昨今はマイナス金利政策、銀行員の不祥事、フィンテックの台頭などの話題が尽きず、金融機関の関係者が紙面やテレビに登場する場面をよく見かけます。
なかでも、一番身近な金融機関といえばおそらく銀行なわけですが、ほとんどの場合、銀行の代表者として登場するのは「頭取」(とうどり)ではないでしょうか。
この「頭取」という言葉、銀行以外で聞いたことはありますか? 普通の会社であれば、トップの役職は「社長」とか「代表取締役」です。
なぜ銀行だけが「頭取」という役職名を使っているのでしょうか。
頭取の語源
頭取という言葉の成り立ちを辞書等で調べてみると、「歌舞伎で楽屋を取り仕切る人」「雅楽で音頭を取る人」などが出てきます。
これらがより一般的な「集団のトップ」の意味に派生して、江戸時代にはさまざまな役職に「頭取」の名がついていました。
これを受け、明治時代の初期には、一般の会社のトップについて、「社長」や「取締役」のほかに、「頭取」を用いていた例も多いようです。銀行はもともとは「為替会社」と呼ばれていましたが、この為替会社の責任者もやはり「頭取」でした。(※銀行における頭取の語源は「筆頭取締役の略」とする説もあります)
なぜ銀行は「頭取」を使い続けたか?
なぜ銀行だけが「頭取」の名称を使い続けたか。それは、明治5年(1872年)に定められた「国立銀行条例」が銀行のトップを頭取と呼んでいたから」ということが大きく影響しているようです。
国立銀行条例 第四条
第四節 此頭取取締役中(取締役ハ五人以上タルヘシ内一人ハ頭取タルヘシ)四分ノ三ハ銀行創立ノ地ニ一ケ年間ハぜひトモ在住シタル者ニ限ルヘシ
国立銀行条例では、このように 「頭取」という役職を置かなければならないことが定められています。この決まりがもととなって、銀行のトップを頭取と呼ぶことが、国立銀行条例が廃止となって以降も定着したと考えられます。
なお、国立銀行のトップは頭取と定められましたが、私立銀行はこの条例に従う必要はありません。明治9年に設立された最初の私立銀行であるところの三井銀行のトップは「総長」でした。
現在の三井住友銀行は「頭取」という名称も使っていますが、りそな銀行のトップが「代表取締役社長」であるように、「頭取」を使っていない銀行も例外的にいくつかあります。
おわりに
というわけで、銀行が「頭取」を使い続けたのは、法令で定まっていたのがそのまま定着したからでした。法令の制定からは100年以上、江戸時代から数えれば何百年間と使われてきた言葉が、現代でも使われ続けているのですね。
参考文献
木原和賀(1958)「銀行法夜話(6)銀行用語考」金融財政事情研究会『金融財政事情 Vol.9 No.45』27頁
秋山昌廣(1976)「明治100年よこみち金融史ーその11ー 「頭取」名称由来記」大蔵省官房文書課編『ファイナンス Vol.12 No.4』74-75頁
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