う、うん億円〜!? ぶっ飛ぶ豪華っぷり、ちょっとのぞいてみましょう「超高級ヨット」の世界(2/3 ページ)
「ヨットって何千万円もするんでしょ。俺らには関係ないねー」。いえいえ、ちょっと誤解があります。知られざる高級ヨット「億り船」の世界の一片を紹介します。(詳細写真159枚)
立派な船体、豪華で落ち着いた趣の内装「Tartan 4000」
米国のセーリングクルーザービルダーであるタータンヨット(Tartan Yachts)が建造した「Tartan 4000」は2011年に登場したモデルです。マストの高さは約18メートル。全長12.41メートル、船幅3.96メートルの立派な船体が特徴です。
内装は木材を多用し、落ち着いた趣です。パワーボートと違い、セーリングクルーザーは航海用計器が比較的少なめです。しかし高級艇となれば、大きな舵輪(現代ではラットといいます)の前にマルチファンクションディスプレイをバシッと搭載し、航海用電子参考図やソナー、AIS(船舶自動識別装置)に外部カメラの画像などを表示しながら効率的に帆走できます。
ところで、このような大きなヨットにはなぜ2つ舵輪が付いているのかご存じですか? これは傾いて航行する特有の事情にあります。2つの舵輪の機能は全く同じです。状況に応じて、使いやすい方の舵輪を選んで操縦するためにあるのです。
また、パワーボートに対して船体が細めのセーリングクルーザーは船体内部の容量がその分絞られます。とはいえ、外洋を長期にわたって航海をすることが多い船でもあります。そのため、居住性のほかに、調理で使う台所「ギャレー」の使い勝手が大きな選定ポイントになります。
ギャレーにはプロパンガスを使うコンロと、バッテリーから電力を得る電子レンジやオーブンなどが備わります。それらは、傾いて走るセーリングクルーザーのために、船体が傾いても水平を保てる「ジンバル」に乗せられています。
また、パワーボートにはあまりない「チャート(ワーク)テーブル」もセーリングクルーザーの多くが備えています。チャートワークとは、紙の海図を広げて、航路を海図へ記入していく作業のこと。現代では航行中にチャートワークをすることはほとんどないのですが、ちょっとした作業席として、無線交信、船内状況、特に電装周りをコントロールする場所として使うことが多いようです。
船室はギャレーとチャートテーブルを備えたリビングルームのほかに、船首側と船尾右舷側の2カ所に寝室を設けています。また、船首左舷側にはトイレとシャワールームがあって、船首寝室からも直接利用できるドアも用意しています。
リビングルーム、ダブルベッドのダブル寝室、ツインベッドの寝室1つがある豪華艇「JEANNEAU 54」
フランスの高級セーリングクルーザービルダーであるジャニュー(JEANNEAU)が建造した「JEANNEAU 54」は、全長16.16メートル、船幅4.92メートルの船です。
船室のレイアウトプランは利用シーンやオーナーの好みに応じて多用にありますが、展示艇はギャレーを併設したリビングルームに、ダブルベッドを備えた寝室2つ、ツインベッドを備えた寝室1つと、寝室を3つも備えた豪華仕様でした。
さらにトイレも3つ、その全てにシャワー設備もあります。他のセーリングクルーザーと同様に、ギャレーに備えたコンロとオープンは全てきちんとジンバルに乗せられ、さらにJEANNEAU 54では換気扇付きの快適設備が備わっていました。いやー脱帽です。
古き良き時代を思わせる内装がいい感じ「Hanse 418」
ドイツのセーリングクルーザーとして日本でも知名度が高いハンゼ・ヨット(Hanse Yachts)の「Hanse 418」は、全長が12.4メートル、船幅は4.17メートルの船です。
コックピットには、B&G製電子航法支援システムの大画面マルチファンクションディスプレイを組み込んだコンソールがどどんと立っていました。これ、かなりお高い機器です。
内装は質実剛健で、過度に飾らない木材を多めに用いた落ち着いた雰囲気です。チャートテーブルはほどよくコンパクトで、通信と舷灯点灯指示盤、そしてアナログの航海時計と気圧計を配置した古き良き時代の船を思わせるディスプレイがいい感じです。
“船のロールス・ロイス”、スワンの超豪艇「SWAN 54」
フィンランドのナウターズ・スワン(Nautor's Swan)が建造するセーリングクルーザー「スワン」は、クルマでいうところの「ロールス・ロイス」に相当するステータスがあるトップブランドです。
