作り手の“鋼の意志”をたたえたい 「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」レビュー(2/3 ページ)
(たぶん)誰もスタッフとキャストに諦めろなんて言わなかった。
しかも、今回はこれまでは正直「んん……?」と思っていた俳優陣も意外なほど良かった。表情の固さが気になっていたロイ・マスタング役のディーン・フジオカは、復讐の相手に出会ったときの震えるほどの激高の表情を見事に表現していた。「復讐者スカー」ではブックオフのCMを良くも悪くも連想したセリム・ブラッドレイ役の寺田心も、意外なまでに「見た目に反した恐るべき敵」としての説得力も十分に持たせていた。
その他、エンヴィー役の本郷奏多、ランファン役の黒島結菜、フー役の筧利夫、アレックス・ルイ・アームストロング役の山本耕史、スカー役の新田真剣佑、イズミ・カーティス役の遼河はるひ、そしてキング・ブラッドレイ役の舘ひろしと、「そうそう、そのキャラのそれが見たかったんだよ!」と原作ファンが感嘆できる大活躍をしてくれる。物語のクライマックスだけに、俳優たちのそれぞれの「本気」を思い知らされたのがうれしかったのだ。
原作のクライマックスのおいしいところ詰め合わせセット
そんな風に俳優陣がおおむね良かったのはもちろん、「あのシーンもこのシーンも、実写で可能な限り再現されている…!」と次々と思えることが、掛け値なしにうれしかった。いわば、「原作のクライマックスのおいしいところ詰め合わせセット」になっていたのだから。
それらの原作の再現のほとんどは、派手なアクションシーンでもある。1作目は「冒頭にしかまともな錬金術アクションがない」ことに絶望すらする勢いだったが、「復讐者スカー」ではアクションのクオリティーも量も劇的に改善し、今回はさらにアクションが矢継ぎ早、いや無尽蔵なまでに繰り出されていた。
「これもそれも原作にあったあった!」な感じが面白くて仕方がなく、142分という長めの上映時間でもダレずに楽しめたのだ。VFXやCGも惜しげもなく使われており、「やるからには総力を結集する」映像面でのスタッフの尽力も大いに伝わってくる。
しかも、ただ原作のシーンを並べ立てるだけでなく、前回の「復讐者スカー」に引き続き原作の要点を再構成し、キリの良いところで2部作を分けつつも起承転結のある一本の映画としてまとめ上げる脚本もよくできている。曽利文彦監督と共に脚本を手掛けた宮本武史による、現在公開中の「きさらぎ駅」も低予算の邦画ホラーとしては異例の好評を呼んでおり、こちらも驚きを与える伏線回収や構成が秀逸だった。これからの活躍も期待できるだろう。
そもそも、今回の完結編2部作の製作が決まったのは、「制作陣だけでなく、原作者の荒川弘、出版元のスクウェア・エニックスといった原作サイドも納得できる脚本が固まった」ことがきっかけだったそうだ。逆に言えば脚本の出来が良いからこそ無謀な企画に挑むことになったとも言えるのだが、「それだけの理由」があると思わせてくれるのは、本当にすごいことだ。
痛みが大きすぎる教訓に意義があったと思いたい
ここまで「最後の錬成」を称賛したが、残念ながらと言うべきか、まだまだ改善の余地があっただろうと思う部分もある。
例えば、タイトルの表示の仕方が個人的には好きではなかった。1作目の「復讐者スカー」も、そんな「ボヤァ……」みたいな微妙に汚いタイトルの表示の仕方でいいの? と思ったが、まさか今回は真っ白な画面に、左の方にちょこんと小さく、しかも普段のメールで見かけるようなフォントでタイトルが表示されるとは思ってもみなかった。最終作らしい儚さを表現した逆にハイセンスな演出と言えなくもないが、「なんでそんなちっさい字でやっつけなフォントやねん」というツッコミの方が前にせり出してきた。
個人的にはめちゃくちゃ楽しかった「原作のクライマックスのおいしいところ詰め合わせセット」にも賛否両論はあるだろう。言い換えれば「原作の再現!」「また再現!」「これも再現しました!」「これも好きでしょ! 再現したよ!」な感じが続くので、人によっては胃もたれするかもしれないし、矢継ぎ早すぎてダイジェスト気味にもなっているので、都合よく物語のためにキャラクターが動いているような印象も否めない。
スタッフとキャストが尋常でない努力によって築き上げた、前述してきたたくさんの称賛ポイントも、たまに「やっぱりコスプレに見えるし、背景が浮いちゃってZoom会議の画面っぽくもなっているなあ……」と冷静な視点にちょっと上書きされてしまうのは若干、いや本気で切なかった。雪山で猛吹雪になるシーンでよく聞き取れる声で説明セリフが繰り出されるなど、演出そのものにも、改善可能な点が見え隠れしていた。
さらに、これは作品のリアリティーラインに由来する問題だが、メイ・チャン役のロン・モンロウが中国系らしいアクセントの日本語で話す様が気になってしまった。他の俳優陣とのギャップを払拭するため、理想論としては他のアジア系キャラクターも全て海外俳優でそろえるべきだったのかもしれない。
あらためて「キャスト全員が日本人の時点で無理があった」と思わざるを得ないのだが、その問題にぶち当たりながらもやり通した作り手の姿勢は、エド役の山田涼介が口にする、原作の名ゼリフ「誰もオレたち兄弟に諦めろなんて言わなかったじゃないか!」に完全に重なる。そう、(たぶん)誰もスタッフとキャストに諦めろなんて言わなかったからこそ、こんな無謀な企画が曲がりなりにも完結にまで導かれたのだ。
そして、お近くの映画館で「最後の錬成」に割り当てられたスクリーンの規模、そして上映回数を確認してほしい。これほどまでの有名原作で、豪華キャストが集まり、お金がかかった超大作映画の公開初週とは思えないほどの扱いに、さらに切なくなるはずだ。
「復讐者スカー」が最大規模の公開にも関わらず興行成績が初登場9位の大苦戦を強いられたので致し方ないが、筆者個人としては「スタッフとキャストの努力が本当に報われてほしいし、ちゃんと面白いし、原作ファンとして感動もしたので、見てあげてやってくれ……」と泣きそうになった。
「痛みを伴わない教訓には意義がない。人は何かの犠牲なしには何も得ることはできないのだから」。これは原作冒頭に記された言葉だが、あれだけの酷評を乗り越え、原作の物語を完結までやり遂げた作り手の尋常ではない鋼の意志に、筆者は拍手を送りたい。
(ヒナタカ)
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