近年取り沙汰されるようになった絵本や児童書の「萌え絵化」。特に昔話を新しい絵柄で表現することに抵抗を示す人は一定数いるようで、しばしばネット上で議論の対象になってきました。しかし、こうした「萌え絵化」は今に始まったものではないと指摘したツイートが注目を集めています。
意見を投げかけたのは、Twitterユーザーのきゃの十三さん。「アニメ絵本って最初っから当時の最先端のいわゆる萌え絵を取り入れてたよなぁ〜って思うのよ!」というツイートと共に、年代がバラバラの4種の「にんぎょひめ」の書影を投稿。それぞれ時代を反映した画風ながら、確かにアニメ寄りの「萌え」が感じられる絵柄になっています。
実はアニメ風の絵柄を絵本に取り入れた歴史は古く、特に有名なのは1985年から1999年まで出版されたポプラ社の「世界名作ファンタジー」シリーズ。同シリーズで文を担当した平田昭吾さんは、手塚治虫や政岡憲三※に師事した経験を持ち、アニメ・漫画文化に精通した人物です。
※政岡憲三は日本初のフルセルアニメーション「くもとちゅうりっぷ」などを制作したことで知られている。“日本のアニメーションの父”とも称されている。
きゃの十三さんが画像で紹介した4冊も、その内2冊は平田さんの手によるもの。片方は絵をアニメーターの高橋信也さんと、漫画家・絵本作家の大野豊さんが担当(ポプラ社・1985年出版)。もう一方の絵は漫画家の松久由宇(鷹羽遥名義)さんが担当しています(ブティック社・1989年出版)。
4冊の中で最も新しく出版されたのは、上北ふたごさんが絵を手掛けた河出書房新社版(2013年発行)。人魚姫の髪はピンクで、日曜朝の女児向けアニメに登場しても違和感がない印象です。それもそのはずで、上川さんは2004年から現在に至るまで「プリキュア」シリーズの漫画版を最前線で描き続けている漫画家。今の子どもたちに最もなじみのある絵柄といえるでしょう。
残る1冊は永岡書店版(1997年出版)。絵はアニメ「ヒカリアン」「魔物ハンター妖子」シリーズでキャラクターデザインやキャラクター原案を務め、漫画家としても活躍する宮尾岳さんが担当しています。
いずれの出版社もアニメーターや漫画家などを起用し、普遍性を意識しつつ、そのときの子どもたちに受け入れられやすい絵柄を取り入れようとしていることが伺えます。Twitterでは「世界名作ファンタジー世代だし、この辺の絵柄の絵本が一番好き」「子供の頃は特に好きな絵本とかなく世界名作アニメ絵本シリーズを片端から読んで、読み終わったらまた別のを乱読してた」など、それぞれ思い入れのあるアニメ絵本を回想するツイートが。
また、2013年版「にんぎょひめ」を担当した上北さんもTwitterで「私たち※は、2枚目の高橋信也氏の『にんぎょひめ』がイチオシです! 『世界名作ファンタジー』シリーズでも多数イラストを手掛けておられ、どれも美しいです!」と熱いツイートを投稿しています。
※「上北ふたご」は双子の漫画家姉妹のペンネーム
実はこれらの絵本シリーズ、いまだに重版されている場合が多いだけでなく、ブティック社の「せかいめいさくシリーズ よい子とママのアニメ絵本」シリーズに至っては電子書籍版が完備されているという入手難度の低さ。懐かしく新鮮なアニメ絵本の世界、あらためて読んでみると発見があるかもしれません。
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