そのスワンブランドを冠する高級艇「SWAN 54」もあったとならば、ちょっとでも触れておくチャンスを逃してはなりません。全長は16.48メートル、船幅4.75メートル。これでも、スワンのラインアップで最も小型のモデルというから驚きです。
ちなみにスワン艇を日本で購入しようとしたら、軽く2億円以上は必要だそうです。ひぃぃ。セーリングクルーザーは大きなエンジンを必要としないので、同サイズのパワーボートと比べれば安価になるのが一般的。これまで紹介したほかのセーリングクルーザーも、億円単位にまではいきません。しかしスワンブランドだけは例外です。
快適な居住性と十分な帆走性能を重視するスワン艇は、何より「船としての伝統的な気品」を大事にしています。2つ備わる大きな舵輪の前にはコンパスとオートパイロットの操作パネルを備えるだけで、近年のセーリングヨットにも見られる“デジタルっぽい”大画面マルチファンクションディスプレイはありません。コンパスの方位盤、Nメモリの下にさりげなくNautor's Swanのロゴを刻んでいるのも気品の表れと説明を受けました。
船室は、ギャレーとチャートテーブルを併設したリビングルームのほかに、ダブルベッドを備えた寝室が2つ、コンパクトなダブルベッド(実質は広いシングルベッド)を備えた寝室が1つ、シングルベッドを備えた寝室が1つあります。ただし、シングルベッドの寝室は多目的部屋というか、倉庫などとして使うことになるケースが多いといいます。
トイレはダブルベッド寝室のそば、船首側には独立したシャワールームもあります。また、それぞれの船室に収納ロッカーを備えますが、その取っ手の全てに革製のカバーがかぶさっています。デザイン性とともに、揺れでケガをしたりしないためでしょう。また、リビングルームのテーブルはインナーモールドではない独立した椅子があります。その固定にも「ピン」と「革」を使っています。このように細かいデザインと使い勝手への配慮も超豪華ヨットだからこそできる心配りといえます。
さて、この規模のヨットならばもちろんエアコンを完全完備し、船内を快適に過ごせるようになっています。しかし、こういったヨットに一般的な家庭用エアコンは使えません。海上では、塩分を多分に含んだ空気によって熱交換のための室外機が短期間で錆びてしまうからです。そのためヨットで使うエアコンは、ポンプで吸い上げた海水で空気と熱を交換する方式の製品を用います。SWAN 54では海水をくみ上げるポンプをキャビン床下に備え、海水利用の熱交換器を船尾倉庫に設置していました。
船尾ロッカーには舵を動かす操舵機構にもアクセス可能。舵軸に扇形の板を固定し、そこに刻んだ溝へ舵輪と連動したワイヤを巻き付けてある。舵輪を回すとワイヤが左右に動いて扇形の板を回し、その動きで舵の軸が回転して舵が動く。電子的な部品やパワーユニットは関わっていない、至ってシンプルな機械式の仕組み
以上、ジャパンインターナショナルボートショー2018の第二会場横浜ベイサイドマリーナに集まった展示艇の中から、できるだけ大きく豪華で、かつ実績と人気のある船を中心に試乗して内部に肉薄してみました。
会場で「こういう夢のような船を買える人たちがいるんよですねえ。はぁ〜、お友達になりたいわー」などとつぶやいていたら、とある船のスタッフさんがこう言うのです。
「ヨット乗りも高齢化が進んでいて、体力がなくなってきていることから、若いクルーをいつも探しているんですよ。なので、思い切って声を掛けてみたり、連絡してみたりすれば、多分ただでヨットに乗せてくれますよ」
そうです。自分でヨットを買わずとも、買えずとも、港に置かずとも、ヨットが大好きならば、体力があるならば、超豪華ヨットの世界は想像以上に私たちも受け入れてくれます。例えば「月刊 KAZI」などのヨット専門誌にはクルー募集の告知投稿が載っているので、本気ならば連絡を取ってみるのも一興です。ここで紹介したようなヨットにタダで乗れて、遠い島まで旅ができて、ひょっとするとオーナーの知り合いの「お姉さん」ともお友達になれるかもしれません。これほんとまじです。
いやー、船ってホントいいものですよ。
長浜和也
IT記者は仮の姿で本業は船長(自称)。小型帆船を三浦半島の先っちょに係留する“一人旅”セイラー。伊豆諸島を旅するため、学連経験やクルー修行をすっとばして、いきなり1級船舶免許を取得してヨットに乗りはじめて早20年。かつて船で使うデジタルガジェットを紹介する不定期連載も。
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