不憫(ふびん)な女の子っていいですよね。
あっ、いじめたいとかじゃなくてですね。ある程度自分の意見をいえる状況なんだけど、場に流されて、こりごりだーとか感じてしょんぼりしてるのが好きなんです。「とほほー」が好きなんです。
最近のとほほキャラの筆頭は、3巻が発売されたばかりの「ダンジョン飯」のマルシルです。エルフの魔法使いで、パーティの補助+攻撃魔法担当。多分常識人。わりと気が強い。彼女はなんでも食おうとするパーティで、散々文句を言いつつ振り回されることになります。かわいそうに。うふふ。
不本意ながらツッコミ・被虐キャラの旗を掲げて
マルシルがパーティに参加してダンジョンにもぐる理由は、レッドドラゴンに飲み込まれてしまった親友のヒーラー・ファリンを助けるため。一応ファンタジー的ルールで成り立っているので、すぐには消化されないみたいです。
ところがファリンの兄であり剣士のライオスが、サイコパスレベルで魔物好きなのが大問題。「あらゆる魔物を食べたい」という欲求でダンジョンを進み、なんでもかんでも食べようと画策する。歩くキノコやバジリスクならともかく、絵の中の料理や動く鎧を食べようとした時は、さすがにバカなんじゃないかと総ツッコミされました(食べたけど)。ライオスの問題児っぷりは前の記事をご覧ください。
関連記事:あいつ魔物を見る目がやばい、食べる気だ―― 仲間もドン引き、「ダンジョン飯」主人公ライオスの異常な味覚探求心
迷宮で出会ったドワーフ・センシは魔物食への探求に忙しい。鍵師のハーフフット・チルチャックは大人びた仕事人のため、そこまで取り乱すことはない。
ということで、取り乱す役回りは全部マルシルに降りかかります。
読者の「まじで!」という感情は、大体マルシルが背負ってくれます。
自分が死にかけた人喰い植物のうんちくを喜々として語るライオスには、つめた〜い視線を浴びせます(あとで食べるけど)。クラーケン(巨大軟体生物)の中にいた巨大寄生虫を見て、食べられるとか言い出したライオスのアホに対して、泣きながら「やだ!! い や だ!!」と訴えます(あとで食べるけど)。
どう考えてもマルシルの言うことのほうが、理解しやすい。ただし「正しい」「間違い」の基準が何なのか、といわれると悩んでしまう。マルシルは受難しつづけるわけですが、この「食についての正誤」は、冷静なチルチャックが考え、哲学することになります。マルシルはそれどころじゃないです(食べるけど)。
駄々っ子マルシル
マルシルがなぜ、ここまで魔物食をいやがっているのに、最終的に食べるはめになるのか。そもそもライオスもセンシも、彼女に無理強いは一切していません。自分で最終的に選択をして、食べます。
彼女このパーティに在籍することに、とてもこだわりがあるからではないか? というのも、序盤でマルシルは、自分の居場所について悩んでいたことがあるからです。
パーティでは体力が一番低いエルフの魔法使い。一番のネックは移動。というか冒険における行動の9割は移動。彼女が使用する魔法は、戦闘時か、行き先に詰まった時(水上など)に使うものです。できれば使わないほうがいい。
となると、自分の存在価値をどうしても見失いがち。マンドレイクに精神をやられた時、彼女は本音をこぼしました。「みなさんのために何も力になれないのは 寂しいです」。
TRPGなどをやっている方なら分かると思いますが、やることない時ってほんと、申し訳ない気持ちにすらなるもの。仕事もそうですね。分かってるんですよ、自分の出番じゃないだけで、みんなが迷惑に感じているわけじゃないこと。
分かっているのと、納得できるのは別。兄のライオス以上に、友人のファリンを救うために無償で、一番必死になっているのは彼女です。「みんなの役に立ちたい」「自分が頑張っているって認められたい」「ファリンを何が何でも助けたい」。いろんな思いがないまぜになって、思春期をこじらせた女の子になってます。実際は結構な年(少なくとも30歳以上)なんですけどね。
腹減っているからだけじゃない。同じ釜の飯を食うことは、仲間の連帯感を産みます。なんだかんだでこのパーティが好きなんだよ。……ってのは3巻で分かります。
メンバーはこのへん非常に冷静。自分の領分をはっきり理解し、任せるところは任せる、背負うところは背負う。というかマルシルいないと全然前に進めないんですよね。最大火力ですし、回復持ちですし。
駄々っ子なのは、彼女の裏表ない魅力です。完全に心開ききって、素のままでいられるのって、すてきだと思うな。
実は美食の快楽に弱いマルシルさん
散々「魔物食はやだ!」と言ってきたマルシル。話が進むにつれ、よほどのことがない限り食べるようになります。一番彼女が成長(?)したのは、魔力不足の時に、体内から吸収するため「ウンディーネを飲む!」と言い出した時でしょうか。ライオスとセンシですらもびっくり。
基本的に彼女は、新しい魔物に出会った場合、食べるのを一度は拒絶します。しかし食べておいしいと、わりと夢中になります。そもそも外では結構いろいろなものを食べ歩いているようなので、食事は好きなんです。
夢中になりすぎです。おいしさの快感にはとことん弱い。今までの中での彼女のお気に入りはこんな感じ。
- 人喰い植物のタルト(1巻)(おいしさの分析をしている)
- ローストバジリスク(1巻)(よだれを垂らして夢中で食べた)
- ゴーレム畑の新鮮野菜ランチ(2巻)(普通の野菜なので大喜び)
- そこらへんに落ちてた大麦の雑炊(3巻)(魚卵の正体を知らないまま喜んで食べた)
- 水棲馬(ケルピー)の焼き肉(3巻)(レバーばっかり食べさせられたせいで、「他のとこも食わせろ」と発言)
- ウンディーネで煮込んだテンタクルスと水棲馬のシチュー(3巻)(センシと一緒に調理した)
わりと喜んでます。
拒絶担当・マルシル
「ダンジョン飯」という作品は、未知の食に対しての対応を、キャラごとに分割して描いています。
なんでも食べちゃうライオスは飽くなき好奇心、生物の存在を考えて慎重に調理するセンシは蓄積された知識と試行、ライオスの行動を踏まえて食を思索するチルチャックは役割分担と、生物を食べることへの倫理。そしてマルシルが食への危険察知と拒絶です。
いずれも欠かせない。マルシルが嫌がる時は大抵、食べることへの問いが生まれます。気持ち悪さだけではない。殺してまで食べていいのか。ダンジョンの生態系を崩してはいないか。
3巻まで来ると、おいしいからだけでなく、必要なものにはきちんと手をかけて調理して食べる、という考え方がじわじわとマルシルにも染みこんできます。彼女たちの食を見て、他パーティの冒険者は顔をしかめます。魔物は食べない、というのが地上に住む民の常識。でもちゃんと食べられるのは、読み進めれば分かる。常識って言葉に意味はあるのかなあ、ねえマルシル。
ライオスはほっとくと何でも食おうとするので、結局マルシルの頭に血が上る。恐らく今後どれだけ慣れてきても、マルシルは拒絶し続ける気がします。試してみることと、拒否することは、同じバランスじゃないといけない。
なので、これからもマルシルには涙目になっていただきたい。というかぼくは涙目で「とほほー」なマルシルがもっと見たい。だって不憫かわいいんだもの。
ダンジョン飯、ああダンジョン飯。
(たまごまご)
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