東京都現代美術館で開催中の「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展に展示されている現代美術家・会田誠さん一家の作品をめぐり、美術館側から作品の改変・撤去要請があったとして注目を集めている。
会田誠さんは、「会田一家」として、妻の現代美術家岡田裕子さん、中学生の長男とともに作品を展示している。削除要請があったのは2作品で、3人で制作した白い布に毛筆で「文部科学省に物申す」と書かれた「檄」という作品、会田誠さんが昨年制作した「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」というビデオ作品。
削除要請の経緯
会田誠さんがネット上に掲載した文章によると、担当学芸員である藪前知子氏とチェ・キョンファ氏と昨年から小まめに連絡を取り合い、準備を進めてきた。それにもかかわらず、展覧会が始まってから1週間ほど経った7月23日と24日に、チーフキュレーターの長谷川祐子氏と企画係長の加藤弘子氏から、出品作のうち2作品に対する撤去要請があったという。
また、削除要請の経緯については「(美術館)友の会会員1名」からのクレームがあったことと、東京都庁のしかるべき部署からの要請があったことをうけ、美術館として協議・決定したと説明されたそうだ。
撤去要請が不当であることを主張
会田誠さんは、削除要請についての経緯を説明したうえで、布の作品「檄」についての制作意図を書き、撤去要請が不当であることを訴えている。
まずこの作品は、見た目の印象に反して、いわゆる「政治的な作品」ではありません。現在の政権や特定の政党を、利する/害するような文言は一言も書いてありません。文部科学省という役所全体に対して、不平不満を述べているだけです。
布には、会田家の食卓における日常会話のうち、3人それぞれの立場から感じた「日本の教育への不満」を抜き出したものがベースに書かれており、長男は生徒として、妻は保護者として、会田誠さんは「オヤジ臭く『国家百年の計』のようなことを述べているそうだ。そして、3人の声を6メートルもの布に墨文字でしたためた理由は、以下のように説明している。
「個々人が持っている不平不満は、専門家でない一般庶民でも、子供であっても、誰憚ることなく表明できるべきである」というのは、民主主義の「原理原則」「理想」です。簡単に言えば「我慢しなくたっていい」「声を押し殺さなくていい」——その基本的な人生態度を、僕は子供たちにまずは伝えたいと思いました。その態度を少し大袈裟に、少しユーモラスに、そしてシンボリックなビジュアルとして示そうとしたのが、この「檄」と名付けられた物体です。
子ども向けて展覧会にふさわしくない?
会田誠さんは、展示内容について、「子ども向けではない」という意見についての反論として、作品に込められたメッセージを説明している。
ここに書かれているのは日本国の教育制度に関する話——いわば「大人の事情」ですが、そのようなものを子供たちの目から意図的に遠ざけ隠す行為は、基本的に良くないことだと僕は考えます。
(中略)
「大人たちの作った世の中の仕組みは、ただ従順に信じるのではなくて、つねに疑いの気持ちを胸に秘め、警戒して生きてゆく——そういう“背伸び”はした方がいいんだよ」という、これは僕から子供たちへ伝えたい大切なメッセージです。
ちなみに、記事執筆時点で東京都現代美術館から、撤去に関する発表はない。展示作品の撤去が実施されれるのか、美術館側の発表にさらなる注目が集まりそうだ。
(林健太)
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