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「春画」の語源は「中国の健康本」だった!? 奥深い春画の世界(2/2 ページ)

歴史好きの歴女さんたちに集まっていただき、春画の面白さを再発見。

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春画とは何か

岡崎礼奈さん

もともと春画って言葉自体、中国にあった春宮秘画というものから来ています。それって伝説上の黄帝と素女(性愛と健康をつかさどる女神)のふたりのやりとりを描いたものなんですけど……それはつまり何かっていうと養生法、つまり健康法なんですよ。


井口えりさん

健康法!?


 春画は健康法を表した絵からきた言葉だった――

岡崎礼奈さん

中国も日本も古い時代って陰と陽のバランスが重んじられていたんですね。男女もそうですし、プラスマイナスのバランスが崩れると物事全てがうまくいかなくなるっていうのが根本にあるので。

男女の行為っていうのは体内のバランスを整えて、体を正常に保つ上で大事な要素だと考えられていたんです。その伝説上の帝と女神の行為を元に、陰と陽のバランスを崩さない健康的な体を作るっていう、生活習慣の一環とか病気にならない体を作るための方法とか、医学本みたいな感じのものでもあったんですね。

そういうものが日本に入ってきて、春宮秘画を略して春画という言葉として成立させたといわれています。なので、春画って中国の影響をすごく受けているものなんですよ。江戸時代に入ってからも、中国の春画をお手本にした作品はたくさん作られています。

日本では戦国武将とかがお抱えのお医者さんに、こういう医学の本を作らせていた歴史があります。「房中術」っていうんですけど男女の営みを食べる・寝ると並ぶ大事な要素として、武将としてふさわしい健康な体を作るというものです。今回展示には出ていませんが、東洋文庫では曲直瀬道三(まなせ どうさん)という織田信長や豊臣秀吉とかを診ていたスゴ腕のスーパードクターが武将の松永久秀に依頼を受け、直々に作った「養生本」っていう目的の春画も所有しています。なので、春画の目的って実はさまざまなんです。読んで楽しむため、健康になるため、めでたいものとして……。


黄綿史さん

私、(養生本を)ちょっとだけ読んだことがあるんですけど、事を致すときの内容も、「こうすれば健康」みたいな内容で、「そ、そうなんですか……」ってなりました。


岡崎礼奈さん

そういうときにまずどんな準備からはじめるかっていうのと、時期とかもちゃんと決まっています。1カ月の中でこういうタイミングで行えば健康を害さない、むしろ健康にいい。みたいな感じだったんですけど、だんだん江戸時代を過ぎていくとただの健康本じゃ味気なくなってきて「もっと春画としての面白みもつけたい!」みたいな傾向になっていきます。


中村秋日子さん

戦国時代までは貴族とか武家とかお偉いさん向けだったものが文化が発展し、庶民にも紙とか筆とかが行き渡るようになってから春画って発展していったんですよね。


岡崎礼奈さん

そうですね、描かれる内容もものすごく広くなっていきます。幕末の北斎の春画で、一番どぎついって取り上げられるのってあの有名な「蛸と海女」……。あんなの最先端すぎますからね。文化の中で「一体誰の需要にこたえてるの!?」っていうものが生まれちゃっているので、そういうものに対する需要もかなり多様化していたってことが分かります。


篠木由喜さん

脈々と受け継がれていますよね……日本人にこの方向性は……。今の人が考えるようなシーンは全部昔の人がやってる。


岡崎礼奈さん

やってる! 最先端きどれない(笑)。アブノーマルな要素も豊富に描かれてるし、それこそBL(ボーイズラブ)要素なんて、平安時代くらいから既にあります。例えばお寺でお坊さんが稚児っていう10代くらいの若い男の子たちに手を出してしまうとか、そんな関係性は古くからシーンとして描かれています。

春画については一応1722年の時点でそういうわいせつなものは販売しちゃいけませんよっていう条例が出て禁止されているんですけど、まあ気付いても黙認してるんだろうってぐらいにさまざまなものが出回っていました。さすがに書店の目立つ所に並んでいたらダメですけど、お店の中に上がればちゃんとありますから。すぐに手に取れたと考えられます。


中村秋日子さん

禁止している幕府も絶対読んでいますよね。


岡崎礼奈さん

読んでいます! だって江戸城内で交換してたぐらいですから! 大名たちも発注しているぐらいですしね。


篠木由喜さん

禁止されていたからこそ練羊羹みたいな特殊タイプがうまれるっていうの、ある意味日本のよさを感じますね。


岡崎礼奈さん

江戸の出版関係の人は、基本流行っているものにガンガンのっかります。今だったら著作権侵害や名誉毀損(きそん)で訴えられそうなやつも春画の世界ではいっぱいある。庶民が読んだりする娯楽本みたいなものに春本もあるんですが、相手役の男性が第一線で活躍している歌舞伎役者の名前で出ていたりするんですよ。


全員 えーー!


岡崎礼奈さん

こんなの、今だったら絶対訴えられる。当時も怒られたりはしたんだろうとは思うんですが、出したもん勝ちって部分があったんじゃないかなあと。あと、そういう意味でも女の人も読んでいたんだなって思いますね。「人気俳優の名前を出せば女性ファンの心をつかめる」ところだと思うので。商魂たくましいですよね。


中村秋日子さん

今でいう夢小説みたいなもんですよね」(※夢小説……多くの場合、版権キャラクターとの交流が書かれる二次創作の一種の小説。キャラクターの相手はオリジナルだったり、自分に置きかえて楽しむことができるもの)。


岡崎礼奈さん

そうそうー! 私が今この役者さんに抱かれているのよって自己投影して楽しんでいた人もいたかもしれないですよね。夢小説とか二次創作とか楽しむ人の需要もあったのではないでしょうか。


井口えりさん

日本人……やっていることずっと変わらないな……なんか安心しました。


春画って面白い!

めっちゃ食い入るように見てしまった
めっちゃ食い入るように見てしまった

 スケベ絵だったり、健康本だったり、縁起物だったり、お守りだったり……。

 日本人の技術と遊び心が凝縮された春画には、江戸で暮らす人たちの粋や工夫や願いがたくさん詰まっていたのです。春画ってなんて面白いんだろう!

 春画は、せっかくの芸術的な作品でありながら、全国の博物館でも所有はしていても非公開にしている博物館も多いようです。これからそうしたものにスポットが当たり、まだ発見されていない面白い作品とたくさん出会えるのではないかと一方的に楽しみにしています。

 東洋文庫で現在開催中の「本のなかの江戸美術」展は12月25日まで。江戸時代の絵師の技術力の高さや創意工夫を実際に見られるチャンスですよ!

関連文献:へんてこな春画 石上 阿希(著)
記事協力:蔵原大(東京電機大学非常勤講師、アルテス・リベラレス開発研究所)

井口えり


シミルボン

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