熊本地震における、被災者支援のありかたが問われるなか、静岡県が2007年に開発した避難所運営ゲーム「HUG」が注目を集めています。
「HUG」は、ボードゲームを通じて避難所の運営ノウハウを学べるツール。名前は「避難所」「運営」「ゲーム」の頭文字から取られており、「避難者を優しく受け入れる(ハグする)」という意味合いも。これまで各地域の自治体や町内会において、防災の講習会に活用されています。
ゲームは6人以内で編成された、数グループでプレイ。避難所の受付に相当する読み上げ係が、250枚のカードを順に読み、プレイヤーはその指示に従って避難所マップにカードを配置します。全カードを置いたら、各自が行った対応についてグループ間で意見を交換し、ゲームは終了。この流れのなかで、プレイヤーはおのずと避難所運営における判断力や知識を養えるわけです。
編集部は静岡県地震防災センターへ取材し、より詳しいプレイングの実態をうかがいました。まず読み上げ係やグループ分けが決まったら、避難所のマップを用意。マップはマニュアルに掲載されたものをコピーするか、地域の実際の避難所間取り図を使います。
そして震度や天気、季節や時間帯など、災害発生時の状況を想定し、ゲームの前提条件として設定。例えば雨天では避難者の受け入れを急ぐなど、設定はプレイングに影響を及ぼします。
グループ内で自己紹介を行い、緊張をほぐしてからプレイ開始。読み上げ役が山札を順に読んでから、各グループに渡します。カードは1セット250枚で、うち200枚は年齢やケガの状況が書き込まれた被災者カード。1世帯ワンセットで、まとめて配られます。
プレイヤーは被災者の情報を考慮して、避難所のスペースに配置。例えば、お年寄りのいる世帯は移動が容易な1階に、比較的健康な人は上階に配するなど、きめ細やかな判断が必要となります。
カードの残り50枚はイベントカード。その内容は「トイレに行きたい」「タバコが吸いたい」といった被災者の要望や、周辺地域の企業や団体からの救援物資提供など、災害時に起こり得る事態ばかり。イベント発生時は、仮設トイレをどこに配置するか考えたり、喫煙者に我慢をお願いしたり、救援物資受領の段取りをしたりと、対応を求められます。
イベントには、「メディアが取材に来る」「総理大臣が総勢20人で見舞いに来る」といったものも。駐車スペースの用意や、被災者への配慮を考えた受け入れ体制を考える必要が生じます。過去の事例では、「この非常事態に対応していられるか」と取材スタッフを追い返したり、陳情のため総理だけ避難所に迎えたりと、思い切った判断をしたグループもいたそうです。
最後にグループ間で意見を交換し、各自の判断が適切だったかを参加者全員で考えます。静岡県地震防災センターの担当者いわく、「HUGに正解はない」とのこと。ゲームは手段に過ぎず、プレイの過程でさまざまなノウハウを蓄積することが、一番大事な目的。強いて挙げれば、「滞りなく、全被災者を無事に受け入れられたプレイ」が正解と言えるそうです。
担当者は「カードはものを言わない」とも語っています。災害時はゲームと異なり、運営が思い通りに事を運べるとは限りません。ゲームだからとパズルのように、被災者カードをきちんと整列させても、それはそれで問題。被災者がどのような思考をするかまで、きちんと考えて並べることが重要ということです。
2007年当時、静岡県では大地震の被災経験がなく、対策のノウハウを得る手段に苦慮していたそうです。そこで、より実践的なノウハウを学べるツールとして、「HUG」を開発。その後各地の講習会で活用され、導入した仙台市泉区では、東日本大震災時に「HUG」で得た経験が役立ったとのこと。
「HUG」はNPO法人静岡県作業所連合会・わ店舗にて、ワンセット6700円(税込)で販売中。事前試用や緊急の運用においてのみ、2週間の貸し出しも行っています。また、静岡県地震防災センターでは体験会を毎月催しており、個人が災害時の対応について考えるいい機会になりそうです。
(沓澤真二)
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