アルコールで殺菌ができることは多くの人が知っているはず。注射を打つ前や調理器具の消毒など、実際に見かける場面も多い。
しかしよく考えてみると、人間はアルコールで酔いはすれど、よほど大量に飲まない限り死にはしない。それなのに細菌は死ぬというのはどういう原理なのだろう。
なお、化学の言葉を正しく使えば、飲んで楽しむお酒は「エタノール」という成分であり、その他メタノールやプロパノールといった似た構造の化合物の総称が「アルコール」である。
アルコールの中には細菌のみならず人間にとっても有害なものもあるが、この記事では「エタノールで人間は死なないが細菌は死ぬのはなぜか」について考えることにする。
細胞絶対殺すマン
結論から言うと、アルコールによって細菌が死ぬのは、アルコールが細胞の中に入り込み、生物に必要な仕組みを壊すから。以下、もう少し詳しく説明しよう。
エタノールをはじめとした分子が小さいアルコールは、細胞膜を簡単に通り抜けることができる。アルコールにはタンパク質の性質を変化させるはたらきがあり、細胞に入り込んで中の器官を変質させるため、細菌は死に至る、というわけだ。
また、細胞膜自体もアルコールによって破壊される。細胞膜が破れると中身が溶け出してしまうので、やはり細菌は死ぬ。アルコールで殺菌された細菌を調べると、多くの細菌で膜が破れているのが観察できるという。
これは細菌に限らず、動物の細胞にも当てはまるはずである。それなら人間もアルコールで死ぬのでは……?
多細胞生物の強さ
細菌は1つの細胞で生命維持に必要な全てをこなしているが、人間はそうではない。例えば皮膚なら、表皮の下に汗をかく細胞や脂肪が多く含まれる細胞が無数に集まっている。
だから、アルコールを皮膚に塗っていくつかの細胞が機能を失ったとしても命に関わることはない。
そもそも、皮膚や食道の表面などの細胞は、内部の細胞を守るために丈夫にできていることが多い。多細胞生物ってよくできているなあ。
つまり、アルコール消毒は、
- 多くの細菌・ウイルス(※)を殺せる
- すぐ乾く
- 人間にとってはほとんど無害
と、便利な殺菌法なのである。
※細菌やウイルスの中でもアルコールに耐性を持つものがあり、過信は禁物。
しかし、こうやって殺菌しているんだということを知ると、われわれは結構危ないものを飲んでいるんだ……と思わなくもない。酔ったらきっと忘れるけど。
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