「日常に潜む恐怖を探し出すのが好き」 若きホラーマスター、デヴィッド・F・サンドバーグが考えるホラー
映画「ライト/オフ」公開直前、ホラーの天才はこんな考え方をしていた。
2013年に動画サイトに投稿され話題となった恐怖映像を、「ソウ」「死霊館」などで知られるジェイムズ・ワンのプロデュースで映画化した「ライト/オフ」が8月27日から公開される。
2013年当時まだ無名だったデヴィッド・F・サンドバーグが動画サイトに投稿した短編映像は「2度と電気を消して眠れない!」などの反響が寄せられ、1億5000万回再生されるなど大きな話題に。ジェイムズ・ワンをして「若き日の俺」といわしめ、「アナベル 死霊館の人形」の続編のメガホンを取ることも決まっている若きホラーマスターのサンドバーグ監督に、ホラーの神髄を聞きました。
ライトの「明暗」を「うつの闇」と「幸福の光」の象徴として描いた
―― 「電気を消したら何かが現れる」という映像仕掛けが興味深いものでした。これはどう着想したのですか?
サンドバーグ ある晩たまたま思い浮かんだ面白いアイデアだったんだ。誰にでもあることだと思うけど、電気を消すと人影が見える気がして、「まさか」と確認するように電気をつけるだろ? 「その人影が本当だったら?」というのがこの作品の原点なんだ。
実は僕、うつ病を患った経験があるのだけど、長編ではライトの「明暗」を「うつの闇」と「幸福の光」の象徴として描くことにした。これは長編を企画する上で早々に決めていたね。
―― ショートフィルム、映画ともに冒頭のシーン、電気のスイッチ1つで恐怖の影を出したり消したりしているようで、スイッチの「音」が非常に効果的に使われていると感じました。この演出はどう考えられたのでしょう。
サンドバーグ 「音」というのは本当に大事だよね。これはジョージ・ルーカスの言葉だと思うけど、「映画体験の半分はサウンドだ」と言っていた。ホラー映画は特にそうで、映像以上に音が大事といっても過言ではない。誰かが暗闇の中へ消え、そこから音だけが漏れ聞こえてくるとものすごく怖い。想像が勝手に膨らむから、実際に映像で見るよりも怖いと思う。
だから僕にとって、音はものすごく大事。短編を作るときも一番時間を掛けるのがサウンドデザインなんだ。今回の長編を撮るときも、できるだけサウンドミキシングとサウンドデザインの作業に関与させてもらった。もちろん制作スタッフにはサウンドデザインのチームがちゃんとあって、監督がいちいち口を出すわけにはいかない。専門職である彼らの知識とセンスを信頼して作業を彼らに委ねなければならなかった。でもうまくいったよ。彼らは素晴らしい仕事をしてくれた。
―― ショートフィルムと長編映画では暗闇から現れる影の「正体」は異なるもののように感じました。監督の伝えたかった「恐怖」のコンセプトに変化があった?
サンドバーグ いや、特に変わったわけではないよ。そもそも短編では化け物の正体は掘り下げていなくて、面白いアイデアが浮かんだものだから遊んでみただけ。長編ではジェイムズ(・ワン)のアイデアで、化け物をより幽霊のような存在に仕立てることにしたんだ。短編ではどちらかというと悪魔的な存在だったからね。だけど大まかな仕組みはほとんど変えていないよ。
―― ショートフィルムはYouTubeで1200万回以上再生され大反響を呼びました。そうしたユーザーたちの感想で印象に残っているものはありますか?
サンドバーグ とにかくあそこまで皆が熱烈に褒めてくれたのには驚いた。わずか2分半の短編なのに、あんなに楽しんでくれるなんてうれしい。「あのショートフィルムにインスパイアされた」と言ってくれる人も多く、自分たちでショートフィルムを作り出した人も多いみたいだ。本当に楽しいね。
―― 映画は、暗闇から現れる恐怖と戦う家族のドラマで、大切なものを守ろうとする彼らの姿も印象的でした。長編を制作するに当たって、「家族のドラマ」という設定、展開はどう生まれたのですか?
サンドバーグ ホラー映画にありがちなのは、子どもに想像上の友達がいて、それが実は幽霊だったという設定。僕はそれをひっくり返したら面白いんじゃないかと思ったんだ。つまり、親にそうした友達がいてとらわれている設定にした方が怖いんじゃないかと。子どもは親を頼らないといけないから逃げることもできないし、人に言っても信じてもらえないかもしれない。この映画で「家族」を描くことになったのにはそんな逆転の発想が原点にあるね。
日常に潜む恐怖を探し出すのが好き 何だって怖いものにできる
―― 「アナベル 死霊館の人形」続編のメガホンをとることも決定したとのことで、今後、どのような「恐怖」を世界に振りまいていきたいと考えていますか?
サンドバーグ そう。アナベルはもう撮影に入ってるよ。今後は、とにかく人を怖がらせる新たな手法をどんどん生み出したい。短編を撮っているときは、「日常からいかに恐怖を生み出すか」ということを常に意識している。別の短編で「Coffer」という収納箱を使ったものもあるんだけど、あれもたまたま家にあった箱だった。
「あそこに何かが潜んでいるかもしれない」とか「あそこに入ったらどうなるか」とかあれこれ想像してみながら作った。日常に潜む恐怖を探し出すのが好きなんだ。何だって怖いものにできる。
―― 他の短編もそのうち長編にできるかもしれませんね。
サンドバーグ そうだね。「Pictured」も長編にしてみたいし、「Cam Closer」もそう。いずれも膨らませることのできるアイデアだと思う。
―― 最後に、映画公開に当たり、スクリーンで観客にどんな恐怖を味わってもらいたいですか?
サンドバーグ とにかく楽しんでほしい。最初から最後まで怖がらせっぱなしじゃなくて、楽しいシーンもあるし。僕にとって映画館の醍醐味(だいごみ)というのはね、観客がその場で笑ったり驚いたりする反応がじかに伝わってくることなんだ。僕も早く映画館まで足を運んで観客の反応を確かめたい。
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