イタリア人オタクのコスプレ好きは異常?:海外オタク見聞録
日本でコスプレしてる外国人の多くはイタリア人。彼らにとってコスプレの総本山である日本への“巡礼”は重要なようです。
世界コスプレサミットやコミックマーケットなどの取材を通じて、海外からやってきたサブカルオタクの人たちについていろいろと面白い発見やエピソードがありました。本コラムではそれを紹介していきます。
筆者は2007年夏に横浜で開催された世界SF大会Nippon2007に参加し、各国からやってきたSFファンと交流を持って以来、日本のさまざまなイベントにやってきた外国の人たちに話を聞いてきました。はるばる日本にやってくるくらいですからオタク的に濃い方が多く、来日したばかりのアメリカ人に「来期のアニメはこれを見るべき」などとレクチャーされるに至っては、一瞬日本人としてのアイデンティティを見失いかけたほどです。
最初の頃はこのような「濃い」方たちに驚かされてばかりでしたが、そのうちはたと気がつきました。日本のシャーロキアン(シャーロック・ホームズの熱烈なファン)がロンドンのベーカー街で現地の人とホームズについて語ったとしたら、多分同じような状況になるでしょう。そう、海外からやってきたオタクたちにとって私たちは「本場の人」だったのです。
これまでに10カ国あまりの人たちと話してきましたが、話してみないと分からないようなこともたくさんあります。その1つがイタリア人コスプレイヤーの多さです。日本に来てコスプレしてる外国人コスプレイヤーに国籍を聞くと、時によっては半数くらいがイタリアと答えています。日本政府観光局の統計を見ると、2010年に観光で日本を訪れたイタリア人は4万2746人、1カ月平均では約3500人と決して多くはありません。しかし、過去5年の取材を通じて集計したところでは、日本でコスプレしてる外国人の中では圧倒的にイタリア人が多いのです。
そんなイタリア人に話を聞くと、「そうなんですよ、コスプレ好きは多いですよ」という答えが返ってきたり、きっぱりと「日本にコスプレをするために来た」と言う人もいます。「そんなまさか」と思う方もいると思いますが、ここでその証拠とも言える写真を。
春に幕張メッセで開催されたアニメコンテンツエクスポでキャプテンハーロックとメーテルにふんしたお2人です。もちろんイタリア人で、このかさばる衣装を“このためにイタリアから運んできた”のです。
イタリアでも日本のアニメやゲームに関するイベントがあり、2大イベントLucca Comics & GamesとROMICSには多数のコスプレイヤーが参加します。そのほかにも毎月のように各地でコスプレイベントが開催されていますが、彼らにとってコスプレの総本山である日本への巡礼はとても重要な意味を持っているのです。
「イタリアではまだコスプレしたことがなく、日本でコスプレデビューするために来ました」という人にも複数会いました。彼らにとってはコスプレ発祥の地・日本でコスプレするのが夢なんですね。ビートルズファンがアビーロードのあの横断歩道で写真撮るのが夢だったり、テニスをやっている人がいつかはウィンブルドンでプレイしてみたいと夢見るように。
イタリアでは仮装してパレードするカーニバルがあり、コスプレもその延長線上という意見もあるようですが、イタリア人のコスプレ好きの本当の理由はわかりません。でもなんというかBorn to Cosplay(コスプレするために生まれてきた)というのが私のイタリア人の印象ですね。
最後にいくつかイタリア人のコスプレ写真を。
【豆知識】コスプレとマスカレード
「コスプレってアメリカのSF大会が起源じゃないの?」という質問を受けることがあります。アメリカのSF大会では、スタートレックに出てくるエンタープライズ号の乗組員やクリンゴン人の仮装がかなり早い時期から行われており、これをマスカレードと呼んでいます。
このマスカレードが日本のSF大会にも伝わって来ましたが、その後日本発のキャラクター「海のトリトン」の仮装が現れ、これが日本最初の「コスプレ」という説と、SF作家小谷真理氏による火星のプリンセスが最初という説があります。小谷真理氏やコスプレ評論家の牛島えっさい氏に話を聞いたところ、日本初のコスプレについては「それ以前からあった」とのことで実際にどれが最初か特定するのは困難な印象を受けました。
アニメ(anime)が日本製のアニメーションを指し、アニメーション(animation)とは区別されているように、コスプレは日本発のキャラクターが対象であり、マスカレードとは区別されています。
例えば、世界SF大会で見られたこのコスプレは、ロバート・A・ハインラインのSF小説「宇宙の戦士」に登場するパワードスーツです。ハインラインの作品なので本来ならばこれはマスカレードに分類されるのですが、このパワードスーツは加藤直之氏による日本版の表紙のもの。さらに隣のランドセルを背負った女の子を伴っていることから、伝説のSF大会と呼ばれている1981年のDAICONIII(第3回大阪SF大会)のオープニングアニメ(編集部注:アマチュア制作とは思えないクオリティで当時話題になった)の「コスプレ」であることが分かります。
著者紹介
松岡洋は日本のポップカルチャー情報を発信するONETOPI「日本のポップカルチャー」のキューレーター。1980年代に「月刊アスキー」に寄稿。海外で起きている日本ブームについて「なぜ日本に魅せられたのか」を調査し、ONETOPIで紹介している。
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