そしてゲームクリエイター・飯田和敏は「カネ乙!」と言った――「アナグラのうた」を作った男たち:アナグラ座談会(1/3 ページ)
「予感は悪い方に的中した。GAMEは強制終了されてしまった」――情報共有をパワーに変えていくこれからの未来のために、4人のクリエイターに聞いてみた。
“予感は悪い方に的中した。
GAMEは強制終了されてしまった。”
――「アナグラ」の物語は、そんなイントロで幕を開ける。東京、お台場。日本科学未来館。その3階に「アナグラ」はある。正式名は「アナグラのうた 〜消えた博士と残された装置〜」。8月21日にオープンしたばかりの、日本科学未来館の新規常設展示だ。物語はさらにこんなふうに続く。
21世紀の初頭、ここでは5人の博士が空間情報科学についての研究を行っていた。やがて月日がたち、博士たちはひとりずつ姿を消し、アナグラには5つの実験装置だけが遺された。
1000年後、あなたは誰もいなくなったアナグラを訪れる。残された装置はあなたに語りかける。ここではあなた自身の情報が「ミー」と呼ばれる影となって足下に現れ、そして「うた」になる。
彼ら(装置)はなぜ作られ、ここで何を待ち続けているのか。あなたは「ミー」や「うた」に包まれながら、遺された装置と対話し、少しずつアナグラの真実を解き明かしていく――。
演出を手がけたのは、「巨人のドシン」や「ディシプリン*帝国の誕生」などの作品を手がけた、グラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏さん。10年ぶりに展示をリニューアルするにあたって、「新しい展示の形を取り入れたい」ということで、未来館側から飯田さんに直接オファーがあったのだという。
そもそも空間情報科学というのは、現実の人やモノのふるまいを計測し、そのデータを暮らしに役立てようという科学のこと。言い換えるなら「情報を資源として扱う科学」と言ってもいいかもしれない。文章だけではなかなか実感しにくいと思うが、それを文字や言葉ではなく、最新の技術と“体験”によって理解してもらおう、というのが「アナグラのうた」のねらいだ。
アナグラ内で流れる「うた」はヤマハのVOCALOID「VY1」によるもの。足下に表示される「ミー」には、秋葉原のeスポーツ施設「eスポーツグラウンド」の技術が取り入れられている。自分自身が登場人物となって物語を体験していく流れはまさにゲームそのもので、科学展示というよりは、遊園地のアトラクションのような印象も受ける。
内覧会終了後(内覧会のリポートについては別記事「ゲームクリエイター・飯田和敏氏が演出を手がけた、日本科学未来館の新展示「アナグラのうた」を体験してきました」を参照)、飯田さんから展示について直接お話をうかがった。最初は飯田さんと、アナグラのサウンドを担当した中村隆之さん(ブレインストーム)の2人だったのだが、途中からコンテンツディレクション担当の犬飼博士さん(エウレカコンピューター)、空間設計を担当した禿真哉さん(トラフ)、アニメーション・グラフィック担当の納口龍司さんも加わり、最終的には総勢5人によるスタッフ座談会のような形に。すでにアナグラを体験した人も、これから体験する人も、アナグラや空間情報科学について考えるための手がかりとしてぜひ読んでみてほしい。
「現実では“カネ乙!”みたいなこともリアルタイムで起こっていて」
(内覧会終了後、飯田さん、中村さんの2人からお話をうかがうことに)
―― 「アナグラのうた」面白かったです。すごく飯田さんらしい展示だと思いました。
飯田 ほんとに? よかった。
―― 情報を「うた」という形でアウトプットするのは飯田さんのアイデアですか?
飯田 これはね、ぼくのっていうか、みんなのアイデアかな。朝から晩まで議論してたよね。ネバーエンディング議論。
中村 豊かさをどうやって表現するかってのが議論になってたんですよね。情報をためて、資源にすると言っても、なかなかそれを実感してもらうのは難しい。それで、じゃあうたにしようかって話になった。
―― ぼくも最初「情報が資源になる」ってよくわからなかった。資源って、石炭とか石油みたいなイメージがあって……。
飯田 そうだよね。議論で最初につまづいたところだった。これまで資源と呼ばれるもの、石油にしてもダイヤモンドにしても、価値と直結している感覚がある。つまりオカネに置き換えやすい。でもリーマンショック以降、米光予言(※1)じゃないけど、 現実では「カネ乙!」みたいなこともリアルタイムで起こっていて。
―― 起こっていますね。
飯田 これまでぼくらが生きてきたのは、オカネがいっぱいあることとシアワセの実感が紐づいていた時代だった。それはひとつのゲームで、あえて「マネーゲーム」と名付けてもいい。そしてこのゲームひとつだけでは現実が補足出来なくなっている。
―― もうマネーゲームの時代じゃなくなりつつある?
飯田 うん。だからいま急務なのは、オカネとは別の価値を創ることなんだと思う。幸い、ぼくらはオカネに変わらないものでも、それを価値として感じる感受性を持ってた。それはもちろん、ゲームから学んだことですよ。それで今回は資源=シアワセだってことで、そのひとつとして“うた”っていうのをプレゼンスしてみた。
―― アナグラ内での行動に応じてうたが変わるというのは、どういう仕組みなんですか?
中村 メロディは全部で10パターンなんですけど、歌詞が自動生成になってるんです。文字数だけが決まっていて、アナグラ内での体験によって単語の組み合わせが変わる。組み合わせ自体は何万通りもあります。
―― 自分の体験情報が資源になって、うたが生成されると。名前も歌詞に反映されますよね。
中村 そうですね。そういう意味では必ず、その人オリジナルのうたが流れるようになってます。
飯田 まつりのうた(※2)は完成するの早かったよね。ぼくが中村さんのスタジオに行って歌詞を書いて、中村さんがギターでコード決めて、リズム打ち込んで、でちょっと鍼(はり)を打ってもらいにいって、ごはん食べて、ちょっとお昼寝して、仮歌を入れて。あとで犬飼さんに聞かせたら「ボーカロイドにしますからね」って言われて超ムカついて(笑)。
―― それ、全部同じ日のできごとですよね。
飯田 そう。たぶんそれまでの議論がすごく長かったから、最後のアウトプットは早かったんだと思う。あと「情報」、「共有」、「パワー」って言葉は絶対使おう、って思ってた。
―― 正直ぼくもまだちゃんと理解できているか不安なんですけど、アナグラを出るときに、「あなたの情報を残していきますか?」って聞かれますよね。それでハイを選ぶと「情報を共有してくれてありがとう」って言ってくれる。ぼくはあそこで「あーそういうことか」ってちょっと実感できました。自分の情報が資源になって、誰かの役に立つ。
飯田 そうなんだよね。いろんな人の生きてきた、喜びとか悲しみを共有することで、次の世代がよりいい選択をできるかもしれない、っていう期待。そういうことなのかもしれない。ぼくらももうアラフォーだし、この展示を作ってる間にも親しい人とか、尊敬してる先輩とかが亡くなったりしてるんですよ。で、彼らから学んだいいことや悪いことを、次の世代に託すっていうのがぼくらの役割なんだろうなって。
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