――台湾オリジナルラノベの独自色というと、どんなところでしょうか。
原子 台湾でのライトノベルの認識は「日本発の新興文芸の一種」で、基本的には「日本的なフォーマットを理解していること」が前提でした。ただ最近では「本土性」を前に押し出すスタイルも歓迎されるようになってきました。「日本的なフォーマット」の中に台湾独自の社会問題を取り入れるスタイルがその典型です。
例えば2014年に発売されたアドベンチャーゲーム「雨港基隆」は選択肢で物語が分岐するギャルゲーのスタイルに「228事件」という国民党による虐殺事件を落とし込んだ作品です。ライトノベル作品『前國民偶像要做國軍唯一的男子漢』(元国民的アイドルが国軍唯一の男性兵士に)では、台中関係の緊張が続く台湾でいまだに残っている「兵役制度」がテーマに据えられています。こちらでは「もし男尊女卑の世界がひっくり返り、国軍兵士が女だらけになった世界で、男が兵役に志願したら?」という筋書きを利用して、嫌われつつも逃れがたい兵役について詳しく描かれています。両作共に日本発の文芸スタイルを通し、台湾の本土性をフィーチャーしたヒット作で、今後こうした作風は増えていくのではないかと思います。
――独自色も出てきていると。とすると翻訳する上で難しい点もあるのでは。
原子 正直そうでもありません。対応する語句が無いといった言語の違いに由来する問題はもちろんありますが、あくまで「日本的な文脈」は意識されているので。翻訳する上で理解し難い表現といったものはあまりないです。
――出版はどういったところが手掛けているのでしょうか。
陳 現在の主要レーベルは、ライトノベルが登場する前からマンガなど、日本の書籍の代理販売を行っていた出版社によるものがほとんどです。最大手はやはり「台湾角川」で、日本作品の方面では最大級のレーベルとなっています。電撃文庫系の台湾版も、大部分が台湾角川を経由して提供されています。
――日本の作品が台湾で提供されるまで、タイムラグはだいたいどれくらいですか。
陳 日本の出版社から版権を受諾し、翻訳者を確保し原稿作成の期間を調整、編集段階に至るまで早くても半年、一般的には1年ほどかかります。ただしこれは日本側から授権できるタイミング次第なので、権利獲得が1〜2年後だった場合は、3年後にようやく出版ということになります。
――台湾のライトノベルを日本で出版する場合にも、日本と台湾の出版社間の連携が不可欠と思われますが、原子さんは今回署名活動もされてみて、どのような点が重要になってくると思いますか。
原子 何よりもまず、知名度が必要だと考えています。日本国内では「台湾にオリジナルのライトノベル作品が存在する」という事実自体、ごく一部でしか認知されていません。私の翻訳家としての知名度不足もさることながら、発信する側もどこに向けて情報を発信すべきか迷っているのが実情です。
身も蓋もない言い方になりますが、「得体の知れなさ」にはひとつ目を瞑っていただいて、とにかく1作品でもリリースしてくれるレーベル、それも比較的大手のレーベルがとにかく出版してくれなければどうしようもない、という印象です。日本の出版社へはもちろん、台湾の出版社へも働きかけていくつもりです。
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台湾出身のラノベ作家・三木なずなさんが執筆します。