恋愛は告白した方が負け! 「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」(原作/アニメ)は、相手から自分に告白させるためにあらゆる知力体力を用いて戦うエリートたちを描いたラブコメディー。とっても愛しくてとっても面倒くさい少年少女の、青春の無駄遣い物語。
彼と彼女の性知識観
財閥の令嬢にして生徒会副会長、四宮(しのみや)かぐや。努力家の生徒会会長、白銀御行(しろがね・みゆき)。2人は自らの意地とプライドにかけて、自分からは告白しない、相手に告白させる、と心に決めて戦い続けている間柄。
アニメ3話は、かぐやの置かれた複雑な境遇が見える回。そして御行に惚れざるを得ない回です。
清廉潔白容姿端麗眉目秀麗なかぐやと御行。割とお硬い学校の会長・副会長の2人は、生徒からの憧れの的。よもや煩悩なんて抱いていないんじゃないかくらいに思われていますが、そこは思春期の男女、煩悩はあります。あんな事やこんな事をしたいかぐやと、ドエロい事をしたい御行。なんかホッとします。
ただしよく見てほしい。御行が割と直球なのに対して、かぐやの「あんな事やこんな事」はぼかしすぎていてなんのことかわかりません。これが後に大変な大惨事を招くことに……。
没収になったティーン向け雑誌を見てしまったかぐや。そこに書かれていたのは「初体験はいつだったアンケート」。あるある。どうやって集計しているんだろアレ。藤原書記は純粋っ子なので、これには赤面。「そんなにしてるハズありません!」と絶叫。
ところがかぐやは、思わぬ反応を取ります。
藤原書記「まさかとは思うのですがかぐやさんはその……経験あるんですか?」
かぐや「はい だいぶ前に」
これは、NTRシチュ……! 結論としては「かぐやは初体験の意味を知らない(キスだと思っている)」「御行が焦っているのを見て、有利を取ったつもりになっている」という2つの面で余裕を見せているだけ。
こういう性的な「経験あるなし」はなぜ、意地を張りたくなるんでしょうね人類は。このあたりを謙虚になれる人種なら、かぐやと御行もすんなり告白しているでしょうから、然るべき展開だったとは思います。ただしその分、勘違いした時の恥と言ったら無い。
ここで大失敗し、「初体験」の真実を知ったことで大きく成長したのでした。涙目になるほどの恥をかくという代償を払って。ここできつい役回りをちゃんと担って、16分に渡る性教育を行った藤原書記は、本当にいい友達だと思います。
かぐやとしては穴掘って埋まりたい大惨事。けれどもこれで、御行はかぐやの重要な部分を知ることが出来ました。ウブだ、ということもそうですが、かぐやが外側を知らないほどの箱入り娘だということです。
プライドの高い彼女だから、いろんな事を知ったかぶりするかもしれない。だからなおのこと、いろんな人に自分のことを真の意味では知ってもらえていない。そして周囲も彼女に世界の真実を教えていない。それって、とてもさみしいことだ。
知らない世界
かぐやは財閥の長女。あらゆるものから守られ、仕えの者が四六時中ついている。けれどもそれと「愛されている」のは別物。
学校に行く時も運転手付きの車で送り迎え。2574回車の窓から外を見ているそうです。単純計算すると小学校1年生の時から高校生の現在まで、全て車登校なのがわかります。
そんな彼女が、人生で初めて、歩いて登校をしました。
「徒歩で学校に行ける機会なんてもう無いかもしれない……」というかぐやの言葉がヘビーすぎる。この登校は彼女にとって冒険であり、たった一度のチャンスです。目的は、御行と一緒に登校すること。彼とタイミングを合わせるために時間を調整する乙女っぷりを見せます。
しかし途中で、泣きじゃくる小学生に遭遇。放っておけないあたりが、かぐやの根の優しいところ。
「ひとりはいや みんなと一緒がいい!!」と泣く少女にあきれていたかぐや。
でも「ちゃんとしてた」って、なんだろう。自分はずっと車の中にいて、みんなが仲良く登校していたのを見ているだけ。
かぐやは、自分のさみしい感情について、まだ理解しきれていないようです。あるいは、わかっているけれどもフタをして押し殺しています。本当は、自分はどうしたいのだろう。「ちゃんとする」のは、自分の気持ちに嘘をついて我慢することなのか、あるいは、はっきり形にして、言葉で表現することなのか。
このあたりが不器用なので、告白もできないし、人にうまく優しくすることもできない。周りにもなかなか、本当の気持ちを理解してもらえず、「高嶺の花」扱いされてしまい、気づいたら孤立してしまっている。
人間は、自分を知ってもらうには、言葉にしなければいけない生き物。でも気持ちを発言できない環境にいるもんだから、かぐやは諦めるしかない日々を送りかけていたようです。
そこに、本当に偶然にも、御行が彼女の前を通り掛かりました。
御行は、遅刻しないために道交法を破って二人乗りをする、という無茶理論でかぐやを後ろに乗せ、自転車で爆走しました。
初めての自分の意志での外出。初めての規則違反。初めての憧れの二人登校。あらゆるものからかぐやが解き放たれた瞬間でした。もちろん規則を破るのはいいことではないけれども、家の規範にがんじがらめになっていた彼女にとって、この「自由」の体験は大きな意味があったはずです。
あなたのことをよく知りたい
御行は天然なところがあるので、自転車二人乗りはあまり打算のようなものはなく、素なんでしょう。
ただ彼は心の奥の部分で、かぐやがいろんなものを押し殺した人間になろうと徹し、今は少しずつ丸くなってきているのに気づいています。
かぐやは今まで、自分の気持ちを言っていません。自分の置かれた環境の話も、寂しさも、ましてや恋心も。お互いが「好き」を言わないように計算しあっているせいでもありますが、かぐやの場合はもうちょっと事情が複雑。
言葉にしないと伝わらない、人間の気持ち。でも御行はかぐやを見続けてきたことで、聞かなくてもかなり見抜いています。真っすぐな部分も、ひねくれた部分も。
たいていコミカルなオチにはなるけれども、それも含めて御行にはかぐやの気持ちが伝わっている。これは家にとらわれた彼女にとって、救いの光です。藤原書記のゴリ押しなかぐや好き好きも……いや、あれは何も考えていない可能性もあるのかな……。
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