「ブラックボックス展」痴漢事件、“暗闇”の中の真相は明らかになるのか 被害者連絡会が半年かけて訴訟に至った理由(2/2 ページ)
「ブラックボックス展」被害者連絡会の代表らに取材しました。
――2017年6月、Web上に公開されたブラックボックス展の謝罪文では「具体的な被害を申し立ていただいた事例はございません」とされていましたが、現在は痴漢被害者の存在を確認していますか。
AXIOM:提訴された事案に関連し得る内容につきましては、今後、法廷で争われることになりますので、回答を控えさせていただきます。なお、麻布警察署による捜査に対し、来場者の情報開示等、全面的に協力しましたが、その後、警察署から、事実確認に至らず捜査を打ち切ったと報告を受けました。
――被害者連絡会代表の森氏は、AXIOMから「訴訟したら、被害者の名前が公になる」「反対に名誉毀損、業務妨害で訴える」と言われたとしています。このような事実はありましたか。
AXIOM:森氏に対し、そのような発言をした事実はありません。被害者連絡会のご関係の弁護士から、アーティストの住所の問合せを受けた際、当時、Web上で不正確な情報が拡散されていた状況から、「根拠もないのに、ギャラリーに対する名誉毀損や業務妨害に当たるような行為が行われれば、法的手段で対抗せざるを得なくなる」という旨を、弁護士の先生に対して述べたことはありました。
――なかのひとよ氏の企画(ブラックボックス展)の内容については、事前に把握していましたか。またトラブルが発生する懸念は抱きませんでしたか。
AXIOM:展示の内容は事前にアーティストから説明を受けましたが、トラブルの懸念は抱いておりませんでした。詳細につきましては、今後、法廷で争われることになりますので、回答を控えさせていただきます。
――森氏は、ブラックボックス展での安全義務対策が不十分だったと主張していますがが、どのようにお考えでしょうか。
AXIOM:詳細につきましては、今後、法廷で争われることになりますので、回答を控えさせていただきます。
――最後に、12月27日に提起された訴訟については、どのように対応する予定でしょうか。
AXIOM:弁護士指導のもと、真摯に対応させていただく所存です。
痴漢被害報告はなぜ現れてしまったのか
話は前後しますが、AXIOMが公式サイト上で謝罪した2017年6月、ブラックボックス展主催者・なかのひとよ氏も謝罪文を公開。同氏はさらにメディアのインタビューにも応じ、同イベントでトラブルが発生してしまった理由を語っています。
それらをまとめると、そもそも同展のコンセプトは「情報が簡単に手に入るようになった現代社会に、あえて情報が得られない状況を作り出し、『分からない』という体験をしてもらう」こと。ここから真っ暗で周囲が見えない会場や、展示内容の公言禁止を求める同意書が用意されることになったといいます。また、噓なら書いてもいいと許可したことも、「分からない」状況を作り出すのに一役買いました。
しかし、ブラックボックス展の来場者数は想定外の規模にまで膨らんでしまい、当初は想定していなかったトラブルが発生。その1つが、痴漢被害の報告です。「出入口にスタッフを常時配置」「会場内の定期巡回」といった安全対策を講じていたほか、もしトラブルがあれば、その場のスタッフやギャラリーへの問い合わせに直接、訴えるだろうと想定。ところが、「痴漢にあった」という声が現れたのは、ネット上でした。
しかし、「噓なら書いてもいい」というルールのせいで、真偽を見分けるのが困難に。言ってみれば、ブラックボックス展が持っていた「分からない」を生み出す仕組みが、来場者のみならず運営側まで巻き込んでしまったのです。なかのひとよ氏は「自らが設計したルールをコントロールできなかった」「多くの方にご迷惑・ご心配をおかけしてしまいました」などとコメントし、非を認めています。
今回の裁判で争点となるのは、「『ブラックボックス展』運営側が安全対策義務を果たしていたのか」。森氏は「暗闇に男女が入るという展示内容から、痴漢の可能性は想定できたはず」「それを防ぐためにも、会場内には監視用の暗視カメラなどが必要だった。設置していることを説明するだけでも犯罪抑止につながる」と考えているとのこと。
痴漢はアートの一部か、犯罪か
海外メディア「openDemocracy」にはブラックボックス展に関する記事(8月25日公開)があり、森氏は「アートに関わる人たちに考えてもらいたい」ことが記載されているとのこと。
匿名の筆者が英文でつづったこの記事ではブラックボックス展の一部始終が紹介されており、痴漢被害を訴える人が現れたことについても触れられています。しかし、「真っ暗な会場」と「インターネットにおける匿名性」の類似性について指摘したうえで、ネット上で声をあげた「痴漢被害者=匿名の存在」と捉え、「何者なのか誰にも分からない」「(痴漢被害について)正確には何が起こったのか分からないまま」としています。
森氏はこの内容を「まるで痴漢を、アートに組み込もうとしているかのようだ」と批判しています。今回のトラブルの原因がブラックボックス展特有の仕組みにあるとしても、痴漢にあったと語る人たちの存在までアートの文脈で語り、“ブラックボックス”の中に投げ入れるかのような態度は問題があるというわけです。
「いつでも自由にモバイル端末を通して情報が集められる時代において、ひとよは完全に調査不能であるブラックボックスを作り上げることで若者たちの心をつかむことに成功した」
「訪問者から視覚的な情報を奪う空間というのはおそらくインターネットの匿名性の文化に類似して見えるかもしれない」
「ギャラリーに訪れた人々は彼らのブログに投稿した。個展でセクハラをされたのだという。そしてその発言は多くのニュース媒体に取り上げられた。しかしながら、ブログを書いている彼ら自身も匿名であるために、彼らが誰であるか誰も特定できない、あるいは何が起こったのか追求し始めようとすることができない。多くの批判的なコメントがインターネットに広がり、この個展はテレビのニュース番組や新聞でとりあげられた。ギャラリーと個展を開いた人々は事実究明に急ぎ、そして起こったトラブルに対して謝罪した。だが正確には何が起こったのかは不明のままである」
(被害者連絡会による訳文から抜粋)
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