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【「ソウルハッカーズ2」肯定寄りレビュー】文化が停滞した未来像とリンクする「続編としての在り方」 素直な続編ではないが、単体のJRPGとして見れば悪くない(4/5 ページ)

アトラス作品のシステムを混ぜ合わせて、ライトに生まれ変わったJRPG。

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停滞する未来観と既視感のあるシステムが示す新たな続編の在り方

 パラダイムXと呼ばれるメタバースと、北米アルゴンキン族の神話を絡めた物語。当時としても先見性のあるネットワーク描写で、今見ても提示された未来像に古臭さがない「デビルサマナー ソウルハッカーズ」。もともと、「真・女神転生 デビルサマナー」の時代から文献はもとより映画、小説、漫画、TVドラマに対する造詣とリスペクト。パロディーの精神から生まれる現代描写と神話の絡みが魅力的なシリーズであり、その精神性と知識が集約した作品の1つが、前作でもあった。当時のゲームとしては革新的な未来像を提示した前作を、どのように越えるのか。普通に考えれば、続編として素直に作ることはとても難しいだろう。そこで本作が選んだ道は、個人的にとても興味深かった。素直な続編の設定ではないが、別のスタッフが作る続編の在り方としては、個人的に評価できるのが世界設定である。

 「ソウルハッカーズ2」の舞台は、今よりも少しだけ先となる21世紀半ばの近未来。文化や文明の発展は停滞し、きらびやかな街も現代のイメージからそれほど逸脱はしていない。社会は停滞して「ノスタルジー」の焼き直しばかりが流行し、街を歩く人々の会話からも旧き良き時代の話ばかりが飛び交う。この旧き良き時代が、われわれの生きる2020年代として設定されているのは捻った点だ。今の時代をノスタルジーの象徴として描き、希望ある未来像としては描いていない。文化は停滞し、発展は止まったものとなっている。過去に縛られた人々はメインストーリーでも1つのテーマとなっており、より洗練した未来像を求められる続編において、最初から提示すること自体を不可能としたうえで2020年代をノスタルジックな時代だと逆転させた世界設定は、作品の構造としてもメタ的にも非常に興味深い。

 作中ではノスタルジーを再パッケージした焼き直しや、粗製乱造のインスタントな文化しか生まれなくなったという設定が語られ、NPCの口からは2020年代を懐かしき過去として表現する場面が存在する。物語のなかで過去の郷愁を語るように、焼き直しだけしか生まれない今の文化に対する危機感と諦観を、ペルソナ5に寄せたUIや女神転生のシステムをライトに編集し直した、よく言えば集大成。悪く言えば既存の寄せ集めに見えるシステムでまとめた「続編」としてぶつけるのは、なかなかのとがり方だ。それでいて、発表時に拒否反応が生まれたほど「ソウルハッカーズ」へのノスタルジーは存在していない。

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 皮肉めいた設定のなかで、女性キャラクターのAI(厳密にはAIを越えた存在であり、情報の海から産まれた次世代の電子生命体)であり、意思を持って喋るリンゴというキャラクターを主人公に据え、悪魔や神話をあまり根底におかないというアトラスらしさすらも捨てたある意味で挑戦といえるスタイルは、停滞する未来の中からAionが生まれた本作の物語とリンクしている。養護施設の子どもたちに対する描写などを見ても、正当な進化を求められる「続編」でありながら、過去にとらわれることよりも未来の「子どもたち」に対してどう見据えて向き合うかを語っている物語の流れは、25年ぶりとなる続編を待ち望んでいた古参ユーザーや、世界のファンに向けるにはあまりにも挑発的だが嫌いではない。

