「ハイスコアガール」がアニメになるまで 制作統括・松倉友二のこだわりとJ.C.STAFFの挑戦(2/2 ページ)
初挑戦となったフル3DCG。そして、アニメの中にゲーム画面を組み込む難しさとは。
アニメとゲーム、フレームレートの壁に挑む
―― 先ほど、ゲーム画面との相性を考えて3Dにしたというお話がありましたが、ゲーム画面のフレームレートに合わせてアニメ自体も60pで制作するというチャレンジングなことをしているんですよね。
松倉 そうですね。60pでマスターを作っています。
―― 通常の、いわゆるフルアニメーションは24pですが、それが60pになるとどういうことが起こるのでしょうか。
松倉 単純にデータ量が倍以上になります。1秒で60枚分の画像をレンダリングするので、3Dの方からは結構抵抗にあいましたけど(笑)。
―― キャラクターの動きにも影響が出てくるかと思います。
松倉 日本のアニメファンは3コマ作画という、24pだけど中に入っている絵は8枚っていうタイミングで動いている映像に慣れているので、3Dでヌルヌル動くのは嫌われる危険性がありました。ただそこは、SMDEさんの方でうまく調整していただいたので、非常にアニメチックに動いていると思います。そのあたりは経験とデータですね。ただレンダリング枚数は非常に多くなるので、撮影部にとっては大きな負担でしたが。
―― 24pの映像に60pのゲーム画面を入れ込むとどう見えるんですか?
松倉 60pの方の映像のコマが飛びます。ゲームにもよるんですけど、いくつかのゲームはエフェクトをフラッシュの点滅で半透明を演出しているんですけど、それが消えちゃう瞬間があるんですよね。30pでの収録もやってみたんですけどだめで、例えば波動拳を撃つと、何も見えないのに相手が吹っ飛ぶっていう画面が出来上がっちゃうんです。それで、何が何でも60pだという話になりました。
劇伴は“本物”をキャスティング こだわりはゲーセンの音まで
―― 原作の再現プレイには、高田馬場ゲーセンミカドのいわゆる“ミカド勢”の人たちが協力していますね。
松倉 収録は絶対どこかに協力してもらう必要がありました。自分だけだと「ファイナルファイト」をハガーでクリアするのは絶対無理ですし、出てくるゲームの数が多いというのもあったので。ミカドさんにはよく行くんですけど、押切さんもミカドの常連で店長の池田さんとも面識があったのでつないでいただきました。
―― ゲーセン内の音の再現にもかなり力を入れたとか。
松倉 SEの担当者に資料や基板、アストロシティと同じサイズのコンパネをお渡しして、このゲーセンにはこのゲームが置いてあるから、このゲーム画面のデモ画面やプレイ音は鳴っていてOKとか。レバガチャの音も、どれくらい再現するのか話し合いました。ダビング作業では、入っちゃいけないSEが後ろの方で入り込んだりして、すごい大変でした。
松倉 あと、例えばストIIで華麗なコンボを決めなきゃいけないって話になったときに、この年代にこのコンボはありえないみたいな話まで出てくるわけです。監修の石黒(憲一)さんに、ハード面とか基板面のすごく細かい部分までチェックしてもらってから、ミカドの人たちに再現してもらうんですけど、「この時代に○○というつなぎは存在していないです」みたいな指摘を受けたり。
―― コンボの型にまで監修が入るとは……。こだわりという意味では、劇伴(劇中で流れる伴奏)が下村陽子さんというのも大変驚きました。ストIIといえば下村さんですし、これ以上ないキャスティングですね。
松倉 ワーナーのプロデューサーの鶴岡(信哉)くんと、誰がいいんだろうと相談する中で昔、「極上生徒会」ってタイトルで下村さんと仕事したのを思い出して「いたじゃん本物!」と。お忙しくてなかなか連絡がつかなかったんですけど、ちょうどワーナーさんの方で「ひるね姫」の劇伴をやられていたこともあって、両サイドから連絡して。下村さんは、ハイスコアガールの存在は知っていたんですけど、読んだことはないという話だったのですぐに原作を送らせてもらいました。
―― 完成した音源を聞かせていただきましたが、OPやEDのアレンジ曲があったり、いろんなキャラクターの姿が頭に浮かんでくるような曲の数々でした。曲作りについて松倉さんから注文したことはありますか?
松倉 注文ですか、そうですね……○○のステージっぽいものでとか(笑)。
―― ギリギリのラインを攻めましたね(笑)。上がってきた音源を聞いてみてどうでしたか?
