ほんの数十年前までは珍しくなかった、政略結婚やお見合いといった「愛のない結婚」。でも、そんな愛のない結婚からでも、もしかしたら恋が生まれ、やがて愛に育っていくことがあったのかも? そんな気持ちにさせてくれる、大正時代を舞台にした短編漫画がTwitterで人気を集めています。
漫画は、無表情気味な妻・柚子さんが「先生、朝食の支度ができました」と夫の倫太郎さんに話しかける一幕から始まります。「先生」と呼ばれるのは慣れないという旦那さんですが、当の本人も元教え子であるこの妻を旧姓で「八重島くん」と呼んでいます。なんだかよそよそしいふたりです。
その朝、柚子さんが作った食事は実家の父の経営する洋食屋の新メニューだという“オムライス”。倫太郎さんは「それにしても、随分とハイカラな朝食ですね」と言い、それに対し、柚子さんは「華族の方のお口には合いませんでしょうか?」と返します。ここで倫太郎さんは「もしかして痛切な皮肉を言われているのでは……!?」と感じます。
実はこのふたり、華族の四男坊と事業家の三女であり、ふたりの結婚は「上流階級の人脈が欲しい成金とお金が欲しい没落家族の利害が一致した結果」であることが、倫太郎さん目線で語られます。
きっと若くてハンサムな貴公子を期待してただろうに、こんなさえないおっさんでごめん――と、心の中で申し訳なさを感じている倫太郎さん。とはいえ、朝食のオムライスは30代後半の自分の胃にはもたれるため、「これってもしかして嫌がらせかも……」と疑念を捨てきれません。そんな中、外出する倫太郎さんに向かって柚子さんが、「行ってらっしゃいませ 倫太郎さん」と初めて名前を呼びます。
若干焦り気味の倫太郎さんに、すかさず「先生とお呼びしない方が良いとのことで、ご迷惑ですか?」と柚子さんが尋ねます。すると倫太郎さんは「い…いや そんなことはありませんよ それでは行ってきます 柚子さん」とこちらも初めて妻の名前を呼びます。二人の距離が一気に接近か!?
倫太郎さんは、朝食のオムライスを嫌がらせだと思ってしまった自分を恥じ、女学生時代の柚子を思い出して、目立つタイプではなかったけど、本当にいい子なんだと再認識します。半面、20歳も年下の娘にときめいてなんかいない、と無理に理性を働かせようともします。でも、それは恋の始まりでは……!?
一方の柚子さんは、倫太郎さんが出掛けるや、先生に名前で呼ばれたことや、ついに「倫太郎さん」と名前で呼べたこと、そして渾身のオムライスをおいしいと褒められたことで喜びが爆発。
「華族のボンボンと結婚しろと言われたときは死のうと思ったけど 女学校時代の初恋がこんな形で実るなんて 生きててよかったあああ」と叫ぶ柚子さんの中では、もう、とっくに恋が始まっていたんですね。さっきまで、ちょっと強気だった柚子さんとのギャップに萌えます。
結婚してから、相手のことを知り恋をして、ゆっくりと愛を育んでいく。大正時代にも、こんなときめきや恋心が、あったかもしれませんね。そんなふたりの奥ゆかしくも、かわいらしい関係に、Twitterでは共感のコメントが寄せられています。ふたりの今後も気になりますね。
作者は、漫画家のしまざきさん(@shimazakikazumi)さん。漫画『三年差』の単行本が8月22日に発売予定です。ツイ4にて『乙女男子に恋する乙女』連載中です。
画像提供:しまざきさん(@shimazakikazumi)さん
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