似合わないことをしっかりこなせる人こそが、かっこいいんだ 「バイプレイヤーズ」5話、おじさんたちの学生服姿にキュン!:ねとらぼレビュー
松重さん「自分を殺すことも必要なんじゃないかなあ」
テレビ東京のドラマ24「バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」。第5話は「バイプレイヤーと撮影中止」。一番恐ろしい言葉です、撮影中止。
今までのおさらい
名脇役で知られる俳優6人。個性をデフォルメしながら、本人が本人を演じる形式のドラマです。3カ月のシェアハウス生活をすることになった、遠藤憲一さん、大杉漣さん、田口トモロヲさん、寺島進さん、松重豊さん、光石研さん。5話までくると、和気あいあいムードです。毎回最初に入る朝食シーンは仲良しすぎて、ニヤニヤもの。
ただ1点。10年前に皆で撮ろうとして完成しなかった自主制作映画「バイプレイヤーズ」が気がかり。誰かがフィルムを盗んだ。大杉さんは残り5人のことを疑っていましたが……。
第5話では学園モノMV撮影に6人そろって参加することに。お金かかってるなあそのMV。いや、ジャスミンの罠かもしれないけど。
学生服に身を包む中年バイプレイヤーズ
先週の予告で、「ドキドキ大好き!フケメンパラダイス」のタイトルと6人の学生服姿が出た時点で、心の中で拍手喝采でした。日本を代表する名俳優に、この格好をさせますか。ポーズに6人の個性が出ていてニヤニヤします。
特に遠藤さん、すごい笑顔とキレの良いポーズ。バイプレトークによると、最初は嫌がっていたけど、いざやる段になってがっちり決めたようです。
寺島さんの、体の傾ぎ方、ちょいヤンキー風な着こなし方もたまらない。光石さんは一生懸命やっている感じに、独特な温かさを感じます。
大杉さんはメガネも相まって、昭和の学生感半端ない。多分学級委員長とかそういう。個人的に一番似合っている気がするのが田口さん。体の動かし方が若々しいんですよね。
そして今回の中心人物、松重さん。いやあ、似合わない!(褒めてます) 背の高さとダンディズムが売りなだけあって、若い制服がどえらいミスマッチ。
「ミスマッチ」であることを受け止め、キャラクターを演じるのが俳優。出落ち気味なこの6人の格好が、まさか後半あんなにかっこよく映るとは。
今回はコスプレ大会。先生たちに扮(ふん)する4人が、まー似合うのなんの。特に大杉さんの用務員のおじさんの、いるいる感。田口さんの理科の先生はマンガみたい。このメンツで、職員室モノドラマ撮ってくれませんかねえ。寺島さんは仕事で遅れている設定ですが、もし先生役なら何の先生だろう。
現場での、行き場のない苦悩
佐藤日向さんのMVで、野村周平さんとクラスメイトを演じることになった松重さん。フケメン学園ドラマというトンチンカンな設定の中で、松重さんは何一つ文句を言わずに仕事に挑みます。学生になりきって、満面の笑顔で応援する演技、見事なものでした。
今回は野村さんから先輩たちを見る作りになっています。彼はこの仕事を正々堂々頑張りたい。なのに監督がちゃらんぽらん。チャラチャラしていて横暴で雑。周囲のスタッフは困惑続き。行き当たりばったりで、具体的な指示がなく、まともにやってくれない。
受けたこのMVの仕事も、ちゃんとこなしたいと感じているから、野村さんは監督に対して憤る。途中本気でブチ切れるものの、この仕事を捨てられず、歯を食いしばる。
ただ唯一吐き出した相手は、松重さんでした。
野村「ちょっとおかしくないですか……流行ってるからだとか、バイブスだとかで。曲に対しても失礼だし」「確かに制服着ること多いですけど、作品のテーマとかメッセージに共感して、その中でも少しでも力になれるように撮ってるんで……なんか今日みたいな現場だと、誠意が感じられないっていうか、なんかどう頑張っていいのか」
「作品」には、多くの人が関わっている。それを読み込んで、納得して、演じようとする。野村さんには、誇りがありました。けれど「制服着て、よくある感じで、恋して恋されてなんてつまんないでしょ」とか、BL入れて腐女子狙いとか、納得させる誠実さもなく、適当に言い出す。
今まで自分が演じてきた「男子学生の青春表現」の、侮辱です。作品ひとつひとつ、どれも大切にしてやってきている。よくある感じって一括りにするな、全部違うんだ。
