ある日、お風呂に入っていて気付いたが、バスルームはやたらと音が響く。
風呂場ほど家の中で音が響く場所はほかに思い付かない。例えば、似たような広さのトイレに対しては、音が響く場所という印象はあまりないだろう。
風呂場といえば音が響く、音が響くといえば風呂場。お風呂で歌ったりしたらこの上なく気持ちいいのだが、なぜこれほどまでに音が響くのだろう。風呂に何があるというのか。考えてみたい。
「音が響く」とは?
音は壁や物に当たると反射する。「やまびこ」のイメージだ。反射した音もまた壁に当たると反射し、この反射の連鎖は音が完全にエネルギーを失うまで続く。
この反射の回数が多いと、より長時間、何度も同じ音を聞くことになる。同じ音が繰り返し聞こえるとき、音は「響いている」と感じられるのだ。
どうすれば音が響く?
ということは、風呂場の音の響きが良いのは、音がよく反射するから。では音が響きやすい条件とは何だろう?
主な条件は「狭いこと」と「壁が硬いこと」の2つだ。
まず「狭いこと」。音は伝達距離が長くなるに従って急激に(距離の2乗に反比例して)弱くなる性質がある。壁と壁の間が離れていると、音が反射を繰り返す前に拡散してしまうので、音は響きにくくなる。
そして「壁が硬いこと」。柔らかい材質の壁はクッションのように音の威力を吸収してしまうので、反射効果が弱くなる。例えばコンクリートのトンネルの中で音を発するとよく響くが、それはコンクリートが硬い材質だからだ。
もっとも、音の響きを左右する要素はここに挙げたものだけではなく、コンサートホールなどを設計する際は「美しく響かせる」ための工夫を多く取り入れている。ここでは単に音の反射という点にスポットを当て、響きへの作用が分かりやすいものを取り上げたと考えていただきたい。
以上の2つを満たすのが音が響く空間といえるが、風呂場はどうだろう。面積に関しては家によってマチマチだろうが、我が家はお風呂が一番広いんです! という家はそんなにないと思う。また壁の材質に関しても、風呂ではタイルなどの硬い素材が使われやすい。一方、冒頭で挙げたトイレは似たような広さでも壁が柔らかいことが多く、その分音が響かない。こう考えれば風呂場で音がよく響くのも納得である。
湯気ムンムンだと音が響く?
それから、あくまで体感レベルなのだが、同じ風呂場でも、中が乾燥している状態よりもお湯を出して湯気で満ちているときの方が音がよく響く気がする。これは気のせいか?
音が空気中を伝わる速さは空気の温度と湿度によって変わり、温度が高いほど、また湿度が高いほど速くなる。つまり湯気ムンムンの風呂は音が速く伝わるのだ。
現に夏季と冬季では夏季のほうが、晴天と雨天では雨天のほうが音の減衰が小さいという報告もあり、バスタイムにより音が響くというのはただの錯覚ではなさそうである。
お風呂で音がよく響くことについて調べてみると、やはり勘違いではなく科学的な理由があった。
読者の皆さんもあらためて、お風呂で歌ったり手をたたいたりして音の響きを確かめてみてほしい。近所迷惑にならない程度に……。
参考文献
これだけは知っておきたい音響工学(その1) -1/rの法則-
吉久光一, 岡田恭明, and 龍田建次. “音の長距離伝搬に及ぼす空気の音響吸収の影響―年間の気象観測データを用いた検討―.” 騒音制御 28.4 (2004): 256-263.
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