そしてゲームクリエイター・飯田和敏は「カネ乙!」と言った――「アナグラのうた」を作った男たち:アナグラ座談会(2/3 ページ)
「予感は悪い方に的中した。GAMEは強制終了されてしまった」――情報共有をパワーに変えていくこれからの未来のために、4人のクリエイターに聞いてみた。
「だからアナグラの物語って、けっこう悲惨な物語でもあるんです」
―― 科学館の展示としては、ビックリするくらい抽象的ですよね。
飯田 そこも悩んだんだけどね。でも未来館側から、今までの手法そのものを壊したいんだって言われて。未来館ってこの10年間、日本の科学博物館のフラッグシップであり続けてきたと思うんだけど、それを壊したい、その次をやりたいんだと。そう言ってもらえたのは大きかったですね。
―― 少なくとも、すごく心に残る展示にはなっていると思います。あとなにげに、物語がけっこう重い。
飯田 やっぱり、ある大事なトピックを人に伝えようってときに、普通に「こうなんですよ、どうですか?」みたいなプレゼンテーションをしていたんでは、これだけ情報過多の世の中、無視されちゃうんだよ。
中村 どれだけ強烈に印象に残らせるかってことですよね。
飯田 ゲームの方法論で言ったら、ええと、これあんまり言わない方がいいのかな……まあいいや。例えばある人がいて、その人の話を一生懸命聞かせたい。聞いてもらいたい。そういう時はどうしたらいいだろう、って考えますよね。
―― はい。
飯田 仮に、ある村で虐殺があったとする。あなたは「大丈夫ですか! 生きてますか!」ってひとり一人話しかけるんだけど、全員死んじゃってる。すごく絶望的な気持ちになる。でもそこで、遠くから女の子の泣き声が聞こえてきたら、誰だって助けたいと思うじゃないですか。「キミ大丈夫だった? 名前はなに?」って、きっとみんな真剣に耳を傾けると思うんですよね。
―― うん、それなら絶対に耳を傾ける。
飯田 そういう真剣さが必要だと思うんです。特に、こういう分かりにくい展示の場合はね(笑)。
中村 ははは、やっぱり分かりにくいよね(笑)。
飯田 で、それを毛利さん(※3)にも話したんですよ。そしたら、さすがにこういう公共の場所で、ジェノサイドって表現は難しいけれど、言っていることはよく分かるし、自分も宇宙から地球を見たときにおなじことを思ったって。毛利さんがいた宇宙空間って、360度なんにもない、極限の虚無の世界ですよ。それこそ防護服に1ミリでも穴があいたらすぐに死んでしまうような世界。だけどそこでふと真っ青な地球が目に入ったときに、アッと思ったんだって。ああ、ここに人が住んでるんだ、この地球の、超薄い表層の部分に、あらゆる生き物がつつましやかに暮らしているんだと。それを聞いて、ああ、同じじゃんって思った。
―― それもたぶん、空間情報のひとつですよね。地球上で、みんなが生きているっていう。
飯田 だからアナグラの物語って、けっこう悲惨な物語でもあるんです。1回見ただけでは分からないかもしれないけど、これは5年間の常設展示だから、何度も来て、少しずつ分かってくれればいい。例えばアナグラって呼ばれてるけど、部屋の中なのになんでアナグラなんだろうとかね。
中村 あと歌詞は絶対、ちゃんと聞いてほしい。物語全部を理解して、そのうえで聞くとちょっと笑える歌詞があったりして。
飯田 登場人物とかもね。そのあたりは公式サイトにも載ってるし、あと本(※4)も置いておいたから。
―― あの本、さりげなく置いてありますけど、実はかなりいろんな情報が入っていますよね。
飯田 しかも寺田克也さんがね、イラストを書いてて。
―― え、あれ寺田克也さんが描いてるんですか!
飯田 うん、喫茶店で、なんか書いてくれませんか? ってお願いしたら「いいよー」って。あと編集長は伊藤ガビンさん。
―― えええ、ガビンさんとワビンさん(※5)のコラボレーション! そのへん、もっと表に出さなくてよかったんですか(笑)。
飯田 出しましょうか(笑)。伊藤さんもね、紙の本を編集するのは久しぶりじゃないかなあ。
「被災地ですよ。そこでガレキの山の中で書いた」
―― 例えばこれから体験する人に向けて、ここを見るともっと楽しいよ、みたいなところはありますか?
中村 とりあえず全部の装置はひととおり触ってみてほしいですね。
飯田 ぼくはやっぱり、あの本かなあ。あの中にはずいぶんいろんな思いをぶっちゃけたんだけど、ずっと書けなかったんだよね。作家じゃないし。それでどうしたのかっていうと、久慈に行った。
―― 久慈ってあの久慈ですか?
飯田 そう、三陸の。被災地ですよ。そこでガレキの山の中で書いた。たぶんそこじゃないと書けなかった。それは人生のうちで1回しかできない大技だと思うし、ぜひ手にとって読んでほしい。自分でも感動しますよ。
―― 息子さんへのメッセージもちょっと入っていたりしますよね。ぼくはそこを読んで、不覚にもグッときちゃいました。
飯田 たぶんね、プライベートとパブリックが一致していくのが情報共有社会だと思うんですよ。だから個人のエゴだって怒られるのも半分承知していたけれど、親から子への思いって人類に共通するものだと思うし、それはそのまま、消えた博士と遺された装置の関係でもあるんです。
―― そうやって聞くと、実はすごくシンプルな概念なのかもしれないですね。空間情報科学って。
飯田 そうなんだよね。ぼくもこの1年間ずっと考えてきたんだけど、最終的に思ったのは、「この技術があれば、安心して迷子になれるぞ」だった。
―― ああ、それはすごく分かりやすい。
飯田 子供がどこで何をしていようが、生きてることが分かるし、どこに行くかも分かる。おなかがすいてたら誰かが食べさせてくれるだろうし、ほっとけるじゃないですか(笑)。自分だって、気ままに行きたいところに行けるようになる。Googleマップなんか見なくてもね。
―― ぼくもよく自転車で迷子になりますけど、そうなったら便利ですね。
飯田 それはつまり、自分が世界に見られているってことなんですよ。監視されてるんじゃなくて、ソフトに守られてる状態。そういう意識で見たときに、ディストピアじゃなく、これはユートピアにつながる技術かもしれない、って思えた。でもそこへ辿り着くまでには長い議論の時間が必要でしたね。
―― すごくメッセージ性の強い展示でもありますよね。ただ技術を説明するだけじゃなく、それでみんなシアワセになろうよ、ってところにまで踏み込んでる。そのあたりは議論になったりしませんでしたか?
飯田 だから噛みつきましたよ。最初に科学館側から提案されたのがもう、空間情報科学を使ってよりよい社会にしましょう、っていうメッセージそのものだったんです。よい社会ってなんだって。そこ実はあんまり考えてないでしょって。
―― やっぱり噛みついたんだ(笑)。
飯田 一歩間違えたらビッグ・ブラザー(※6)ですよ。空間情報を使った金儲けや犯罪が行われるかもしれないし、テクノロジーの歴史ってのは、ある意味暴力の歴史でもある。この技術にしたって、やっぱり悪い想像はいくらでもできちゃう。って、それをずっと柴崎先生(※7)に言ってたら……。
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