「愛は毎日、どんな瞬間にも感じる」山本耕史が明かした家族との幸せな生活 “ピノキオ”吹替インタビュー(1/2 ページ)
「愛って大きな何かが起きることじゃなくて、何でもないことを積み重ねられることなのかな」
実写映画「ピノキオ」が9月8日から、ディズニー公式動画配信サービスDisney+(ディズニープラス)で配信中。日本語吹替版ではジミニー・クリケット役を俳優の山本耕史さんが務めています。
ベースになっているのは、カルロ・コッローディ作の童話を原作にし、1940年にウォルト・ディズニー・プロダクションが公開した同名長編アニメーション作品。孤独なおじいさん・ゼペットが作った木彫りの人形・ピノキオが妖精の魔法で命を授かり、人間の子どもになる願いをかなえるため、彼の“良心”となるジミニー・クリケットとともに大冒険に出るストーリーです。
実写版は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ/一期一会」で知られるロバート・ゼメキス監督がメガホンを取り、オスカー俳優トム・ハンクスがゼペットを演じています。一方でピノキオやジミニーといった非人間キャラクターは主にCGで描かれており、2次元と3次元が混在する映像となりました。
予告を見た視聴者からは「違和感があるふしぎな映像」との声もあがる中、山本さんは配信直前イベントで「パッと見ただけで、生きている人間と命をもらったピノキオが冒険するという輪郭がすごくはっきりする。人々の愛が、より表現できている」と実写の素晴らしさを熱弁。作品と、ジミニーの人柄ならぬ“虫柄”にどんどん引かれたと話す山本さんに、ジミニーの魅力から家族の愛にまつわるお話まで伺いました。
「完璧じゃないからこそ、人に伝わる」 “ジミニー・クリケット”というキャラクター
―― 原作映画公開から82年。長く愛され続けるアニメーション映画「ピノキオ」には、もともとどんな印象を抱いていましたか?
山本耕史さん(以下、山本) 「ピノキオ」はもちろん知っていましたし、ビジュアルもまぶたの裏に深く刻まれていましたが、お話をいただいて「どんな話だっけな」「おじいさん、ピノキオ、ジミニー・クリケットの他に、どんな登場人物がいたっけな」と思ったのが正直なところです。そこであらためて話を調べて、勉強しました。
「そうだそうだ!」と「ここは記憶になかったな」と思う部分がそれぞれ混在していましたが、一貫してとてもシンプルなお話だなと。分かりやすく大事な教訓が詰まっていて、だからこそ長く愛され続ける作品なんだと思いました。
―― アフレコを通して、印象が変化した部分はありましたか?
山本 「ジミニーって、こんなにずっとピノキオに付き添って、しゃべっていた役なんだ!」と驚きました。何ならピノキオよりしゃべっていますから。そして思ったよりも早口でしゃべらないと日本語が入らない。アフレコをやって、初めて分かったことでした。
ジミニーはピノキオに良心を伝える役でもあり、視聴者に説明している役。ピノキオに話すことを通して、視聴者に考えるべきいろいろなことを投げかけている。だからこそ、この“ジミニー・クリケット”というキャラクターじゃなければならない。
―― と、いいますと?
山本 例えばもっと体が大きくて強そうなキャラクターが問題提起するのと、ジミニーのような小さな虫が問いを投げかけるのとでは全然違う。見ている人たちがクスクスと笑いながらも「そうだよな」って素直に聞けるキャラクターが、ジミニーなんです。
ジミニーが人間だったら、また話が全然違うはず。人間が人間の教訓を伝えていたら、説教臭いじゃないですか。ジミニーが人間ではなくてコオロギであること、それがこの作品の大きな特徴。
虫のくせに偉そうに、蝶ネクタイだのハットだのおしゃれしているわりには、おっちょこちょいで、ちょっととぼけて抜けている。「優しい心って、こういうことだよ」と伝えながら、本人も学んでいる。完璧じゃないからこそ、人に伝わる。この役割は、ジミニー・クリケットにしか担えないと思います。
「用意してきたせりふの言い方は、ほとんど使えない」 声優の難しさ
―― 子役からスタートし、俳優としてこれまで多彩な役柄を演じられています。直近では月9ドラマ「競争の番人」(フジテレビ系)や大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)、映画「シン・ウルトラマン」など“クセのある役”が話題になっていましたが、打って変わって今回の役作りは、どう行ったのでしょう?
山本 まず、今回は僕が演じているわけではない。俳優はジミニーで、僕の演技ではないんです。ジミニーのお芝居に声を当てているだけ。だから役作りは“半分”っていうのかな。僕自身がジミニーを演じるなら、また違うものになるだろうし。
ジミニーはすでに出来上がっているキャラクターだから聞かなかったけれど、役を演じる上で、僕はいつも最初に「この役っていい人ですか? 悪い人ですか?」と聞きます。例えば「どちらかというと悪い人です。でも良い人に見せておいて、裏で悪い人です」と説明を受けて、「あ、なるほどね」と。その上で「こうしたら面白いかもしれませんね」と自分のアイデアを少なからず盛り込んでみる。
役によってアプローチの仕方は変わるけれど、基本的に俳優は台本に書かれている役をどうみせていくかというだけ。与えられた役の印象を、そのまま具現化するだけなんです。最近「うさんくさい」とよく言われるけれど、僕が悪役を作っているのではなく、たまたま悪役が続いただけだから(笑)。
―― 今回のような声のみでの表現は、例でいえば映画 「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成」のムキムキマッチョなアームストロング少佐役を演じるときのような身体での表現と比べて、どのような違いがあるのでしょうか?
山本 アフレコは下を向いて、映像をなんとなく上目で見ながらせりふを読むのですが、後からあらためて映像を見たときに「声と合っていないな」ということが起こるんです。せりふの前に、ジミニーが「ハッ」っと息を吸う瞬間を見つけて、「この時、すごい息吸ってるな。このテンションのせりふじゃないな」と気付くとか。
だから自分が用意してきたせりふの言い方は、ほとんど使えない。「こういう声を出しているだろう」と、見ているキャラクターに合わせて演技しないといけなかった。身体作りのように自分の理想に寄せていくのではなく、あくまで相手に寄せていく感じ。声を当てるお仕事の難しいところで、自分の理想は持ち合わせられないんです。
―― 自分の理想のイメージが通用しない中で、“ジミニーの声の感じ”は、どうやって作り上げていったのですか?
山本 僕の場合「今の感じ、聞いていてどうですか」とプロデューサーさんやディレクターさんに聞きながら「もう少し楽しそうにしようかな」「もうちょっと明るく言ってみます」と調整していきました。自分だけで調整するのは、とても難しい。
声優さんがすごいのは、自分でどんどん進めていくこと。例えば録音した自分の声を聞くと、ちょっと違うでしょう? 今自分はこんな声で話しているけれど、あとで聞くと「あれ、思っていたのと違うなぁ」となる。
声優さんはそれを分かった上でしゃべっていく。長年の技ですよね。僕は分からなかった。だから他の人に聞いてもらって寄せていくことしかできなかったなぁ。
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