。

 「ウクライナの剣士たちにとって大会参加は『希望』の1つだった」とコスチャ会長は語る。彼は2008年にウクライナ剣道連盟を立ち上げ、2010年に初めて「欧州剣道選手権大会」に参加。発足から14年と歴史は長くないが、ウクライナで日本の剣道を普及させるために力と心を尽くしてきた優しい剣士だ。その行動力と熱意に心を打たれ、日本の高名な八段の先生もセミナーを実施しにウクライナを何度も訪れている。

日本文化の剣道を通して、和の精神で平和を願う

 全日本剣道連盟は、剣道修練の心構えを次のように定義している。

「剣道を正しく真剣に学び 心身を錬磨して旺盛なる気力を養い 剣道の特性を通じて礼節をとうとび 信義を重んじ誠を尽して 常に自己の修養に努め 以って国家社会を愛して 広く人類の平和繁栄に 寄与せんとするものである」

 平和について、私たちは普段はほとんど意識しない。しかし、彼らは剣道を通じた平和を体現してみせたように思う。

 まだ戦争は終わらない。できることはほとんどないかもしれない。しかし、誰もが「自分にできること」を探し、助けを求められたときは手と手を取り合っている。

 もともとは、クラウドファンディングの資金で賄われるはずだった参加費用は大会主催国ドイツの厚意でまかなわれ、大会当日も参加国にウクライナはあたたかく迎えられた。


左・ウクライナ剣道連盟会長コスチャ氏、右・クラウドファンディング発起人エブゲニイ氏

 「今後の展望」なんて聞くのはまだ早いかもしれない。ウクライナに戻ったコスチャ氏は現在、国内でのボランティア活動に奔走している。しかし、あえて彼にウクライナ剣道がどんな絵図を描いているのかを聞いた。

 「日常生活の中にも、剣道の理念を取り入れていくこと。そして、世界剣道連盟に所属し、世界大会に出場すること。それが私たちの夢であり、ウクライナ剣道の発展につながると信じています」

 いつか、以前のように剣道ができるようになったときに、彼らの夢がかなうことを願ってやまない。

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