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「この飲み会、手品道具2つ分だな」 手品よりも奇妙な“手品人”たちの世界(1/2 ページ)

奥深くも奇妙な“閉じた”世界。

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これ全部、手品道具です

 ある程度の専門性をもった世界ならどこでも、その世界での「あるある」は、それ以外での世界では「ないない」になるものですよ、と、ある方から伺いました。

 そう言われて、わたしのいる手品の界隈をみてみると、確かにそうかもしれないと思わされることが多々あります。しかも、そういった「あるある」は、実は奇妙で、手品の世界を知らないひとにも、その奇妙さを楽しんでもらえるのではないかと感じられます。

 そういったわけで、手品界隈の「あるある」をご紹介してみようかと思います。

ライター:Bee

アラフォーの手品愛好家。手品道具や手品資料を買うのが趣味だが、手品を演じるのはそれほど好きではない。手品歴大体15年。

Twitter:@small_magician

ブログ:Small Magician MINI


「きれい」な手品とは何か?

 手品をしてますよ、というと、高確率で「手先が器用なんですね」あるいは「タネが分かれば演じられるんでしょ?」と言われます。手品についてのイメージがよく分かるコメントだな、といつも思います。後者については、多少の意地悪さも感じつつ。

 これについては、いずれも「ノー」であり、かつ「イエス」とお答えすることにしています。

 例えば、「楽器を弾くには歌の才能が必要」かといえば、かならずしもそうではないでしょう。また、「文字が書ければ小説が書ける」というわけでもないはずです。

 確かに、手品をするのに最低限の器用さは必要かもしれませんが、それはせいぜい、箸を使う程度の器用さです。そして、きれいに箸が使えるひとがいるように、きれいな手品をするひとがいる一方、そうではない手品をするひともいます。

 ここでいう「きれい」は、手つきや所作などについての形容でもありますが、演技構成についての評価でもあります。例として、2つの動画を紹介しましょう。

 まずはレイ・コスビーというマジシャンによる、「トランプの中のカードが少しずつ上に上がってくる」という演技です。



 次に、個人的に手つきがきれいな人の代表と思っている、Arsさんによる演技です。



 どちらも同様の演技をしていますが、Arsさんの手順ではトランプに段差をつけることでビジュアルを強調し、無駄な演出もなく、しかも最後に「消えた? と思ったら出てきた!」という分かりやすい現象として見せています。

 彼の演技は何度か生で見せてもらっていますが、その巧みな手つきに、演技構成のうまさもあいまって、これ以上に「きれい」なひとは見たことがありません。


タネが分かればできる?

 手品のなかには、タネが分かっていれば簡単に現象を起こすことができるものも多くあります。この文章をお読みの方のなかにも、カード当ての手品の種明かしを読んだことのあるひとがいるのではないでしょうか。

 しかし、簡単なカード当ての手品であっても、それを面白く演じられるためには、結構な工夫が必要です。



 例えばこの動画。「グラスアクト」というだけあって、液体の入ったグラスがたくさん出てくるのですが、うまく異なった現象に組み合わされていて、見ていて飽きません。動作がゆったりしているのも、かえって不思議さを演出しています。

 手品に必要なのは「不思議さ」だけでなく「面白さ」なのです。不思議なだけでは面白くならないのが、手品の難しさであり、魅力でもある、とわたしは思っています。


手品をしないひととは「驚くポイント」がちがう

 販売されている手品道具や手品資料の紹介文をみていると、たまに「マニアもひっかけることができます」という趣旨のコメントがついています。

 そうです。実は、手品(道具)には、「対・手品をしないひと(非手品人)」用のものと、「対・手品をするひと(手品人)」用のものがあります。

 これはつまり、手品人と非手品人とで、手品について興味をもつポイントがずれている、ということでもあります。

 「なら、手品をするひとも不思議に思わせる手品が優れているのでは?」と思われるかもしれませんが、そうとも限らないのです。そういった、対・手品人用の手品は、手品を見慣れていないひとには煩雑な内容だったり、過剰な演出だったりするのです。簡単にいえば、見てて疲れます。

 また、シンプルな現象にみえても、演じる側の負担が大きかったりもします。「同じことするなら、簡単な方法でやれば?」と思いますよね。わたしもそう思います。しかし、そういった「簡単な方法」は、手品人には共有されている方法であることが多く、つまり演じると「あ、あれを使ったな」という空気になるのです。手品人を相手にすると。

 手品人は手品を見慣れてる、あえていえば「目が腐ってる」ので、ありふれた方法で演じられた手品を見ても喜びません。見たことのない現象か、裏側が全く分からない方法でないと、喜ばないのです。

 そのため、同じ手品を見ていても、非手品人が不思議さに驚いているところで手品人は驚かず、そのあと、手品人が「思っていた方法でない」ことが示された瞬間に興奮する、ということがしばしばあります。

手品人は手品人を見抜く

 また手品人は、他人が手品人か非手品人かを見抜く能力も持っています(たぶん)。 特にマジックバーなどで演じているプロのマジシャンは、客が手品人かそうでないかは、高確率で見抜いていると思います。よく、「カツラのひとは、他のひとがカツラかそうでないか、すぐに見抜く」と言いますが、たぶん、同じレベルです。

 例えば、観客が手品に参加するような演技の場合、演者が観客にトランプを手渡して、シャッフルしてもらうことがあります。そのとき、観客がトランプをディーリングポジションで持っていたら、高確率で手品人です。

 手品人が観客になるとき、ポジティブな場合とネガティブな場合の2種類があります。前者は、どんな手品が演じられても協力的なのですが、問題は後者です。カードを選ぶときにトランプの一番上や一番下のカードを選んだり、仕掛けの重要なタイミングで邪魔をしてきたり、非常にやっかいです。

 プロマジシャンによっては、そういった観客の性格を早めにつかんで、場合によっては対手品人用の演技をすることもある、と聞きます。


対・“手品人”用の手品の動画「紅(くれない)のドライカップ」。実践的でありマニアもだませる内容のもの

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