「差し入れ屋」って何? 拘置所の差し入れシステムと未決囚の生活を支える商店を解説(前編)(2/3 ページ)
食品から布団までさまざまなものが拘置所の未決囚に差し入れられます。
そこで具体的には何がもっとも求められるのかを調べてみたところ、「書籍」との声が多くあがっていました。拘置所では差し入れ1回につき数冊(拘置所により冊数制限は異なるが大体3冊程度)の本が差し入れられます。拘置所内では、食事、運動(という名目で短時間外の空気を吸う時間)、就寝、そしてたまに入浴以外にはすることがほとんどなく、とにかく時間を持て余している人が多いとのこと。1日に数回決められた番組のラジオが流れるということもあるそうですが、多くの場合本を読んだり、手紙を書いたりして裁判までの日々を過ごすそうです。また読み終わった本は廃棄(※)するか、宅下げ(※)をすることができるので、本がどんどん溜まって困るということはないようです。
意外と人気があるもの
書籍以外に人気があるというのが「写真」。10枚程度を差し入れることができ、家族やペットの写真を居室で眺める人も多いそうです。。また拘置所の多くは冷暖房設備が十分整っていないことなどから、冬場は特に冷えるといい、コートや厚手のジャンパーなどを居室で着用したいと希望する未決も多いとのこと。規格内の衣服であればこうした差し入れも受け付けてもらえます。この他にもめったにないそうですが、布団や毛布などを希望し、差し入れが認められる場合もあります。
拘置所内でのマウンティング
数人が同室で暮らす雑居房で生活する場合には、官物(※)を使用して生活していることよりも、差し入れの品(特にスポーツメーカーやハイブランドの衣類やタオルなどが好まれる)を使用する方が「箔が付く」というウワサもあるようで、差し入れを要望する未決は少なくありません。しかし、こうした書籍や写真、衣服(のタグ)などには、容赦なく称呼番号(※)が書きこまれてしまいます。外部の人からするともったいないような気がしますが、未決にとっては、こうしたこだわりが日々の生活を左右するようです。
差し入れ屋の利用方法
先にも触れましたが、未決に対しての差し入れは誰でも可能であり、差し入れ屋の利用についても基本的には制限がありません。一般的な商店が拘置所によって差し入れ屋に指定されているという場合がほとんどなので、パンや牛乳といった商品を購入することはできます。
しかし近所の人がコンビニ代わりに差し入れ屋を利用するというケースはほとんどなく、利用者のほとんどは未決などの関係者。またときおり冷やかしで差し入れ屋を訪れたり、店に無許可で撮影を行う客がいるとのことですが、差し入れ屋の本来の業務を妨害しないためにも、こうした行動は慎むべきでしょう。
差し入れ屋を使うメリット
差し入れ屋を利用する最大のメリットとしては、「販売商品のほとんどが拘置所の定める規定・規格に沿ったものである」ことが挙げられます。拘置所においては、勾留されている人の安全や規律を守るため、非常に繊細なルールで差し入れ物品を検品しています。
また検品を行う担当者や拘置所によって微妙な差があることも事実で、「前回は認められたのに今回は不可」「○○拘置所では問題なかったのに、××拘置所では不可だった」というケースなどもあり、拘置所用にわざわざ購入した物品が中に入らないといったこともあることから、差し入れ屋を利用する人は少なくありません。
所持金で差し入れ屋から商品を購入できるのであれば、現金だけを未決に差し入れれば良いのではないか。という人もいるのですが、実は自弁購入できる物品と外部から差し入れ屋を通じて差し入れられる物品には微妙に差があります。これは自弁購入を請け負っている業者と、外部からの差し入れ業者が異なっていることがあるため、業者が違う場合には商品の品ぞろえも違ってくるのです。
差し入れ屋からの差し入れで入れられるもの
差し入れ屋で購入できるものは幅広く、衣服から布団までそろっているお店もあります。中でも人気があるのは食品で、「食べることくらいしか楽しみがない」という未決の要望に応えるべく、せんべいやチョコレート菓子、コーヒーに紅茶、あんドーナツにパン、サバ缶にフルーツにお弁当、ゆで卵などかなり力が入っています。
とはいえ、拘置所でも無償でボリュームのある食事が用意されている他、木嶋佳苗の拘置所日記を読んでみると、「バレンタインデーの夕食時にチョコが出た。Sweet Heartと筆記体で刻まれた不二家のハート型チョコレート。30グラム程のピーナッツ入り板チョコ」との記載があることから、祝日やイベントごとに応じて不定期に甘いもの(通称:甘食・あましょく)も支給されるようです。
差し入れ屋の商品価格
差し入れ屋で販売されている商品のほとんどは定価です。つまりスーパーなどで100円程度で売られている便箋が定価の150円だったり、198円のチューブ歯磨き粉が定価の240円だったりします。しかし差し入れるための手数料のようなものは一切かからないので、そうしたことを考えると、定価での販売にも納得がいきます。
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