松倉 さすが本物が作ると違うなと。下村さん以外の人が担当していて、ああいう曲(「○○っぽい」という意味で)が来たら、おいおいNGだぞってなるので(笑)。
日高小春の登場で物語は大きく動き出す
―― アニメはいよいよ中学生編がスタートしますが(インタビューは第4話放送前に実施)、これまでの反響はどうですか?
松倉 すごく大きいですね。1話のときは自分たちの体験していたゲーセンが、そのままの形で登場したことに驚いた人が多くて、知り合いのアニメ関係の人もそうだし、ゲーム関係の人も喜んでくれました。1話ではそういった「まさかこういった映像が見られるとは」という衝撃があったようです。特に反響が大きかったのは3話で、急激に恋愛ムードになったこともあって、泣けたという声をよく聞きました。
―― 3話のラストは来るものがありますね。若い視聴者も多いと思うのですが、そういう、昔のゲームに触れていない層に向けた工夫みたいなことってしているのでしょうか。
松倉 さすがにそこまではコントロールできないので、自分たちのハイスコアガールを作るしかないという思いでやっているんですけど、視聴率分布はちょっと意外でした。
松倉 1話と2話は、M2層(35歳〜49歳の男性)がほとんどで、M1(20歳〜34歳の男性)やF1(20歳〜34歳の女性)はあまりいませんでした。3話では、M1がM2を上回っていて若い世代が増えていますね。女性はF1とF3(50歳以上の女性)がメインです。
―― となると今後、日高さんが登場して恋愛ムードが色濃くなっていくにつれて、視聴者層が変わっていきそうですね。
松倉 そうですね。分布としては思っていたほどおっさんホイホイにはなっていませんでした。若い世代もおじさんたちも万遍なく見られているんじゃないかなと。2話は圧倒的にM2層が多かったんですよね。少なくとも、業界のおじさんたちはかなり見ています。一方で、うちの若いスタッフなんかはアーケードのことは知らないけど、とにかく春雄がかっこいい、春雄男前やなあ、大野かわいい、みたいなところで騒いでいますね。
―― 年代によって見るポイントが異なるのは面白いですね。さて12月には、Netflixを通して海外への配信も始まります。海外での反応はどう予想していますか?
松倉 レトロゲームのブーム自体は海外の方が広く深くという形であるんですけど、恋愛感はどうしても日本人のマインドなので、そのあたりがどうなのか気になりますね。思いをストレートに言葉にしない春雄としゃべらない大野っていう、じりじりした恋愛感というのが彼らにどう映るのか、期待半分、不安半分だったりします。90年代のアメリカにおけるアーケードシーンを自分は知らないのですが、今度オタコン(「オタク・コンベンション」の略。北米最大級のアニメイベントの1つ)でお邪魔するので、そのころのことを聞いてみたいですね。
―― それでは最後に、今後の放送の注目ポイントを教えてください。
松倉 新たなヒロイン・小春が登場してからの春雄の動きに注目してください。あと、おっさんたちには、どんなゲームが出るのかみたいなところも楽しみにしてもらえると。ゲーム掘っていく仕事は個人的にも楽しいので、OPとかもそういう意味では掘りがいがあると思います。全部特定できたらすごいですよ。はめ込んだ自分でさえ分からないものもありますから(笑)。
「ハイスコアガール」キャスト&スタッフ
キャスト(敬称略)
矢口春雄:天崎滉平 ※崎はたつさき
大野晶:鈴代紗弓
日高小春:広瀬ゆうき
宮尾光太郎:興津和幸
土井玄太:山下大輝
鬼塚ちひろ:御堂ダリア
矢口なみえ:新井里美
業田萌美:伊藤静
じいや:チョー
大野真:赤崎千夏 ※崎はたつさき
小学校の担任:杉田智和
沼田先生:中村悠一
遠野先生:植田佳奈
小春の父:武虎
ナレーション:大塚芳忠
ガイルさん:安元洋貴
スタッフ(敬称略)
原作:押切蓮介(掲載 月刊『ビッグガンガン』スクウェア・エニックス刊)
監督:山川吉樹
シリーズ構成:浦畑達彦
キャラクターデザイン:桑波田満(SMDE)
CGディレクター:鈴木勇介(SMDE)
音楽:下村陽子
OPテーマ:sora tob sakana「New Stranger」
EDテーマ:やくしまるえつこ「放課後ディストラクション」
CGIプロデューサー:榊原智康(SMDE)
CGI:SMDE
アニメーション制作統括:松倉友二
アニメーション制作:J.C.STAFF
放送情報
TOKYO MX 7月13日(金)24時30〜
MBS 7月13日(金)26時55〜
BS11 7月13日(金)24時30〜
ATV 7月23日(月)25時28〜
Netflix 7月22日(日)から配信開始
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