鹿児島県鹿児島市にある猫カフェ「にゃんCafe猫之坊」の経営者が猫を置き去りにしたまま失踪していることが、6月28日に動物愛護団体からの報告で明らかになりました。店内は汚物やゴミで溢れかえり、猫4匹が息絶えている状態で発見。現在生き残っていた13匹を同団体が保護し、ネットで里親や支援を募っています。
ここ数年は廃業状態だった「猫之坊」
鹿児島市の健康福祉局保健所生活衛生課獣疫係によると、最初に発見したのはカフェの上階に住む大家さん。猫の鳴き声が騒がしいので部屋を開けてみたところ惨状に気づき、6月21日に同係へ相談しました。店内は異臭が漂い、ノミも大量発生していたとのこと。子猫3匹と成猫1匹が死んでいた他、生き延びていた13匹も痩せこけ、中にはノミアレルギーで毛が抜け落ちている猫もいました。
「猫之坊」は2013年3月に第一種動物取扱業へ登録、5月ごろから営業を開始。SNSで猫の情報を頻繁に発信していましたが、2015年7月から更新はぱたりと止まっていました。大家さんによるとここ数年はほとんど営業しておらず、経営者がカフェで寝泊まりする状況が続いていたそうです。廃業届も出されていませんでした。
市や大家さんから経営者へは連絡が取れない状態が続いており、いつからなぜ店を空けているのかは分かっていません。子猫が生き延びていたり、活発的に逃げ回る猫もいたりしたことから、最近までエサが与えられていたのではないかと市の担当者は推測しています。
「動物愛護管理法」で愛護動物の遺棄や虐待は犯罪として禁止されています。また猫カフェ営業にあたる第一種動物取扱業を営む者も、「動物の管理の方法や飼養施設の規模や構造などの基準を守ること」が義務づけられており、「猫之坊」経営者の行為はこれらに抵触しそうです。獣疫係では今後の対応について、市の各部署や警察へ相談を進めています。
生き残った猫は、市の動物愛護団体「犬猫と共生できる社会をめざす会鹿児島」が保護。近日中に13匹を別の場所に移し、体調が回復した後に順次里親探しをしていくとしています。復調や人への警戒心を払拭するのに最低1カ月以上はかかる見込みで、どの猫が不妊手術をしているか確認作業も必要。保護に要する物資の提供や寄付をFacebookで呼び掛けています。
猫カフェ経営に対する覚悟の欠如 法制度の不備
猫を保護した中村順子さんは、鹿児島市内で猫カフェ「猫と人のいやし処 そら猫」を営業。同業者として今回の件について、猫カフェを経営する場合は相応の覚悟を持ってほしいと訴えます。
「今回は偶然耳に入ったので公になりましたが、猫カフェで猫たちが人知れず放置されるケースは今までもおそらくあったと思います。猫カフェって世間的にはいいイメージでしょうが、実際には経営はかなり難しいんです。鹿児島市では私が知るだけでも3店舗も閉まっています。軽い気持ちで始めてこういうケースになることも今後ありうるので、覚悟がなきゃやれない商売というのがもっと広く知られてほしいです」(中村さん)
また「自治体にも立入検査を定期的に行って欲しい」と、猫カフェの経営放置がまかり通ってしまう法制度の問題にも触れていました。
環境省に取材したところ、動物愛護管理法において第一種動物取扱業の規制は業種ごとに異なっています。例えばブリーダーといった「販売」業には営業報告が義務付けられていますが、猫カフェの「展示」業には定期的な検査や報告は法律で規定されていません。ちなみにドッグカフェ(飼い主が犬を連れていけるカフェ)のように飲食物を提供している店は、食品衛生法も関わってくるので報告義務が課せられてくれるとのこと。
自治体によっては猫カフェに立入検査を行っているところもあります。鹿児島県でも動物取扱責任者に「自治体が開催する研修会を1年に1回以上受講する」よう義務付けていますが、お店の経営状況を確認するというよりは、動物取扱の知識の向上を図るのが目的。市の担当者によると、講習会の案内を出す際に責任者と連絡がとれなくなることがありますが、だからといって特別に何か対応するわけではないそうです。
このように国や自治体による第三者の定期的なチェックがないため、経営者が猫の飼育を放棄しても発覚しにくい現状が猫カフェにはあります。今回の「猫之坊」の一件は、単に経営者に責任感やモラルが欠けているという話だけではなく、動物カフェ経営に対する法制度の不備も浮き彫りにしています。
(黒木貴啓)
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