「学校に来ると声が出せなくなる子」にどう寄り添うか 小学校に潜む病や障壁と向き合う『放課後カルテ』で作者が描こうとしたもの(3/3 ページ)
マンガのレビュー連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第94回は6月に完結を迎えた『放課後カルテ』の日生マユ先生にインタビューしました。
自分の痛みを取るための作品が 誰かの痛みを和らげる
―― これまで子どもと病気、子どもと障害、そして、その症状だけじゃなく内面についてまで丁寧に向き合ってこられました。連載を通じて、ご自身の中で変わったことはありますか?
私は中学生くらいから、自分のつらい記憶や悲しい気持ちをマンガにする作業をしていたので、他人を元気にするものは全然描けなかったんです。けど、自分の痛い部分を作品にする代わりに、似た感情を持っている人の痛みを取ることはできるんだ、と気付いてからはそういう形で描き続けていて、その根底は『カルテ』の連載中もずっと変わらなかったんです。
―― 変わったというより、むしろ変わらなかった?
より強固になりました。これからもそういうマンガにしていきたいなってすごく思いました。
―― 『カルテ』の中で日生先生お気に入りのキャラクターは誰ですか?
みんな好きですけど、羽菜ちゃんに親近感がありますね。野外学校でのいじめのエピソードは実体験なので、そこから彼女は近いなあって思いました。
―― 牧野先生については、最後まで先生ご自身との距離感が縮まらないとあとがきにありましたが……不思議ですね、主人公なのに(笑)
牧野は……(笑)。以前、保健室の雑誌(『健康教室』2018年4月号)のインタビューで「作品を描いていたら、どんどん自分のことが分からなくなりました」っていう話をしていたら、「日生先生は牧野先生に似ている気がしますね。牧野先生のことが分からないっていうことは、ご自身のことのようだって感じがします」って言われて、何かちょっとしっくりきたんです。
一番不可解なのって、自分のことなんだなあって。私の中では、牧野の設定もいろいろあるんです。でも、それを形にして描くと、私の手から離れちゃう気がします。
―― これは毎年恒例の質問なんですが、日生先生の好きな作家さんや作品を教えてください。
子どもの頃から、実写やドラマのような映像作品が好きで。好きな映画監督は、是枝裕和さんです。小説では、最近だったら、今村夏子さんが好きです。
マンガだと、小学生のときから大島弓子先生の影響を受けたと思います。絵的には安倍吉俊先生、冬目景先生、村田蓮爾先生とか、ああいう女の子のリアルな感じの絵が好きなんですけどね(笑) この間の「serial experiments lain」のファンイベントも行きたかったのにチケットが取れなくて……!
―― 先生の絵柄からは、ちょっと意外でした……!
昔の絵はそうだったんですけど、『カルテ』はすっきりした方がいいと思ってかなり変えました。
―― 最後に『放課後カルテ』の読者やファンのみなさんに一言いただければうれしいです。
長い間、応援していただきありがとうございました。読者のみなさんの言葉に支えられ、続けてこられたと思います。作品が終わっても、キャラクターたちのことを思い出していただけるとうれしいです。
―― 次回作も楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました!
(C)日生マユ/講談社
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