手品専門の「タネ販売所」がある
かつては「奇術材料店」、最近だと「マジックショップ」と呼ばれる店があります。実店舗は最近はずいぶん少なくなって、首都圏でも4つかそこら、大阪・名古屋でも数軒です。ただ、ネットショップはかなり増えました。
古い手品人からは、手品との最初の出会いはデパートの手品コーナー、という話をよく聞きました。最近はYouTubeでおぼえました、みたいなケースが多いようで。わたしは書店の手品本コーナーでした。
手品とのファーストコンタクトはどうあれ、沼に足を入れると、現状では満足できなくなってきます。そこで、次に進むのがマジックショップというわけです。
これも、かつては実店舗しかなかったので、人づてに情報を聞いてそこへ行く、行ったら廃墟みたいな店で、中にはランニングにステテコ姿の気むずかしそうなおじさんがいる、みたいな、リアルにRPGっぽい話だったわけですが、最近は「マジック 道具」とネットで検索するだけでたくさんのマジックショップの情報が手に入るようになりました。
実店舗だと、まずは「どういう商品があるのか」を店のひとに聞かなくてはいけません。これも、詳しいひとから商品についての事前情報があると話が早いわけで、やっぱりゲームっぽいですね。
そのあと、その商品を実演してもらったり、なんとなくの情報をもらったりして、購入する運びになります。
ネットの場合は、かつては商品名と文字情報だけだったのが、最近は実演の動画も情報として加えられていることが多いです。
気になるお値段ですが、幅があります。安いものだと2000円くらい、高いものだと天井知らずですが、近距離で見せるテーブルマジック(クロースアップマジック)だと3万円くらいでしょうか。たまに、10万円をこえるものもありますが、まれです。平均価格は3000円から5000円くらいじゃないでしょうか。
以下の2つの動画の例を見比べてみてください。やっていることはそれほど変わりませんが、上は2000円程度のお手頃な道具を、下は3万円ほどの高価な道具を使っています。
これは極端な例ですが、同じようなことをするのに、これだけの値段の差があるわけです。
道具の値段は、特殊な素材を使っていたり加工の難易度が高かったりすると、高くなりがちです。が、たまに、厚紙1枚だけの商品で1万円したりすることもあるので、最終的にはクリエイターの気まぐれのような気もします。
手品道具の多くはアメリカで販売されています。Murphy's Magicという卸業者があって、日本国内のマジックショップも、ここから商品を取り寄せることが多いようです。
〈クリエイター→卸→マジックショップ〉という経路で商品が流通するので、最終販売価格よりかなり低い価格で、クリエイターは商品を業者に卸さなくてはいけないはずです。そう考えると、「厚紙1枚で1万円」の商品であっても、クリエイターはさほどの利益はない……わけでもないか。
問題は、高い道具だから良い道具とは限らないことです。ハズレもたくさんあります。わたし自身、2万円や3万円の道具を買って「これはない……」みたいな気持ちになったことも多々あります。
もちろん、平均的価格帯のものや比較的安価のものにも、ハズレは多くあります。というか、高確率でハズレです。ただ、この「ハズレ」というのは、「まったく使えない」というのではなく、「面白いことは面白いし、1回くらいは使ってみたいけど、何回も演じる気にはならないな」というものを含みます。そのため奇術道具の沼につかったひとは、奇術道具を買う→しまい込む、というルーティンを繰り返すことになります。その結果が、例えばこんなかんじです。
引っ越しなどのタイミングで整理をするのですが、引っ越した先でも買い込むので、総量は増え続けます。
手品人の金銭感覚
お金というのは相対的なもので、金本位制でない今は、今日の1ドルが100円であったのが明日は105円、ということもあります。貨幣間でも相対的ですが、例えば気の進まない飲み会に3000円出すのは無駄だけど、好きなアイドルのグッズを買うのに費やす5000円は安い、というように、同じお金であっても使い方によって感じ方が変わるのも、経験的で普遍的な事実です。
さて、手品人の金銭感覚ですが、実は得意領域によって変わります。例えば、コインマジックを得意とするひとで考えましょう。こういうひとがトランプマジックの道具を買う機会は少ないと思います。そのため、例えば「2000円の仕掛け付きトランプ」でも「高い」と感じるかもしれません。彼らが買うとしたら、コインマジックを解説している資料か、コインマジックのための特殊な器具、そしてコインそのものでしょう。
ところで、コインマジックマニアの間では長く、「使うコインは日本円の現行通貨か、アメリカのものか」という問題があります。前者の場合は500円玉などを使いますが、後者は50セントコインか1ドルコイン、いわゆるハーフダラーかワンダラーを使います。さらに、このアメリカコインは時代で全く異なるため、そのうちのどれを使うか、ひとによってちがいます。当然ですが、古いもの=希少価値が高いものほど値段も高くなります。
気になるお値段ですが、50セントコイン(ハーフダラー)使用者の中でもメジャーな「ウォーキングリバティ」の場合、大体1枚で1500〜3000円です。現在のアメリカのカジノなどで使用される50セントコインはサンドイッチコイン、つまり銀の間に銅を挟んだものですが、ウォーキングリバティはより純度の高い銀貨です。コイン同士を軽くぶつけると、全く音がちがいます。
また、ウォーキングリバティの特長として、表面の適度な摩耗があります。この摩耗によって、演じやすい手品があるのも、ウォーキングリバティ使用者が多い理由の1つです。
ウォーキングリバティよりもさらに古い、バーバーと呼ばれるコインを使うひともいます。こちらはさらに摩滅の進んでいるものが多く、ほとんど真っ平らなものが大半です。当然、かなり薄くなっています。こちらは、1枚で3000〜5000円くらいです。
こういったコインマジック愛好家であれば、3000円のコインであっても、「高い」とは感じないだろう、と思います。
一方、わたしのようにさまざまな手品道具を購入する場合は、月あたりいくら、年でいくら、という感じでお金を使うことになります。上記の通り、1つの手品道具が大体3000円くらいだとしたら、月に1万〜3万円くらい、お金を使います。
そのため、わたしの金銭感覚は大体、3000円=1ギミック(手品道具のことを「ギミック」と呼ぶことがあります)で、「この飲み会は2ギミックか……」と考えたりします。『吼えろペン』の1ガンプラ=300円みたいな感覚だと思っていただければ。
先日、同じく手品を趣味とする友人と話をしていたのですが、「手品人って、基本的に性格のゆがんでるひとが多いよね」という結論になりました。手品というのはその性質上、演じる側が非常に「閉じた」社会を形成せざるをえません。そういう社会では、ゆがんた性格のひとが多数を占めてしまう、というのも分かる気がします(己を見つめつつ)。
とはいえ、そういったひとたちの社会を客観視すると、なかなか興味深いものがあるのではないか、と思われるのもまた、事実なのです。
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