でもこういう憤りは、「若いから」感じるというものではない。みんな経験するもの。きっと野村さんも、そう感じたから先輩である松重さんに相談したのでしょう。
「自分を殺すことも必要なんじゃないかなあ」
松重「やるとなったら、腹をくくる。作品をベストなものにするために頑張る。そのためには自分を殺すことも必要なんじゃないかなあ」
俳優・松重豊(作中人物の方です)の役者論です。演技をする時はやるときめたら、自己主張は持ち込まない。役をこなすことが、最優先。
人によって必ずしも納得いく解答ではないと思います。特に今回のような自分勝手な監督に対しては、きっちり縁を切るのも重要だと考える人もいる。だから同じ泥舟に乗りたくない、とダンサー陣は帰ったわけですし。
恥ずかしい、納得がいかない、思想と合わない。作品によってはいつか必ず突き当たる問題。だって、「自分」だけの作品じゃないから。
映像に関わる人みんなそうやって傷つき、折り合いをつけてきたのかもしれない。
松重「作品っていうのはさ、それを作りたいと強く思ってる誰かがいるわけじゃない? かかわる人は大勢で不満も出るけど、俺達はその誰かに必要とされてるわけでしょ。だったらそれに答えて、俺達にできることを全力でやる。それだけじゃないのかなあ」
不満がゼロってことは、なかなか無い。でもみんながそれはそれとして仕事をするから、なんとか完成する。
これを、身をもって見せるバイプレイヤーズ6人。制服で踊る6人なんてキュートなんだろう、と思っていたのに、ドラマをひと通り見た後だと、もうかっこよくてしかたない。これが俳優の生き様なのだ。
彼等が笑顔で、佐藤さんの後ろで踊っているのは「俺達にできることを全力でやる、それだけ」だから。
6人がMVにおけるこの踊りに共感したとかは、多分ないでしょう。「笑顔」「踊る」「フケメン」という、言うなれば「道化になってよ」という、ある意味失礼なリクエスト。答えるのが彼等です。
多くは語らない。演技で語る。それがバイプレイヤーズ。
あの監督はなぜ痛い目に遭わなかったのか
今回ちょっとだけモヤっとするのは、あれだけ騒ぎを起こした監督が、なんとなく最後ラッキーな感じで撮影を終えたこと。野村さんをあれだけ苦しめて、ダンサーに怒鳴り散らかして、でも最後撮影は成功し、手柄のようになった。
確かにあの監督は誰が見ても問題児でしょう。けれども、あれはあれで才能として、必要とされている場所が多分あるから、監督をやってきている。
松重さんは、言われたことはやる、という距離感で接しています。逆に言えばそれ以上接触を持ちません。
ドラマ的にはあの監督がギャフンと言わされて心を入れ替える展開があった方が、カタルシスはあった。でも撮影現場ってそんなものじゃないし、このドラマも勧善懲悪ではない。どちらかというと、理不尽なこともあるよ、というブルースだ。
もしかしたら彼は今後やり方を変えるかもしれない。変えないかもしれない。バイプレイヤーズも次また会うかもしれない。その時も、仕事をするだけ。プロですから。
映画「バイプレイヤーズ」をめぐって
次回からはドラマ現場にスポットを当てたものではなくなりそうです。
特に、10年前に撮った映画「バイプレイヤーズ」に対してのミステリーが掘り下げられる様子。
大杉さんが別荘に全員招いて隠しカメラ仕掛けるって、奇行すぎでしたよ。でも今回で、彼が心の底から「バイプレイヤーズ」にこだわっていたのがわかります。大杉さんが、どうしても撮りたくて、みなを必要としていたんだなって。
仕事をする時は、自分を殺すことも必要――。劇中、松重さんはそう言っていました。けれども「必要としてくれる人がいるから、最後までやりたい」という自分の思いは、大事にしてもいいはず。大杉さんが撮りたいと思ったから、「バイプレイヤーズ」は絶対撮りたい、と10年前に松重さんは考え、今もそう思っている。
みんな、松重さんのこの役者魂に、打たれます。だって自分たちだって、そうだもの。続けたかったもの。
今回はジャスミンがかわいかったですねえ……1話から裏がありそうな彼女ですが、今回のを見る限り、素なのかな。少なくとも6人のことが、大好きなようです。
(たまごまご)
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