完全養殖ウナギは4年後に食べられるの? 近大が「ニホンウナギ」の人工ふ化に成功 立役者の田中教授に聞いてみた
ウナギを巡る状況について取材しました。
近畿大学が11月1日、ニホンウナギの人工ふ化と50日の飼育に成功したと発表し、大きな注目を集めました。ねとらぼでは同研究を率いた近畿大学水産研究所(近大水研)の田中秀樹教授に取材。今回の発表がどのような意味を持つのか、改めて振り返ります。
ウナギの基本情報とこれまでの養殖の流れ
ニホンウナギは2014年に絶滅危惧種に指定されるなど生息数が減少しており、国内で流通している国産ウナギの99%以上が養殖という状況です。養殖の元となる種苗には100%、シラスウナギと呼ばれる天然の稚魚を用いているものの、近年はシラスウナギの漁獲量が著しく減少し、それに伴う密漁があとを絶たず問題視されています。
ウナギという食文化を守るためにも、人工種苗を親として次世代を生産する「完全養殖」は非常に重要な取り組みとなります。完全養殖そのものは2010年に世界で初めて水産研究・教育機構(水研機構)が成功し、その後いらご研究所も達成していましたが、コスト面の課題から商業化には至っていません。
近大水研では1976年から白浜実験場でウナギの種苗生産研究を開始。1984年と1998年に採卵・ふ化に成功しましたが、適切な餌がわからなかったため餌を食べて成長するまでには至らず、研究が中断。再開したのは2019年春のことでした。
近大にウナギ研究のスペシャリストが着任
その原動力となったのが田中教授。長年、水研機構でウナギ研究に携わり、グループ長として完全養殖達成に貢献するなど技術開発をけん引してきた人物です(※)。2018年3月に水研機構を定年退職となり、同年4月に近大水研の教授に就任。学生指導の傍ら、浦神実験場長として実験場を管理しつつ、水産養殖技術に関する研究を進めています。次年度からは農学部での講義も予定しています。
近大水研は、近大マグロの完全養殖などの実績を持つ研究所。実はウナギの人工ふ化&初期飼育は低予算の試行的な取り組みだったといい、一定の成果を上げたことから、今後はプロジェクトチームを立ち上げることになりました。
完全養殖ウナギは4年後に食べられる!?
初期飼育に成功した仔魚が順調に成長(仔魚→稚魚→成魚)すれば、親として次の世代を産卵することになり、完全養殖のサイクルに入ります。そうなるまでに最短で3年、さらに食用サイズに達するには、もう1年ほどかかるそうです。そのため近大では最短で4年後に完全養殖ウナギの系列飲食店での提供を目指しています。
とはいえ、ウナギの流通問題が一気に解決するわけではありません。「完全養殖と大量生産は全く別問題であり、完全養殖が達成される時期についてはある程度めどがつくものの、大量生産ができる時期については現状では見通せません」(田中教授)
商業化への課題
商業化にあたっては、稚魚までの歩留まりや、長期にわたる仔魚期の飼育に要する人件費、光熱費などコスト面の課題があります。この削減は一朝一夕にはできません。「改善すべき問題が複数あることは把握しています。それらの問題点を総合的に改善することにより、一歩ずつコスト削減が進むものと考えております。しかしながら、工業生産ではなく生き物の飼育であることは忘れてはならず、飼育例ごとに成績に大きな変動があることや、病気や遺伝的問題など新たな障害が現れる恐れもあることに注意すべきです」(田中教授)
ウナギの人工ふ化&初期飼育は条件を満たせば“どの機関でも可能”
浦神実験場では主に「人工的に成熟を促進した養殖ウナギの雌から卵を採取して人工授精を行う」という方法がとられています。人工授精を行った卵から誕生した仔魚の一部には、ふ化後7日目から給餌を行い、順調に成長しているそうです。
- 50日齢仔魚(全長約20mm)約20尾
- 43日齢仔魚(全長約18mm)約100尾
- 28日齢仔魚(全長約12mm)約1000尾
こうした手順については、「これまでの報道、学会発表、論文、書籍、特許公開広報などで多くの情報が開示されており、ある程度の設備があって、水産増養殖分野の基本的な知識と技術、経験を有する人材がいれば、どの機関でも可能な成果」と田中教授は述べます。「多くの機関、企業では、短期的に新たな成果、利益が見込めないことから積極的な取り組みを行うに至っていませんが、多くの魚種の完全養殖を達成してきた近大水研では、長期的視野に立ってウナギの完全養殖技術開発にも取り組みたいという機運がありました」(田中教授)
「絶滅危惧種なのに食べてもいいの?」という話題になることもあるウナギ。安定して供給されるようになり、安心して食べられる日が待ち遠しいです。
ウナギの仔魚
写真提供:近畿大学
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