 海外のメディアレビューにも、こうした「ソウルハッカーズ2」の世界観に対して興味深く見ているものもあり、決して万人に受けるとは思えないが挑戦的である。そうした世界設定をとくに気にしなくとも、なんとなく高校生よりは年齢層が高め(大学生から社会人になりたてくらい)の人々が戦うJRPGとして純粋に楽しめるはずだ。敵や味方の区別を越えた相互の理解を描く優しい物語はアトラス作品らしからぬ温さとも取れ、それは批判の対象にもなりえるのだが、本稿ではそうした部分も含めてカジュアルに楽しめるものとして肯定的に受け取りたい。コンプライアンスが厳しい現代において、配慮した優しい物語を描こうという狙いは理解できるからだ。話しかけられるモブキャラクターやNPCにもしっかりとした個性があり、会話の変化は少ないものの力を入れている部分であることは感じ取れた。

 前述したように、本作は需要と供給、ターゲティングを大幅に間違えており、古参の層でも素直に楽しめるかといえば、相当に人を選ぶ。ゲームとしても手放しに褒められるほどには完璧ではなく、ダンジョンの使いまわしやユーザーフレンドリーではない移動スキルなどのこなれていない部分、コストの限界を感じる部分は多い。その反面、作り手が押したいキャラクターなどの要素に関しては、作り込まれているのも理解できた。そうした面から考えても、悪魔や神話を好むアトラスの従来のユーザー層よりは、キャラクターの掛け合いや物語を重視する他社のJRPGを遊ぶ層のほうが向いた作品である。もちろん、アトラスの古参といっても一枚岩ではないので、サマナー同士の人間関係に期待している層や続編としての許容範囲が広い層、このレビューで挙げた良い点を重視している層ならば、本作を素直な続編として楽しめるはずだ。望んだ要素がないと思った古参層でも、未来像に対する挑発的ともいえる世界設定に注目すると、変わった作品として楽しめるかもしれない。

 もちろん、値段に対する期待に応えきれているかと問われれば、やはり「ペルソナ5」などと比較されて高いといわれるのは仕方がない。「女神転生」「ペルソナ」を継ぐと大見得を切った宣伝をしてしまった以上、比較されるのは当然のことではある。それらを継げているのかと言われれば、あまり継げてはいない。似ているようで視点移動が激しいバトルのUIや、回転しすぎるカメラワークにはペルソナとの差を感じてしまう。そのために、他社が作るリスペクト系RPGのようにも見えてしまう部分はあった。そうした面で、もう少し演出を頑張って欲しかったところはあるのだが、比較しなければ遊べるものでもある。

 単体の作品として評価すれば卑下するものではないし、本来は別物である以上比較するべきではないだろう。そしてなにより、キャラクターありきのゲームが悪いわけではない。私自身もキャラクターを中心とした物語として、サイゾー周辺の話やパーソナルイベントの会話など好きな部分も多い。なお、メインストーリーだけを遊ぶと短めだが、ソウル・マトリクスの攻略や豊富に用意されたリクエスト(サブクエスト)を遊びきるとボリュームとしては問題ない。とくにリクエストは内容が現代社会を反映したものになっており、リンゴの主観で書かれたテキストの形で進行状況が記されていく。細かいテキストの方面で力を入れていることが分かり、キャラクターを気に入った人たちなら、そうした部分に目を向けるとじっくり楽しめるものだ。本作独自の世界観やキャラクターの関係をテキストで表現しようとしている部分や、悪魔合体とバトルに目を向けると1つのRPGとして完成している。先入観を排して遊べば、日本を舞台にしたRPGを求めている層に響くものはあるだろう。やはり、本作の問題はソウルハッカーズの2と付けたことにあるのではないか。古参を挑発する内容でありながら、呼び込んでしまったマーケティングのミスにあるのかもしれない。

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 私自身に関しては、古参として視点を変えれば楽しめたのは事実だ。だが、やはり本作は新規層に向けたものであるとも感じられた。当時の「ソウルハッカーズ」が、UIなどを当時の基準でスタイリッシュにすることで新規層に向けていた部分があったように、古参の意見よりも新規層の意見が重視されるべきではある。本来の楽しめる層に届くべき作品として届き、過小評価な現状よりも良い面に目を向けられることを願って、筆をおくことにしよう。

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