「シャーロック・ホームズ」全60作品を原語から自力翻訳し、自身のサイト上で無料公開している寺本あきらさん。過去数回にわたり「ホームズ」への熱い思いを語ってもらいましたが、今回はやや趣向を変え、英語学習について解説してもらいました。英検1級が余裕に感じ、TOEICも楽々こなせてしまうようになる勉強法とは……?
目標を設定する
学習をする上で大切なのは目標を設定することです。私の英語学習の目的は、英米文学を原文で読むことだったので、とにかく多量の語彙がないと話になりませんでした。目標語数の算出方法については後述しますが、私の場合の目標語彙数は1万2000語。
受験でも、留学でも、TOEICでも、語彙強化は絶対に必要な学習です。語彙を増やすために、私がこれまで実際にやってきたことを簡単にご紹介します。
やはりアナログが覚えやすい
さまざまな学習方法がありますが、私はアナログな方法に勝るものはないと考えています。PCやスマホのデジタル機器によって、英語の学習環境は非常に便利になりました。大きく重い辞書が何冊もアプリとしてiPhoneに入っていて、簡単に検索できるなんて、ちょっと前まで考えられなかった夢のような環境です。
しかし、英ガーディアン紙によると、紙の本の方が電子書籍より記憶に残りやすいという研究結果も報告されています。違いが生まれる一因として、本を読み進むとき、紙の厚さの変化を眼と指で感じられる点が上げられています。
薄い本でさえ、あきらかな差があるのですから、高さ2メートル・1万枚の暗記カードになれば、どれほど大きな違いになるでしょうか。学習成果が「厚さ」という視覚と触覚によってありありと実感できること、これが「アナログ」学習の強みなのです。
それでは具体的に、どういった「アナログな」勉強方法を行ってきたのかをご紹介します。
まずDUOを丸暗記します
(1)はスキャナーでPDF化したもの。iPhoneなどでも読める。(2)はExcelに入力した560文。(3)は、A4にプリントアウトしたもの(8ページ)。(4)は、プリントアウトを四つ折りにした状態。これに超整理手帳カバーをかけて持ち歩いていた
語彙強化の鉄板ですが、DUO 3.0を丸暗記しました。『DUO』シリーズはアイシーピーから出版されている単語帳。『DUO 3.0』では重要単語1600語と重要熟語1000語がわずか560本の英文に詰め込まれているのが特徴です。
まず560文をExcelに手入力して、プリントアウトすると、9ポイントくらいのフォントで、A4 8〜9ページになります。これを復習用CDに合わせて、音読します。前置詞・冠詞・単語の単複の違いまで、1ミリの狂いもない状態で、頭の中にコピーします。CDの音声は非常に大事で、これを使ってシャドーイング(復唱)することで、リスニング力がつき、暗記もしやすくなります。この方法で基礎体力を身に着けていきましょう。
最強の単語帳を作ります
単語を完璧に身につけるには個別の単語を完璧に覚えることと、文脈で覚えていくことが不可欠です。そのため毎日、単語帳と向き合うことと、英字新聞(The Japan Times)を読む、という方法で語彙強化することにしました。ただ、単語帳の作り方には紆余曲折ありました。
まず、新聞を読んでいて見つけた知らない単語をカードに転記し、裏に辞書の語義説明を書く、という方法を採用してみました。ところが、単語カードを300枚くらい作ったところで、このやり方は効率が悪いと気付きました。理由は以下の通りです。
- 暗記すべきか単語かどうか、判断が難しい。
- 多義語の扱いに困る。辞書を細かく書き写すと時間がかかる。
- 記事を読みながら、カードも作るので、読むことに集中できない。
- 同じ単語のカードが複数枚できたりする。
作ったカードを分類する
そこで仕切り直しとして、手書きで作った単語カードを、アルクのレベル別語彙リスト(SVL)でチェックしてみました。SVLは1000語ごとに、レベル1〜12に分類されていて、全体で1万2000語あります。SVLで確認すると、レベル6〜12までがほとんどで、それ以上の単語の出現率は低い。つまり、SVLの1万2000語を覚えれば、英字新聞くらいなら、ギリギリですが辞書にそれほど頼らずに読めそうだと判断しました。
それからは、学習時間を「SVL(単語)を覚える時間」と「英字新聞を読む時間」に分け、片方で単語を詰め込みつつ、もう一方で英字新聞を速読することにしました。この方が、トータルでは時間が節約できるという計算です。
もちろん、全ての人が1万2000語を必要とするわけではないので、読もうとしている本やサイトから分からない単語を抜き出してみて、SVLのレベルに照らし合わせ、出現頻度が高いレベルの単語から重点的に覚えていくという方法も良いかもしれません。
「英辞郎」とExcelを活用する
SVL単位の単語帳を作成する元として英語辞書「英辞郎」に付属してくるテキストファイルを使いました。残念なことに最新の「英辞郎」では、テキストファイルがなくなっているようですが、英辞郎 第八版までにあるテキストファイルを元に、スクリプトを使ってCSVファイルを作成できます。なお現在(2017年9月)は、英辞郎 第七版、英辞郎 第六版、英辞郎 第五版、英辞郎 第四版、英辞郎 第三版、英辞郎 第二版、英辞郎 (第一版)、どれもAmazon.co.jpのマーケットプレイスに出品があり、第四版以下なら1円程度の安価な価格で出品されています。SVLのような基本語彙を学習するには、総語数はあまり関係ないので、どれでも大差ないはずです(多分、どの版にもテキストデータがあると思うのですが、私自身は持っていないので、購入は自己責任でお願いします)。
Excelへの読み込みが容易になるCSV変換スクリプトを私のブログで配布していますので、これから挑戦する人はぜひそちらも参考にしてみてください。
“寺本式単語帳”を作成する
レベル1は基本単語なので、レベル2から、知っている単語と知らない単語を区別していきました。この判定もなかなか難しいですが、やっていくうちに、自分なりの判定基準ができてきますので、最初は考えすぎないようにした方がいいと思います。こうして知らない単語だけをExcelのフィルター機能で抽出した状態で、片面プリントします。
プリントした紙の右側を折って、語義説明部分がちょうど隠れるようにします。全部折れたら、ホッチキスどめします。このとき、かなり厚くなる可能性があるので、いろいろなホッチキスを用意しておくといいでしょう。
語義を隠したり開いたりしながら暗記します。ある程度覚えている単語が増えたら、Excelのフィルターを全部見直して、最新の「知らない単語」一覧を作ったらプリントし直します。何度でも作り直しができるのが“寺本式単語帳”の利点です。最後にプリントした一冊を全部覚えれば、いったんそのレベルは完了です。
もちろん、デジタルでも使えますが……
スマホやタブレットのExcelアプリで表示すれば、もちろん電子単語帳にもできます。スマホなら、左右にスワイプして単語の意味を隠して使えそうです。タブレットなら語義を紙で隠すとか、マクロで表示・非表示を切り替えてもいいでしょう。Excelファイルをクラウドに置いておけば、いろいろな環境で同じ単語帳がつかえます。
このように、同じシートを「デジタル」「アナログ」で同時に使い分けられますので、自分で比較してみてください。「デジタル」は携帯性にすぐれますが、しらみつぶしに覚えていく場合はやはり「アナログ」の利点を実感できるでしょう。覚え進めるに従って、ページ数が減り、軽くなっていく快感をぜひ味わってみてください。
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