同人誌2冊目で商業デビュー。ボーイズラブ界に“ときめきの嵐”を巻き起こした芸能BL漫画『25時、赤坂で』(2/4 ページ)
「ボーイズラブ界の新しい宝石」夏野寛子先生にインタビュー。1話出張掲載もお届け。
大切にしたのは、キャラのリアクション
――夏野さんの萌えるカップリングって、どんなものですか?
夏野: 「才能」の有無や種類に焦点があたっている作品に惹かれやすいかな……。受け攻めの関係でいうと、攻めのほうが一枚ウワテなのに萌えます。でも、受けは受けで「攻め特化型の武器」を持っているようなふたり。
――麻水と由岐も、いざというときには由岐がねじ伏せにくるかっこよさを感じました。
夏野: 受けに「強くあれ」と声をかけながら、描いています。
――『25時、赤坂で』のストーリーは、どうやって固まっていったんでしょう。
夏野: 単行本一冊におさまるように大きなイベントを考えて、あとは1話ごとに打ち合わせして都度決めていきました。意識したのは、どういう展開になるとキャラクターが魅力的になるかです。「こういうことが起きたら、この人はどういう反応をするんだろう?」と考えながら、ストーリーを組み立てていきました。
――実際に描いていく際は、プロットからつくるんですか?
夏野: プロットと呼べるかどうか怪しいくらいの簡単なメモがあって、それを元にネームをしながら考えるという感じです。100均で買ったノートにいろいろ描いてみて、思考を整理しています。絵からせりふから何でも描いておくので、あんまりキレイに使えない……(笑)。A5とB5を用意して、そのときの気分で使い分けています。
――梶川さんは、打ち合わせでどんな話をするんでしょう?
梶川: 作家さん本人が何を描きたいかが大事なので、私の役割は「何をしたいか」「受け攻めどういうキャラがいいか」を聞くことです。夏野さんとの打ち合わせは、夏野さんにたくさんしゃべってもらって、それを脳内にインストールして、映画館のように上映し、「こういうことで合ってますか?」と返します。「ここからはノープランなんだな」ってわかったときは「こうしたら?」って提案することもあります。
夏野: 「このシーンはもうちょっと長く読みたいですね」といった意見をいただけるのもありがたかったです。それを繰り返すことで、自分の中でも感覚がつかめていきました。
もったいぶらずに「ときめきの嵐」を巻き起こす才能
――あらためて、漫画家になって良かったことを教えてください。
夏野: 単純に、お会いする方がみんな漫画好きなので、漫画の話をたくさんできることがうれしいです。私、これまでは漫画やBLが好きなのを隠していたので……。
――美大って、自分が好きなものの話をオープンにしているのだと思っていました。
夏野: 私の性格が内向的だったんだとは思います。学部にいた4年間は、かっこつけて作品をつくっていたなあとも反省していて。「私はおしゃれなものだけが好きです」って顔をしたかったんですけど全然ダメでした。やっぱりそれだと続けられないんですよね。
吹っ切れたのは、大学院に入ったころ。「もうどう思われてもいいや」と、美少年をモチーフにした作品をつくったんです。その後できた友人からは「あの作品見て、この人オタクだと思ったから声かけた」と言われました(笑)。
――オタバレがいい方向に作用している! 一方、漫画家になって、大変だったことはありますか?
夏野: 漫画を描くのは大変だってわかっていたんですけど……描いても描いても大変ですね。描いて「わかる」こともいろいろあるんだけど、結局大変なんだということがわかるだけともいう……。
身にしみているのは、単行本作業の大変さです。大変だとは聞いていたけど、読み手だった頃はいまいち何をしているか想像できなくて。たまにお手紙で「単行本作業が大変だと思いますが」と描いてくださる読者の方がいて、「この人はどうしてそのことを知っているんだ!?」と驚いています(笑)。
――息抜きはありますか?
夏野: ドラマですね。今クールは「初めて恋をした日に読む話」が癒やしです。イケメンの男の子が「すっごいイケメンです!」というていを貫いて演じてくれているのがすがすがしくて気持ちいい。主演の深田恭子さんも本当に良くて。あんなにかわいいのに「おばさんって言わないで!」と返すときのアラサー女子感が絶妙なんですよ。結局作業しながら見てしまっているので、あんまりうまい息抜きにはなってないのが悩みですが……。
梶川: 編集からすると、新しいものをどんどん摂取してくださるのがとてもありがたいです。夏野さんの魅力って、「ときめきの嵐」をもったいぶらずに何度でも巻き起こしてくれること。それはご自身もさまざまな作品からときめきを得ているからこそだと思うんです。王道っぽいBLを描いてもどこかおしゃれな大人っぽさが出るのも、さまざまな作品を摂取していることで培ったバランス感ゆえだと感じます。
――ときめきの嵐、非常によくわかります。今後の執筆予定は決まっているのでしょうか?
夏野: 2月の「on BLUE」から、『25時、赤坂で』の続編連載がスタートします。こんなにたくさんの方に読んでいただけるとは思っていなかったので、こうして続編を描けることにも新鮮に驚いているし、感謝しかないです。今後もエンタメ性を大切にしながら、描いていきたいです。
梶川: いちゃいちゃしてるシーンもありますよ!
――楽しみにしています!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「空気を読みすぎたOL」の限界、退職、そして―― アラサー女子マンガ『凪のお暇』に男たちもハマる理由
作者のコナリミサトさんにいろいろ聞いてみました。試し読み付き前後編でお届けします! - 「私は大変なことをしている……」 漫画『私の少年』を描くうちに気付いたこと
2018年5月末にヤンマガへ電撃移籍。作者と現担当に近況を聞いた。 - 口コミからスマッシュヒット。自分探しタップゲーム「ALTER EGO」が生まれるまで
カラメルカラムの大野真樹さんにインタビュー。 - 「不倫ものって、基本的に腹が立つんですよ」 不倫×SFマンガ『あげくの果てのカノン』完結までの作者の苦悩
一途女子×不倫×SF。新タイプの“地獄”を切り拓いた同作の完結記念インタビューを実施した。 - 推しがマイナーなオタク女の苦悩を漫画に 『しもべ先生の尊い生活』作者が語る「好きすぎてつらい」の感情
講談社より電子版限定で販売中のオタク女子漫画。制作の裏側を漫画付きでお届けします。