「完全なファン目線で、どこまで凝れるか」 別次元のクオリティで『HiGH&LOW』世界を再現した「ハイローランド」誕生の秘密(3/4 ページ)
コンテンツへの深い理解と愛情。
目指したのは「アジト」な、THE MUSEUM前のスペース
THE MUSEUMの前の装飾に関しては、看板の位置関係とかコンテナの配置とかは事前に決めました。けど、あとの細かいものや汚しの具合とかは現場でなんとかしようと。このスペースって、ただの資材置き場になっちゃったらダメで、イメージとしては山王の連中とかが作った「自分たちのアジト」という感じです。そこを経由してMUSEUM内の世界観にお客さんたちが没入するっていう、まずそこの導入を作りたかった。だからどうしてもバイクは置きたかったし、入り口のところにソファとか置いてあるんですけど、そういうスペースも作りたかった。彼らの居場所だっていうのを表したかったんで。
――海外の不良が出てくる映画で廃ビルの床にいきなりソファを置いてたむろしてる絵面とかたまに見ますけど、ああいう感じですね。
そうですね。細かいところで言うと、ソファの前に木の箱が置いてあるんですけど、その上にタバコがあったりとか、そういうので「匂い」みたいなものを表現しています。あと、適当に単管パイプを組んでいるように見えるんですけど、実は周囲を囲うように配置してます。MUSEUM前の空間を閉じたいなっていうのがあって。分かりにくいですけど(笑)。
――でもなんとなく周囲と隔絶した感じはありました。
あとやっぱり、この周囲の光景に目を引くことで、MUSEUMの白いテントを忘れてほしかった。やっぱり違和感があるんで。テント自体は借り物なんで色を塗るわけにもいかないし、これはどうしようもないな……って感じだったんですけど。最初はもっと入り口寄りの部分にアジト部分を組む予定だったんですけど、いろいろあってエントランスの装飾がテント側に寄りまして。それでテントから目線を逸らすことができたんで結果オーライかなと。
――今言われて「そういえばテント白かったな……」って思い出したくらいです。
このアジト部分も一緒に作業してる仲間がけっこう楽しんで作ってて、「ここはこういう部品を付けましょうよ!」ってその場で自分から言い出したりとかはよくありました。いろんなとこにくっついてるホイールも、鉄骨屋さんに「ホイールとかどっか当たれない?」って話をしてたら「先輩の解体屋からホイール30本買ってきました!」っていきなり用意してくれたりとか。けっこうみんな楽しんでやってくれたんで、随所に愛情があふれていると思います。
――い、いい話ですねえ……。
あとMUSEUMの前にいっぱい旗があったと思うんですけど、あれはコンサートで実際に使ってたやつです。これはHIROさんが現場を見に来たときに「旗、いっぱいあるからあれも使おうよ」って言ってくれたんですよね。で、旗だけバーッてたくさん送られてきて、「どれ使おう……」って。
――MUSEUMの入り口付近にたくさん貼ってありましたね。
もともとコンサート用の旗なんで、道具としては強度が弱いんですよ。すぐ破けちゃう。でもハイロー的には破けてるのもアリだから、まあそれはそれでいいかと。半分くらいは装飾に使って、あと半分は入り口のところでバイトのお兄ちゃんに振り回してもらって。
――バイクとかもたくさん外に置いてありましたけど、あれはどうしたんですか?
3カ月間外に放置していいバイクってなかなかないんで、知り合いのバイク屋さんにあたって「捨ててもいいけど見栄えのいい大型車」ってない? って聞いて回りました(笑)。あとはハーレーのフレームとかラビットのカウルとか、そういうものも知り合いを当たってうちのワンボックス車で借りに行って。
――そういう作業は、やっぱり施工前の4月中にやっているわけですよね。
そうですね。だから今回に関していえば4月中が鬼のような忙しさでした。実際の工事に入っちゃえば、あるものを組み合わせていくだけなんですけど。例えば「MUSEUMの前にコンテナを3つ置くけど、コンテナどこから借りよう」とか、そういうことになるんです。しかも上からグラフィティを描くから、何やってもいいコンテナじゃないとダメ。コンテナのレンタル料金自体は安いんですけど、絵を描いてもいいかといわれると別問題なんですよね。上からシートを貼ってその上に描く選択肢もあったんですけど、それだとシートのコストもかかっちゃうんで、どうしようかなと。それでコンテナ屋さんをいろいろ当たっていたら、もともとボロボロのコンテナで、もう自由にしていいよっていうのを見つけたんですよ。世界観的には逆にボロボロの方がいいです! って即借りました。
――その調子で全部のパーツを集めてこなくちゃいけないんですもんねえ。大変だ……!
