アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの碇ゲンドウ役や、「世界の果てまでイッテQ」(日本テレビ系)のナレーションなど幅広い世代に知られる声優の立木文彦(たちき ふみひこ)さんが意気揚々と“ラップ”を歌い上げる――そんな挑戦的な映画「スモールフット」が全国公開中です。
「ミニオンズ」や「怪盗グルー」シリーズを手掛けた原作者と音楽スタッフの最新作は、人里離れた雪深い山頂で暮らすイエティが、伝説とされている“スモールフット”(=人間)を探す旅に出る“モジャかわ”ミュージックファンタジー。
同作の日本語吹き替え版で立木さんが演じるのは、イエティたちを束ねる長老的存在・ストーンキーパー。主要キャラが劇中歌を歌い上げる同作ですが、ストーンキーパーが歌うのはラップ。吹き替え版の人選が光ります。
立木さんといえば、空知英秋さんの漫画「銀魂」の“まるでダメなおっさん”ことマダオ(長谷川泰三)の声(アニメ版)だけでなく、8月に配信されたdTVのドラマ「銀魂2 世にも奇妙な銀魂ちゃん」では俳優として実際にマダオを演じたことも話題に。「イエティ役には以前から不思議な縁を感じていた」という実際は“マジでダンディなおじさま声優”立木さんにお話を聞いてみました。
“イエティを演じられる”というシンプルな喜びが自分の中にあった
―― 「スモールフット」のストーンキーパーという役柄に、どういった役作りをしていかれましたか?
立木 イエティ村をまとめる村長のような立場のストーンキーパーの優しさと村を治める威厳や責任感のようなものをどういった比率で表現していくかを見極めるところからはじめ、そこに重きを置きましたね。
変な言い方になりますけど、イエティとしての人間らしさ、長としてのリーダーシップを意識しました。一言発するごとに他のイエティたちが聞き耳を立てるせりふの出し方などを念頭に置いて。
―― そうしたイメージが固まっていると迷いも少なかったように思いますが、逆に難しかったことはありますか?
立木 “役に入り込む”という意味での難しさはなくて、むしろ楽しくやらせてもらいました。というのも、イエティは自分が昔から好きな存在なので、オファーをいただいたとき、“イエティを演じられる”というシンプルな喜びが自分の中にあったんです。登場するキャラクターたちの役柄や表現手法もですが、ストーンキーパーがその思想をラップで表現するのはオリジナリティーにあふれていると感じます。日本語版としての表現をラップでやることも当初は「これは一筋縄ではいかない」と思いましたが、一方で、大好きなイエティの役で、さらにラップという新鮮味に「やってやろう!」という気持ちにもなれましたね。
―― ストーンキーパーがラップに乗せて語る内容はある意味イエティたちが知らない真実で、劇中でも重要な意味合いを持っていますよね。それにしても、“立木さんがラップ”という文字面が既に面白いのがずるいです(笑)。字幕版ではストーンキーパーはラップ部分も含め世界的に知られたラッパー・Common(コモン)が演じていますよね。
立木 英語のラップは、リリックがラップに乗る美しさというか、完全に完成された美しいラップだと感じました。実は、ボイステストの段階では自分も英語でラップをやったんです。劇中で楽曲を歌ったことはありますけど、振り返ると今作のボイステストのサンプルをとるのが一番難しかったくらいです(笑)。
―― 邦訳された歌詞はどうでした?
立木 日本語吹き替え版でラップをやって思ったのは、「日本語としての美しさ」や「リズムに乗る日本語」がすごくハマった印象です。今回の経験を通じて日本語ラップは「深い!」と思いましたし、手前みそながらラップへの造詣を深めることができたように感じます。結果、日本語吹き替え版としてのオリジナリティーにもつながったように思います。
―― 立木さんは、森川智之さんとのユニット「2HEARTS」だったり、最近だとアイドルマスターの社歌(『嗚呼、情熱に星は輝く〜315プロダクション社歌〜』)を歌ったりと、歌手としても活動されていますよね。そうした経験も持つ立木さんがラップにはどんな思いがあるのでしょうか。
立木 社歌! よくご存じですね。まぁ社歌は語り、いや自分の中では叫びですが(笑)。ともあれ、ラップとの違いは感じます。特に今回目の当たりにしてしまいましたから。
“語り”はお仕事でも日常的にやらせていただいていて、ラップは語りがメロディーに乗っているくらいかなと考えていたところがあったんです。だから最初、「イージーにできるんじゃないか」と思っていた部分もありました。
と・こ・ろ・が! やはり難しかったですね。韻を踏んだり、リズムの強弱、言葉の捨てるところや置いていくところ、アピールするところ、語りにはないものがあるので。プロにご指導いただいて、大げさにいうと開眼しました(笑)。
―― 同作の音楽演出には元SOUL'd OUTのDiggy-MO'さんの名前がありました。プロの指導というのはそういうことなんですね。
立木 はい。タテノリで言葉を乗せていく感じのような技術的なものもそうですが、「譜面通りの正確なラップでなく、どこか語りに近い感じでしゃべる。立木さんのフレーバーでいいのではないか」といったことを強調して何度かおっしゃってくださったのはものすごくありがたかったです。先ほど、日本語吹き替え版としてのオリジナリティーという言い方をしましたけど、ラップの部分にもそうしたものが出せたのではないかと思います。
立木さん、ムー民だった
―― ちょっと脇道にそれますが、先ほど“イエティは自分が昔から好きな存在”とありました。イエティのようないわゆるUMA(未確認生物)に不思議な縁を感じているかのごとく立木さんが喜々としてお話しになっていてとても興味深いです。
立木 何でしょうね。自分も若いときは雑誌『ムー』を結構見てきたからでしょうか。
―― 立木さんが「ムー民」(『ムー』読者の愛称)だと……?
立木 存在するのかしないのか、写真には撮られているけど実際に遭遇した人はほとんどいない存在にはロマンを感じます。これからもミステリアスな存在であってほしいですね。
―― ちなみに、どんなミステリーワードが立木さんの琴線に触れるのでしょうか? イエティ、ネッシー、UFO、ツチノコなど……。
立木 一番はイエティですが、ツチノコは、自分は今でもいると思っているんですよ! UFOも確実にいる、いないわけがない。地球人だけだと思っちゃイカンですよ。
一番ミステリアスなのはネッシーですかね。空は宇宙も含めてとても広大ですけど、湖は相対的に限定的なエリアなので、そうしたところに不思議な存在がいるかもしれないというのはやっぱりロマンですね。
―― 立木さんとはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の碇ゲンドウ役だったり、実写でも登場してしまったドラマ「銀魂2」のマダオだったり、あるいは「世界の果てまでイッテQ」のナレーションだったり、何というか挑戦していくことにためらいがない印象です。そのモチベーションはどこにあるのでしょう。
立木 これは自分の中のミステリー……じゃないですけど、ここ数年、声優やナレーションのお仕事に“それ以上”を要求される場をいただくことが増えました。自分はこれを新しいことに挑戦させてもらっている有意義なことだと受け止めています。その全てに心残りがないよう全力でやりきるのが自分のモットーです。
年齢を重ねると守りに入りやすいとよく聞きますが、自分は攻撃的に挑戦していきたいという気持ちがMAXですね。「安定なき前進」を続けたいと思っています。
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