「名探偵コナン 黒鉄の魚影」レビュー コナンは灰原にとってかけがえのない「居場所」だ(1/2 ページ)
劇場版第26弾にして最高傑作、爆誕す。【ネタバレ注意】
「名探偵コナン」の中で一番おいしいところといえば、黒の組織&灰原哀エピソードだ。この宿敵との決着はそう簡単にはつきそうにない。なのに、つい見てしまう。むしろこのまま永遠に見ていたい気さえする。4月14日から劇場公開中の最新作「名探偵コナン 黒鉄の魚影」も、コナンと灰原の戦う姿に感涙するファンが後を絶たない。そこで、初の興行収入100億円超えが期待される今作の見どころを紹介しよう。
※この記事では映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」のネタバレが含まれますので、ご注意ください。
灰原と前向きでブレないヒーローのコナン
「私の居場所はどこにあるんだろう」(「名探偵コナン 天国へのカウントダウン」より)
「早くここから消えなければ……」(テレビアニメ第176話より)
アニメ「名探偵コナン」(原作:青山剛昌)でそんな寂しいことを口にするキャラは、灰原哀をおいて他にはいない。テレビ放送での初登場は1999年のこと。彼女は黒の組織の元研究者で、ジンやウォッカに追われる日々を過ごしてきた。そんな灰原の心を照らす太陽のような存在が、江戸川コナンだ。最新作「名探偵コナン 黒鉄の魚影」で描かれるのは、二人の信頼関係が一段と深まるドラマだった。
舞台は、八丈島近海に設けられたインターポールの情報施設「パシフィック・ブイ」。世界中の防犯カメラの映像をリアルタイムで見られる施設が完成し、あらゆる事件現場の捜査が可能となった。そして新システム「老若認証」が稼働する。これは、長期にわたり逃走している加害者や、まだ保護できていない被害者を追跡するため、AIが過去の画像から現在の顔を推測するというシステムだ。
この「老若認証」、説明を聞けば聞くほど嫌な予感がしてくる。施設を見学したコナンも「確かにすげぇけど……」と険しい顔をする。運用が始まれば、コナンや灰原が子どもの身体だったとしても、真の姿である工藤新一や宮野志保と同一人物だと分かってしまう。案の定、灰原に加え、「老若認証」開発者の直美・アルジェントが黒の組織に拉致され、潜水艦の独房に閉じ込められる。
組織を裏切った灰原は、ずっと前から覚悟を決めて生きてきた。少年探偵団の仲間を巻き込まないためにも、いつかは姿を消すべきだと何度も言っている。今作でも、予告編の通り「バイバイだね。江戸川コナン君」というせりふがある。
しかし彼女が去ろうとするたびに、コナンはオメーの居場所はここだと引き止める。過去のテレビアニメでも映画でも、にかっと笑いながら灰原の弱音にこたえてくれる。もし灰原が今後弱音を100回言ったとしたら、きっとコナンは飽きもせず、どこにも行くなと100回言うはずだ。
灰原は、前向きでブレないヒーローであるコナンがそばにいるからこそ歩いていける。一方コナンだって、むちゃな捜査でピンチになったとき、灰原に何度も命を救ってもらった。コナンと灰原のふたりは、相手のことをどれだけ必要としているか、多くを語ろうとはしない。でも心は通じ合っている。それはまさしく、過去24年かけて描かれた信頼関係の証なのだ。
灰原「子どもの言葉や行動で、人生が変わることもある」
「黒鉄の魚影」では、灰原と映画オリジナルキャラ・直美との関係もじっくり描かれる。黒の組織のウォッカが「老若認証」の技術を提供するよう直美に迫るが、直美がそれを拒否したため、彼女の父は銃で狙撃される。直美は泣きじゃくり、灰原はその姿を見て過去の自分と重ね合わせる。灰原はかつて、最愛の家族である姉をジンに殺された経験がある。
姉の死はできることなら消し去ってしまいたい過去だが、今作では、灰原にとって意味のある出来事として描かれる。灰原は直美に共感して涙しつつも、あなたには生きる義務があると言葉をかける。そして、潜水艦からの決死の脱出作戦を実行し、何としても直美を生かそうとする。
そんな灰原の原動力は一体何か? おそらく彼女の脳裏には、かつて少年探偵団の歩美に言われた言葉がよぎっていたはずだ。歩美はテレビアニメ第347話(2004年放送)で、ある通り魔事件に巻き込まれる。歩美は灰原の反対を押し切り、警察署で容疑者の3人の男と対面して捜査に協力しようとした。
灰原「悪い人を懲らしめたい気持ちは分かるけど、耐えて身を引くのもひとつの勇気……」
歩美「でもわたし、逃げたくない。逃げてばっかじゃ勝てないもん! ぜーったい!」
7歳の歩美は、自分の感情に正直に行動する。それは、大人の心を持った灰原にとっては難しいことだ。だからこそ、灰原の心は歩美の勇気ある言葉に揺さぶられる。
その後の灰原は、組織のメンバーから逃げずに毅然(きぜん)として立ち向かうようになる。今作の潜水艦のシーンで、灰原は直美に言う。「子どもの言葉や行動で人生が変わることもある。私はそれを体験した。私は変われたわ。だから信じて!」
過去20年以上かけて描かれた数々の事件が「黒鉄の魚影」につながり、映画の奥にさらに深いドラマがあると感じさせる。今作をもって黒の組織との決着がつくわけではないのに、鑑賞後の満足感がハンパではないのはそれが理由だろう。
コナン作品からしばらく離れていた人からすれば、「黒鉄の魚影」を見ても理解できないところはたくさんあるかもしれない。でも、見るのをちゅうちょする必要は一切ない。映画のパンフレットの解説を頼りに過去作をおさらいして、またもう一度劇場へ見に行けばいい。一段と感動が深まるはずだ。今作をきっかけにして「名探偵コナン」に再入門する人が一人でも多くいてほしいと、いちファンとして強く思う。
(C)2023青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
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