しかも3カ月外に放置していいものですからね。ソファにしても雨ざらしになるじゃないですか。革のソファで、座面が割れてるくらいくたびれてて、色は茶色か黒がいいっていう感じで小道具屋さんを探すんだけど、野外の展示となると小道具屋さんからは出ない。なのでリサイクルショップとかを当たって使えそうなものを集めるとか。
――そういうことを1つずつやっているわけですね……。
でも、かなり面白かったですよ。自分たちの思うように世界を作っていけたんで。キャラの目線になればストーリーを立てやすいし、しかもそれを一発で表現しやすい題材だったんですよね。気を付けなくちゃいけないのは「廃材置き場になっちゃいけない、ちゃんとアジトになってなくちゃいけない」っていうところで。
実物セットが入り乱れるTHE MUSEUM内部
MUSEUMの内部は先にテントの大きさだけが決まっていたんで、その大きさの中に何の要素を入れていくかっていうところから考えました。それぞれのチームが全部見られるようにしたくて。特にルードボーイズの所は2階建てにして、それを鬼邪高の階段につなげるっていうのは当初から絶対にやりたかった。やっぱりルードは高いところにいる印象があるんで。
――それは実際の展示でもちゃんと実現してましたね。当初のスケッチでは各チームのフロアの大きさが均等だったんですね。
これは最初のスケッチですけど、とにかく一晩延々考えて、これをベースにたたき直してます。やってくうちに全部のエリアを均等な大きさにすると全部がコンパクトになってしまうことに気がつきました。それと同時に気がついたんですけど、結局MUSEUMってセットを見せることになるじゃないですか。でもお客さん、特に若い女の子とかはやっぱりキャストも見たいよねっていうことになって。そうなったときに何ができるだろうというのを付け足すことになったんですよ。
――なるほど。キャラ自体も見られるようにしたいと。
キャストのみんなにVTRを撮ってもらって、各所にあるモニターでお客さんに話しかけてもらえるとか、最初はそういうのを考えたんです。でもちょうど映画を撮ってる最中だったので、さすがに今からそれをアテンドするのは難しいと。じゃあ今どきっぽくARとかできないですかね……なんてスタッフで盛り上がって。
例えばコブラだったら、いつもITOKANでコブラが座っている席があって、そこにカメラを向けるとコブラが座っている。そうするとコブラと一緒に自分も写れるとか、そういうことができたら面白いんじゃないかと。それで、映画撮影しているところに運営スタッフが急きょ写真を撮りに行くことになりました。そうなってくるとカメラの引きじり(カメラ後方のスペース)というか、各セクションが均等な大きさだと写真を撮るには狭すぎる。それで、ARのあるセクションとそれ以外で大きく広さに差をつけることになったわけです。
――はは〜。確かに複数人で写真撮ろうと思うと結構引かないとダメですよね。
それと、ITOKANは映画で使ったセットがそのまま残ってて、あと雨宮兄弟の部屋も部分的に残ってるという話があって、じゃあ人気のある2組だからそれはそのまま入れたい。ただITOKANは今までイベントで何回か飾ってるから、じゃあ雨宮兄弟の方を大きく扱おうかなと。映画の世界をそのまま見せるんで、劇中と違和感がある配置になってはいけない。そこでセットの図面はもらったんですけど、意外と簡単なものだったんで、細かいところは『RED RAIN』のあの暗い雨宮兄弟の部屋をデザイナーみんなでじ〜っと見て「どこに何が置いてあるんだ……」っていうのを目を皿のようにして確認しました。
――映画がもうできちゃってるから、そことズレるわけにはいかないですもんねえ。
他のところだと、MUGENのマークが大きく入った壁は実際に映画の撮影に使ったものですね。あとお金がかかっているであろうMIGHTYのネオン管とか、達磨のセクションのバックにあるマークの入った板とか、そのあたりも撮影用の道具です。これらもこっちで「これとこれを使わせてくれ」っていうのを勝手に倉庫の方から持ってきてはめ込みました。
――ITOKAN店内やTHE LANDの方の壁など、いろんなところに貼ってあったフライヤーやポスターがすごい枚数だったんですけど、あれはどうやって用意したんですか?
映画の方のスタッフが作ったものがけっこうたくさんあったんですけど、それプラス自分たちでも大量に作りました。これも4月頭からの準備期間の間にやった作業ですね。昔のアメリカのバイク雑誌とかをデザインの参考にしたりとか元ネタはいろいろあるんですけど、かなりのグラフィックを自作しています。具体的にはFUNK JUNGLEのフライヤーとかITOKANの店内に貼ってあるものとか、キャラが深く関わってくるものは映画の方のスタッフが作っています。
――ITOKANのメニューとか、ちゃんと価格が決まっててびっくりしたんですけど、あれは映画の方のスタッフが作ってたものなんですね。
映画のスタッフがやってることもわれわれがやってることもそんなに変わらなくて、あの世界観の中でどういうふうにお店が成り立ってるんだろうっていうのを詰めていく作業なんですよね。ドリンクも何がいくらっていうのを決めておかないといざそういう流れの芝居になったときに困るんで、先に細かいところまで決めてしまうんです。
ITOKANに関して言うと小道具も含め全部映画で使ったものですね。全部そのまま残してあるんで。
――じゃあ椅子とかカウンターとかも全部ですか!?
もちろん撮影に使った物です。
――ベタベタ触っちゃったんですけどいいんですかね……。
う〜ん、いいのかなって思ったんですけど、ファンからすればそっちの方がうれしいのは確かなんで。やっぱりコブラが座っているのと同じ椅子に座ってみたいだろうし、そこはちょっと触ってもいいことにしませんかと。最初は「やめといたほうがいいんじゃない?」って話もあったんですけど、結果的にうやむやになりました。鬼邪高の村山のソファとかは撮影に使ったものではないんですけど、同じ撮影用の道具屋さんから借りているものですね。
――太っ腹な話ですよね〜。撮影用の道具が触り放題の座り放題ってあんまり聞いたことがないです。
まあ例え壊れちゃっても、それはそれでOKという世界観なんで。テーブルや椅子とかで壊れている部分は、映画の撮影時にわざと壊した部分もありますし。なんで壊れているのかっていうのをちゃんと考えてやらないとそれはそれでリアリティが出ないんですけどね。
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