アニメ「ULTRAMAN」の音楽はなぜ刺さるのか 作曲家・戸田信子×陣内一真が明かす「すごくスリリングで楽しかった」仕事の内幕:インタビュー(2/3 ページ)
戸田「私たちはウルトラマンという歴史の一粒の砂でしかない」。
神山監督も荒牧監督も、四半世紀先を生きている――
―― お二方がアニメ「ULTRAMAN」の音楽で成したことを考えるにあたり、少し変わった質問を2つさせてください。1つは、神山健治、荒牧伸志両監督との仕事をどう捉えたか、もう1つは、その仕事の1つである「攻殻機動隊 SAC_2045」との比較です。これを聞くことで、より「ULTRAMAN」の音楽が浮かび上がるように思います。
陣内 神山監督は、私たちが1つのシーンの正解だと思って表現したものに対し、その裏側をいつも言葉で教えてくださる存在、というイメージが強くあります。いつも言葉にインスピレーションをいただいていました。神山監督とは戸田さんの方がよくお話されていたので、よりうまく説明できると思いますが。
戸田 作品のことだったり思想的なものだったり、それこそ「あのキャンプ道具がいい」とか他愛もないことも含め、たくさんお話させていただきました。神山監督も荒牧監督も、四半世紀先を生きている。今の時代しか見えない私からすれば、未来を見ている感じでした。
コンビでクリエイティブなことをやるのは難しいとされています。私たちは大学時代からの付き合いで20年くらい一緒にやってきましたが、もちろん、たくさんけんかしたり、作品に対する思いの相違もあります。だからこそ、監督たちの制作の仕方を関心を持って見ていました。お二人を見ていて一番ステキだと思ったのは、お二人がお互いへの敬意を持って作業されていたことです。
お二人がディレクションしてくださる言葉には全く無駄がない。荒牧監督は専門家でなければ気付かないようなところをピンポイントで指摘くださいましたし、神山監督は私たちに大喜利をしかけてくるような……。
―― 大喜利?
戸田 「このシーンで、テーマ曲の一番の盛り上がりがなぜここに付くのか、その理由を述べよ」的なお話といいますか。例えば、「進次郎が本当に決意するのは、この2秒先」と指示くださる。そこにずらしながら音楽を充てていくと、フィルムスコアリングで曲を作っているので2秒足りなくなっちゃうんですけど(笑)。
感覚としては、ヒントになりそうな種がまかれた広大な草原に解き放たれた私たちが駆けずりまわってかき集めたものを「これですか!」みたいな感じで献上するというか(笑)。
―― トリュフ犬が目に浮かぶようです。
戸田 「思うようにやってください」と任せていただける作品は珍しいですし、大変光栄なことですが、全責任が自分の手にあるわけなので、解き放たれた子犬たちは大変ですよね。でも、私たち、しぶといんです。
―― しぶとい? 自分たちの作ったものや考え方を曲げない、という意味のしぶとさですか?
戸田 いえ。とにかく食らいついていく、いかなければという意味です。私たちの中でも迷いがあったシーンには別案も用意しておいて、「まだ出てくるか」みたいな感じ。ともあれ、そうした問いかけが毎シーズン行われて、それに私たちがいかに応えていくかという現場でした。すごくスリリングで、そして楽しかったです。
「攻殻機動隊 SAC_2045」との比較で考える「ULTRAMAN」の音楽
―― 神山監督がかつて手掛けた「攻殻機動隊 SAC」では、菅野よう子さんの音楽が添えられました。「攻殻機動隊 SAC_2045」の音楽をお二人が手掛けることになり、シーズン2では「Don’t Break Me Down」など挿入歌が数曲ありましたよね。「Don’t Break Me Down」を歌っているのはスコット・マシューで、彼は「攻殻機動隊 SAC」で「be human」などを歌っています。こうした配置に、関わり方の深度が増したように思えてうなったものです。
だから、ULTRAMANのFINALシーズンにも挿入歌が入るかなと期待していたのですが、ありませんでした。質問は、挿入歌も含めた楽曲制作は志向されなかったのか、です。
戸田 鋭い(笑)。まず、「攻殻機動隊 SAC_2045」についてですが、シーズン2の挿入歌はあらかじめ配置していたことでした。シーズン1、特に最初の方ではそうじゃないようにしてほしいというオーダーがあったのですが、攻殻機動隊らしさのある展開になっていくのが分かっていましたので。
ULTRAMANに話を戻すと、FINALシーズンでは既にあった楽曲「ウルトラマンの戦い」とは別に挿入歌を作ろうと考えていました。これまでなら、そういう楽曲が流れたらそれはもうクライマックスなシーンだったわけですが、先ほどお話ししたように、FINALシーズン、特に最終話はその先があと2つぐらいあるような展開でしたから、そこを超える楽曲があるとすればそれは歌ものかなと。
制作チームから「作ってもよい」というお言葉もいただいていたので、ロック調のメロディアスな歌ものが入ってきたらかっこいいかなと考えていたんです。でも、挿入歌を充てたいと思っていたシーンの尺は1コーラスも流せないくらいしかなく、シーンとしてもせりふや効果音が詰め込まれ、楽曲が聞こえないから、それはないのかなと。やってみたいとは思っていました。
―― なるほど。攻殻機動隊のYouTubeチャンネルでは、「攻殻機動隊 SAC_2045」シーズン2の挿入歌3曲が公開されています。絵と音楽がよく調和していて最高です。
戸田 あれは、サウンドトラックのミュージックPVを作りたいと私たちから制作チームにお願いしてみたら、作っていただけることになったものです。物語的にも再編成してよいと言っていただけたので、劇場版の編集を手掛けられた古川(達馬)さんにお願いし、音楽にインスピレーションを受けた形に映像を沿わせた作品に作っていただいたんです。
―― ULTRAMANの楽曲もあの感じで絵と合わせてじっくり聞いてみたいです……。
戸田 実は! 全テーマ曲をあの形で公開予定です!
私たちは「ウルトラマン」という歴史の一粒の砂
―― 最後にあらためてお聞きします。お二人にとって「ULTRAMAN」はどんな作品になりましたか?
戸田 さまざまな思いが深すぎて一言で言い表せないです。最近携わらせていただく作品では“生きる力“というか、誰かに勇気を届けたり、見ることで心に元気を育むみたいなものに自分の強いこだわりが出てきているのを感じています。
私たちはウルトラマンという歴史の一粒の砂でしかないですが、何世代にわたって残っていくであろう作品に制作側として携われたことが光栄で、感謝しかありません。
陣内 個人的な話ですが、僕、2018年6月までMicrosoftのゲーム部門に勤めていて、「ULTRAMAN」はフリーランス一発目のお仕事でした。この作品があったから外の世界に出るきっかけや勇気をもらえたと思っています。
「終わってほしくない」という思いはこれまで携わった全ての作品にありますが、FINALシーズンの音楽を作り終わったとき、その思いがとても強く自分の中にあって、一緒に成長させていただいた作品だと感じます。
「ULTRAMAN」の音楽制作を通して、日本が打ち出すヒーロー像とでも言うべきものを学べたことはキャリアとしても大きな意味のあることでしたし、今までにないつながりをいただけた意義深い5年間でした。
(C)円谷プロ (C)Eiichi Shimizu,Tomohiro Shimoguchi (C)ULTRAMAN 製作委員会3
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