刑務所や少年院など、全国にある矯正施設の受刑者たちから絶大な支持を得ている、女性歌手ユニット「Paix2(ペペ)」。
矯正施設では歌手や芸人さんなどがゲストとして招かれる、「慰問」と呼ばれるイベントがある。だが、彼女たちは慰問と言う表現は決して使わず、「プリズンコンサート」と表現する。「加害者が居ると言うことはその対極には被害者の方々が居る事を忘れてはいけない」と言う2人は、2000年のデビュー以来およそ15年間で359回(平成27年1月時点)もの慰問(プリズンコンサート)をこなし、全国の刑務所から引っ張りだこの“刑務所アイドル”。もはや施設内ではAKB48よりも知名度があるようで、塀の中の受刑者たちをメロメロに魅了してやまない存在なのだ。
矯正施設に縁遠い私たち一般人にとって、「刑務所の慰問」と言われてもなかなか想像するのは難しい。「なんかいかつい人たちが暴れそう」「ヤジや煽りがすごいんじゃ……」などイメージも偏りがちだが、ぶっちゃけ実際のコンサートはどんな雰囲気なのだろうか。
井勝めぐみさん(以下、めぐみさん) 「私語は一切禁止で、曲を披露している最中の手拍子も禁止。すっごく厳しいんですよ。歌い切った後の拍手は許されているんですが、一緒に歌うのも基本的にNG出し、口ずさんでもダメ。振付をノリノリでするのもNGなので、もちろん途中退席も禁止です。し〜〜〜〜〜〜んと静まりかえる中、何百人もの人たちがギッチリと並んで固まったまま、私たちを凝視してくれてる光景はすごく迫力がありますよ(笑)」
正直、その独特な雰囲気に圧倒されたり、不安にかられたことはないのだろうか?
北尾真奈美さん(以下、真奈美さん) 「最初はやっぱり皆さん迫力ある顔の方も多くて、ステージに上がった途端に手がブルブルと震えだしたこともありました。基本的に受刑者の皆さんは言葉を発しちゃダメだから、MCで何か問いかけても何にも返ってこないんですよね。歌っているときも静まりかえってるし……。それが施設のルールだっていうことは慣れていけば分かるんですけど、活動を始めた当時は『私たちの歌そんなに盛り上がらないの……?』『MCが受け入れてもらえないほど未熟なのかな』って落ち込んでしまったり(笑)」
誰も動かない、声を出さない……、静まり返った会場ではメンタルも相当鍛えられそう。当初は「何度も心が折れそうになった」という2人だが、活動歴15年・359回も全国の矯正施設をまわっている2人だからこその“受刑者イジリ”の技があるという。
めぐみさん 「意外にも『刑務所だからこれを言っちゃいけない』っていうガチガチのルールはないんですよ。過激すぎたりしなければ大丈夫。でも活動を開始したばかりの頃は私たちも余裕がなくて、本当に手探り状態でしたけどね。いろいろ経験しながら体を張って覚えていったというか……」
真奈美さん 「MCでは“刑務所ならではの専門用語”を入れると案外ウケが良いんです。例えば、施設内の作業の報酬として出される作業報奨金や、収監されるときに預ける手持ちの金品のことを“領置金(りょうちきん)”というのがあるんですが、『出所したら作業報奨金か領地金でCD買って下さいね〜!』って言っちゃう。すると受刑者の人たちは『なんでそんな言葉知ってるんだ?』って私たちに興味を持ってくれるんですよ。地方のコンサートでその地域の方言を使うアイドルと同じで、『自分たちのことを知ってくれているんだ』『ただ歌を歌いにきたアイドルとは違う』って思ってくれる。より身近に感じてくれるんだと思います」
めぐみさん 「相方(真奈美さん)は見た目が明るくてちょっと天然系かなって見られるところもあり、キャラとして許されちゃうところがあるんですけど、隣で聞いてるとたまにヒヤヒヤしますよ。オリジナル曲の中で『元気出せよ』という曲があるんですが、拳をふりあげる振付けをしてもらうときに『隣の人にぶつからないように気を付けてくださいね〜。殴り合ったらまた取り調べ室に連れていかれちゃいますよ〜!』って笑顔で言い放ったり。その瞬間、さ――っと血の気が引いちゃいました(笑)」
