日本電子出版協会は6月21日、電子出版における著作権に関するアンケートの結果を発表しました。「書籍を電子化しない理由は」「書籍の電子化に対する著者の反対意見は」などの質問に対する回答から、書籍の電子化において障害となっているのは何なのか、課題を浮き彫りにする内容となっています。
アンケートは同協会の著作権委員会が4月から5月に実施したもので、出版社など136人から回答を得ました。刊行している書籍・雑誌のうち電子化している割合については、年間100冊以上刊行している出版社の場合は「半分以上」「ほぼ全て」が7割を超えましたが、年間100冊未満の出版社は「半分以下」「ほぼなし」が8割以上を占める結果に。
「書籍・雑誌を電子化しない/できない理由」で一番多かった回答は「権利処理の手間」(58件)。具体的には「紙版の契約と同時に電子化の契約がなされず、電子化に際してあらためて手間をかけなければならないことが多い」「ガイドブックの場合、寺社仏閣、遺跡の肖像権処理が難しいケースがある」「著作権者が複数おり、許諾の手間がかかる」といった問題があげられていました。
電子化しない/できない理由で次に多かったのは「売上やコストの問題」(56件)。「図版等が多い本の場合、電子も含めた権利処理をコストに反映すると原価がUPしてしまう」「特に既刊本に関しては権利処理が必要な上、OCRスキャンによる製作コストがあり、売上が見込めるものでないと電子化は難しい」といった声が返ってきました。電子化した際の売上に、権利処理のコストが見合うかどうかは大きなカギとなっているようです。
一方で「どちらかというと編集者の電子化についての意識があまり高くない」「電子化=利益/売上という意識が編集の現場レベルで希薄というか認知されていない」といった電子化への意識の低さについても意見もあがっていました。
また著者の電子化に対する理解の程度については、「ある程度は理解がある著者が多い」「かなり理解がある著者が多い」で8割と高い内容に。しかし一部の著者には電子化に反対意見もあるらしく、中心となっているのは「不正コピーへの心配」「紙の売上への不安」の2つ。他にも「著者がセリフパブリッシングで儲けたいと目論む者がかなりいる」「あまり売れないだろうからやっても意味がない」「電子書籍では頭に入らない」といった意見があるそうです。
紙の書籍・雑誌を制作する際、どれほど電子化を視野に入れた体制で進めているかについては「ほとんど考慮していない」が年間100冊未満の出版社で41%、100冊以上の出版社では14%と大きな開きが。過去の刊行物の電子化事業は、「ほとんど手を付けていない」が年間100冊未満の出版社で49%、100冊以上の出版社で21%と、出版社の規模が小さいところでは電子化に消極的のようです。
なおネットの海賊版対策についてもっとも多かった回答は「特に何もしていない」(73件)。年間100冊以上の出版社をメインに「データ(電子書籍の場合)に技術上の措置を施している」「定期的な侵害調査を行っている」といった対策をとっていますが、いずれも30件未満で、海賊版対策への遅れを感じさせる結果となりました。
(黒木貴啓)
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