鳥嶋和彦、田尻智、シブサワ・コウ―― とんでもないインタビューを量産し続けるサイト「電ファミニコゲーマー」とは何者なのか(6/6 ページ)
電ファミニコゲーマー編集長であり、インタビュー連載「ゲームの企画書」を手がけるリインフォース・平信一さんにお話を聞きました。
清濁併せ呑むゲームメディアが理想
―― 今後、「電ファミ」はどういう方向を目指していくのでしょう。
平:
少なくともキュレーションサービスとして便利だな、と思えるレベルには持って行こうと思っています。それと並行して独自の記事を作る部分もやっていこうと。今は「ゲームの企画書」一本ですけど、多彩な連載や、ゲームメディアの良さを体現した部分を作って行きたいなと。万が一「電ファミ」が閉鎖しますというとき、みんなが悲しんでくれるようにはしたいです。
―― まだ始まったばかりのサイトじゃないですか(笑)
平:
そういう信頼感を持ってもらえたらいいなと。「ゲームの企画書」が一時止まりますって言ったら「マジかよ電ファミ使えねえ」って言われるぐらいがちょうど良いかな。惜しんでもらえるのは光栄な話なので。
―― 最も盛り上がった感のあった鳥嶋さんの記事は、PVはいかがでした?
平:
あの記事1本で、数日間、そこそこ大きなニュースサイトに匹敵するくらいアクセスがありましたね。僕も長年記事を作ってきていますが、インタビュー記事でTwitterのトレンドに載ったのは初めてでした。
稲葉:
それこそ懐古趣味ではなく、現代にも通じる普遍的な話がこもっていた現れでもありますよね。
平:
PVが「電ファミ」の100倍あるサイトって、いくらでもあると思うんですよ。でも、「ゲームの企画書」だけである種の存在感が持てるのも、1つのメディアのあり方かなと。今でもWebメディアの価値を測る指標はPVで、そこに広告がひも付いてビジネスモデルになっている。でも、PVだけで勝負してたら成り立たないクオリティも一方ではある。その壁を乗り越える突破力を持つことが課題ですね。
―― PVだけを狙っているまとめサイトもありますしね。
平:
それこそ鳥嶋さんの記事より、子猫の写真とかが100万PVとか叩き出すこともあるわけですよ。それを否定するわけじゃないですが、その価値観だけで動くと、本当に読者を含めて幸せなのという疑問はある。ネットの競争環境でコンテンツや文化が豊かになってるかというと、同じ方向ばかりに最適化されて、豊穣さを損ねているかもしれない。鳥嶋さんも、本当のクリエイティビティはむしろクローズドな環境の方が有利だとおっしゃっていて。それを丸ごと肯定するわけではないですが、そういう面もあるでしょうし。
―― もう1つの柱である、キュレーションの部分についてはどうですか。
平:
個人のブログは面白ネタを広く取り扱えるのに対して、なぜか商業メディアはそれぞれの企業の枠組の中でしか展開できなくて、しかも全部コストをかけてやっている構造なんですね。実は商業メディアよりTwitterの方が情報の鮮度も高いし、商業メディアが取りこぼしている情報もちゃんと入っている。それは当然負けるでしょう、という問題意識があって。でも、ゲームメディアの人たちもTwitterの話題を知らないわけじゃないし、言及したくないわけじゃない。そこをキュレーションで補完できることが理想だと思っています。まだうまくやれているかというと、やれてはいないんですが。
―― 結構ゴシップに近い記事まで拾っていて驚きましたが、そこの線引きはどう考えていますか。
平:
難しいですね。メディアの体裁からいうと、それを望まない人もいっぱいいる。じゃあ、そちらが多数かというとそうでもなかったり。どちらに寄せていくのかは考えていかないといけませんね。
―― どちらも否定しない、どちらもアリという立場ですか。
平:
まとめブログは、「情報に貴賎はない、面白い情報が正義」という立場ですよね。逆に商業メディアは、そこまで「面白い」に対する純粋さはなくて、良くも悪くも独自の価値観で色分けして記事を作っている。そしてライトな人たちには、まとめブログのほうが面白く映っているという現実がある。僕自身、別にまとめブログのやり方を肯定するわけではありませんが、そこで単に嫌って思考停止するよりは、自分たちも現実に真摯に向き合ってみるべきだとは思うんです。別に「ゲームの企画書」みたいなのがゲームメディアのあり方全てだとは思わないし、違う価値観があってもいい。
―― 最初におっしゃっていた「ゲームメディアのいろんな課題」というのもそのあたりでしょうか。
稲葉:
今までゲームメディアって、ごく一部の情報しか取り扱えてなかったと思うんですね。それでTwitterやまとめブログ、YouTubeやニコニコ動画が出てきたことで、ゲームの話題を語る場が外に広がった。「電ファミ」は、そうした広がりを初めて認めた商業メディアかなって思ったりしましたね。
平:
逆に「ゲームの企画書」の価値観しかなくなることの方が危機だと思います。それってメディアとして回らないから。良い記事を作ることだけに特化しても、それをひたすら続けていくのは大変なことで、それではビジネスとして破綻してしまう。もっと清濁併せ呑んだ価値を持った上で、それが全てゲームに向けられるのが理想の姿ですね。
―― 今までのゲームメディアとは違った価値観ですね。
平:
細かいところですが、「ゲームの企画書」の末尾にある関連記事って、自社グループのサイトですらないんですよ。あれは意図的にやってることで、純粋にユーザーの視点で考えれば、面白い記事がグループの外にあっても貼ればいいじゃんと。それはWebで当たり前のように行われていることですよね。でも商業メディアは自ら足枷をはめていて、取材にしても「どうせできないから」と相手に打診すらしないことが当たり前のようにある。ゲームメディアの人たちはすごく濃いし面白い才能を持ってるのに、変なルールにとらわれて力が発揮できてないとは感じているんです。そこの意識を改革することで、スゴいものを出していけないかな、とは考えてます。
―― 連載に個人ブロガーの方を採用されているのも「面白いものは全て平等」という意図ですか?
平:
今声をかける方々に関しては、純粋に「面白いかどうか」だけで判断していますね。面白いと思う人に声をかけて、やりとりをした感触がよければ動き出す。それだけですね。
稲葉:
連載周りは、僕と平さんが一番多くの企画を立ち上げてますね。2人とも極度にクオリティ至上主義なので、プロだろうがブロガーだろうか関係ない。他のジャンルでも面白ければ全然いいじゃんと。
平:
「ゲームの企画書」で1点気になってるのは、みんなレトロゲーム系のサイトでしょと思われてることで。そこが、新しい企画で払拭できたらいいなと。
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