でもこんな“イジリ”ができるのは、長年の実績がある「ペペ」だからこそ。
めぐみ 「気を付けているのは『上から目線の説教じみた話にならないようにする』こと。やっぱりそれぞれの事情で収容されているわけですから、“慰問”っていう言葉もちょっと違うのかなって思うんですよね。だから私たちはプリズンコンサート、または(メッセージコンサート)という言葉を使うんです。それでもコンサートの間だけは同じ目線に立って、一体感を重視する。受刑者の方々も動作や言葉では感情を表せないけど、目やにじみ出る雰囲気で『今楽しんでるよ』っていうのが伝わる瞬間があるんです。それを察したり感じられるようになったのも、15年間ずっとやってきたという経験があるからです。少々のブラックジョークを言える雰囲気を作るためにも、積み重ねた時間と関係性という根っこの部分がしっかりできていないとダメなんだと思います」
相手の表情や視線から相手の心を察する力、独特の雰囲気の中でも会場を盛り上げるテクニックなど、プリズンコンサートをこなす中で次第に身に付いて行ったさまざまな力。それが「ペペ」の魅力となって、今彼女たちのもとには、元受刑者たちからのお礼の手紙やメールがひっきりなしに届くという。
めぐみさん 「元受刑者の方の中には、『2人の歌に出会えたおかげで社会復帰ができました。心の応援歌として辛いときに何度も思い出して励まされた』とわざわざ手紙を送って下さる方も大勢います。施設以外のイベントでも、会場まで駆けつけてくれる方もいたり……。それはすごくうれしいし、私たちにとっても原動力になる。最初はすすめられて始めた矯正施設での活動ですが、『何か一貫して続けられることを見つけよう』って覚悟を決めて、今日までこうして続けることができて本当に良かった」
真奈美さん 「施設でのコンサートって基本的にボランティアなんですよね。活動を開始してから数年の間は会場までの移動費(ガソリン代)はもちろん、収入にはほとんどつながらないので2人とも貯金を崩したり生活を切り詰めて生活していたんです。同じ音楽業界の人たちには理解されないことも多かったですが、徐々にプリズンコンサートの活動が使命感に変わっていった。『これだけは絶対続けたい!』と強く思うようになったんです。2014年の9月から保護司(保護観察官と協力して犯罪や非行をした人の立ち直りを助ける民間のボランティア。非常勤の国家公務員で法務大臣から委嘱を受ける)に任命していただいたので、保護司としての活動をより広く知ってもらったり、私たちのプリズンコンサートの活動を通しても、何かを考えるきっかけになってもらえればうれしいです」
全国の矯正施設で精力的に活動を続ける「ペペ」には、将来かなえたい夢がある。それは紅白出場。しかも「刑務所のグラウンドから生中継で歌を届けたい」という。
めぐみさん 「人生には裏と表があります。大晦日に家族団らんであったかい時間を過ごしている人がいる一方で、閉ざされた塀の中で生きている人たちもいる。幸せの対極にある世界を目の当たりにすることで、今自由に暮らせている私たちがいかに幸せか、恵まれているのかという“当たり前の幸せ”に気が付くこともできると思うんです。それが犯罪抑止にも繋がるかもしれない。だからあえて刑務所のグランドという対極の場所から歌を届けたいんです。もちろん『こんなものを見せるな!』っていうクレームも多いかも知れません。でも反応があるだけで、それはすごくありがたいこと。だから私たちはこれからも自分たちの信念を貫いて活動を続けたいと思います。独特なコンサートのおかげで、心もかなり鍛えられましたからかなり折れにくいですよ(笑)」
(青山ゆずこ)
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